第3章 C型肝炎特別措置法に引き裂かれる人たち

北村健太郎(立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー)

1 議員立法に至るまでの経緯
 「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」(以下、C型肝炎特別措置法)が、2008年1月8日に衆議院本会議で、1月11日に参議院本会議で可決成立した。本法の成立によって、いわゆる薬害C型肝炎訴訟は一定の決着をみた。しかし、本法が急ごしらえの法律であることは否めない。本稿の目的は、第一に、同法が1月7日に衆議院に提出されて11日に参議院で可決されるまでの経過を述べること。第二に、本法及び立法による訴訟終結の問題点を析出することである。なお、C型肝炎特別措置法、ひいては薬害C型肝炎訴訟の論点を考察するとき、「全員」「一律」「一括」「救済」「全面解決」「切り捨て」「線引き」等々、その含意の吟味が必要な用語が多数あるが、本稿では用語の吟味は保留しておく。
 2007年11月7日、大阪高等裁判所(以下、大阪高裁)は薬害C型肝炎訴訟の和解勧告を行なった。これを受けた薬害C型肝炎原告団・弁護団は、薬害肝炎訴訟全国弁護団ホームページで「国は、薬害肝炎問題の全面解決を契機として、直ちに350万人のB・C型肝炎患者の治療費助成などの対策を踏み出すべき」という声明を発表。22日、薬害C型肝炎原告団・弁護団は大阪で緊急抗議集会を開催し、「薬害肝炎の全面解決のためには、全員救済、すなわち、血液製剤の種類や投与の時期によって、救済から切り捨てられる被害者を出すことは許されません」と強い決意を表明した。12月10日の総理政治決断要請行動では「薬害肝炎被害者の全員救済に向けて、今こそ総理大臣の正義にかなう政治決断が必要」と訴えた。15日、政府は13億円の基金で全員救済を図る和解案を提示するが、原告団・弁護団は拒否。20日、政府は30億円を基金とした和解修正案を大阪高裁に提出したが、原告団・弁護団が拒否し、和解協議は暗礁に乗り上げた。21日、大阪高裁は第二次和解案の検討に着手。23日、福田康夫総理大臣は、議員立法による「全員一律救済」を表明した。福田総理の意向を受けた自由民主党(以下、自民党)・公明党の肝炎対策プロジェクトチームは、議員立法の骨子策定に取り掛かった。28日、弁護団と与党プロジェクトチームの間で合意に達した。この時点では、原告団に本法案の趣旨説明はされていない。
 後に、本法が「限定的な給付金の手続き法」であることが明らかになるが、2007年末の時点では「全員一律救済」という含みが多分にあった。これは合意に至るまでの過程で、「全員救済」という原告団・弁護団の主張がマスメディアによって喧伝された影響である。そのため、法案の内容をめぐって、年明けに多数の人たちが関わることになる。以下、1月7日の法案提出から1月11日の可決成立までの経過を述べる。

2 C型肝炎特別措置法案をめぐる長い一日
 2008年1月7日、C型肝炎特別措置法案(衆法23号)が自民党の「谷垣禎一君外17名」の与党議員によって衆議院厚生労働委員会に提出された。
 同日午後2時、「民主党B型・C型肝炎総合対策推進本部第24回会合」(以下、民主党肝炎対策本部)が開かれ、「与党提出肝炎被害者救済法案及び今後の肝炎対策についてヒアリング」が行われた。このヒアリングには、薬害C型肝炎訴訟原告の出田妙子と福田衣里子、日本肝臓病患者団体協議会(以下、日肝協)事務局長の高畠譲二、血友病や先天性フィブリノゲン欠乏症など先天性凝固異常症の患者10数名、血液製剤投与記録のカルテを持たないC型肝炎患者でつくる21世紀の会代表の尾上悦子が出席した。尾上は、民主党肝炎対策本部に対して、以下に示す「「薬害肝炎救済法」などについての要望書」を提出した。

 1万人とも言われるフィブリノゲン製剤によるC型肝炎ウイルス性肝炎患者の期待の中、昨年12月28日、与党の「薬害肝炎救済法(骨子)」が公表され、今国会中に成立する見通となっています。
 私どもは、薬害肝炎被害者の救済のための法整備を心から歓迎しています。成立する法は、血液製剤「フィブリノゲン」危険性を知らされることなく投与された者すべてに対し、命と健康の犠牲に対する保障と、今後の生活と治療を約束するものにしていただきたいと思っています。
 昨年末の薬害肝炎訴訟の原告と政府・厚労省との和解へ向けた折衝、同法の議員立法成立への動きが報道される中、これまで感染に対する保障と治療をあきらめていた患者・家族の中には、同法に期待を高めると同時に、「投与を証明するカルテが入手できない」、「医療機関の協力が得られない」ことから、「裁判所で私は被害者として認定されるのだろうか」という不安も広まっています。
 私ども、21世紀の会などの患者団体や薬害肝炎訴訟弁護団には、同様の相談が殺到していますし、現に「救済は約千人、救済されない被害者は1万人」との報道もあります。
 「薬害肝炎救済法」案前文に記されたように、政府が「感染被害の方々に甚大な被害が生じ、その被害を防止し得なかったことについての責任を認め、感染被害者の方々に心からおわび」するのであるならば、その責任とおわびの心にふさわしく、フィブリノゲン製剤による感染被害者全員の救済が保障されなければなりません。
 つきましては、薬害肝炎救済法に以下の内容が盛り込まれるよう、心からお願いするものです。
 民主党として法に盛り込むようご努力いただきたいこと
 1 裁判所による、「投与の事実」、「因果関係」、「症状」の認定に際しては、保存義務が5年とされているカルテの有無だけを元に判断するのではなく、手術記録、投薬指示書などのその他の書面や医師や看護師、薬剤師などによる投与事実の証明、また、本人や家族、第三者による記録、証言なども認定の根拠として認めること。
 2 フィブリノゲン製剤の製薬企業と使用した医療機関に対し、被害者の申し立てを受けた場合、投与事実を証明する資料、証言の確保につくさなければならないことを、義務として明記すること。
 3 フィブリノゲン製剤納入医療機関で治療を受けた患者の追跡調査を行う義務を明記すること。
 4 被害者に最良の治療体制と、安心して暮らせる環境を保障する肝炎対策恒久法を早期に策定すること。

 B型肝炎訴訟原告団代表の木村伸一は会合に出席できなかったため、ファクシミリでメッセージを寄せた。

 昨年6月16日の最高裁判決により、B型肝炎患者の多くは国の行なった集団予防接種に因り感染をさせられた被害者であります。/にも関わらず、国の対応は薬害C型肝炎患者に限り、B型肝炎患者には関わる事を避け、我々からの訴えや申入れに対しても無視ともとれる対応しかされていません。/これは極めて異例、遺憾な対応です。/我々は現状を変えるべく、更なる集団予防接種が感染原因であるB型肝炎患者を集め、早急に提訴を行います。/厚生労働省、国は速かに我々に対する対応、対策に取組み、実現すべき義務、責任があり、又我々はそれらを受ける権利があります。/騒がれ無い状況を都合よく考え、関わる事を避け、逃げている厚生労働省、国の対応は非常識極まり無い、許され無い事です。/今正に肝臓癌と闘っている原告、患者や今はこの世に居ない原告や患者の方々に私は顔向けできません。

2008年1月7日
B型肝炎訴訟原告 木村伸一

 午後3時、本訴訟弁護団から原告団へ本法案の趣旨説明がなされ、午後4時ごろ、本訴訟原告団の記者会見が行われた。それが終わった午後5時過ぎ、先天性凝固異常症の患者らが記者発表を行ない、河野洋平衆議院議長及び江田五月参議院議長に対して「「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」案に対する意見書」を提出したことを報告し、意見書の趣旨説明がなされた。以下、意見書の全文である。

 このたび、いわゆる「薬害C型肝炎訴訟」の解決(全面和解)を目指し、表記法案が与党(自民党・公明党)によって議員立法され、野党各党も概ね賛意を表明する中、迅速な成立の見込みと伝えられております。本訴訟においては、フィブリノゲン製剤、第IX因子製剤をはじめとする血液製剤(血漿分画製剤)によるC型肝炎感染が焦点となっております。
 私たちは、血友病、先天性フィブリノゲン欠乏症など先天性凝固異常症の患者として、本訴訟に直接容喙するところではありません。しかしながら、長年に渡り、今般問題となっている当該製剤及びそれに準じる製剤を凝固因子補充治療のために使用してきた者として、強い関心とともにその経緯を見守ってまいりました。
 これらの血液製剤(血漿分画製剤)は、現在ではさまざまな対策の実行により安全の確保が図られておりますが、1975年以来、正式な政府の検討会等において、安全な献血による国内自給の実現が繰り返し求められていながら、よりリスクの高い買血プール血漿、あるいは輸入血漿が原料として使用されるなど、不十分な血液事業、血液行政によってもたらされた弊害により、多くの患者達は HIV、HCV、HBV等々の病原体に暴露・感染し、原疾患に加えての闘病を余儀なくされています。
 しかるに、本法案においては、当該製剤投与によってC型肝炎に感染した人々が「感染被害者」──救済の対象とされてはいるものの、その被害範囲は「後天性の傷病に係る投与」によってC型肝炎に感染した者及びその遺族に「特定」されています。従来、私たちは、自らの血液製剤使用によるC型感染をいわゆる「被害」として訴え出てはおりませんが、このような法案の条文において、私たち先天性凝固異常症患者の感染事実を容認すべき当然の結果と位置づけるがごとき内容が規定されることは、由々しき事態と考えております。
 少なくともこれまで、フィブリノゲン製剤によって HCVに感染した先天性無フィブリノゲン血症患者をはじめとする血友病類縁疾患患者63名、第IX因子製剤によって HCVに感染した血友病B患者443名、加えて、それらに準じる第VIII因子製剤によって HCVに感染したフォンウィルブランド病患者120名、同じく血友病A患者2042名の(投与の事実確認も容易な)存在は、明白かつ厳然たる事実です(※1)。これらの感染者をもとより排除するような法律の策定により、「薬害肝炎訴訟」をもって代表される肝炎問題の全面的解決とすることは、前文に述べられた「人道的観点から、早急に感染被害者の方々を投与の時期を問わず一律に救済する」との目的とは著しく離反しており、法の下における公平性にも悖るものであります。また、同時に、これまでの行政と患者との関係性をも大きく覆す内容であり、私たちとして、到底看過し得るところではありません。
 「薬害C型肝炎訴訟」の解決を目指すために迅速な成立が期待される法律であるとはいえ、併せて、先天性凝固異常症の患者の存在・尊厳を踏みにじるにも等しい内容の法律となるような事態は、絶対に避けられなければなりません。「国民病」「医原病」とも呼ばれる肝炎と闘うあらゆる人々に対する分け隔てのない手厚い支援の招来をも期すべく、本法案の審議に当たりましては、血液製剤等々による総てのC型肝炎感染者に対する実質的な救済及び支援を国民に約束する国会決議の実行などの対応を強く要望致します。

以上

 ※1 血液凝固異常症全国調査運営委員会による「血液凝固異常症全国調査」平成18年度報告書から(生存者のみ)

 この先天性凝固異常症の患者たちの記者発表を境に、「全面解決」「全員救済」一辺倒だったマスメディアの論調が微妙に変化する。そして、本法で「救済」されない人たちがいることが報道され始めた。

3 両院の厚生労働委員会の質疑及び決議
 1月8日、午前8時30分から衆議院厚生労働委員会が開かれた。次第は、法案の趣旨説明、参考人意見陳述、参考人に対する質疑、法案提出者及び政府に対する質疑。出席した参考人は、薬害肝炎全国原告団代表の山口美智子、日肝協事務局長の高畠、B型肝炎原告団代表の木村、京都ヘモフィリア友の会(以下、洛友会)会長の佐野竜介の4名である。
 4人への質疑の後、法案は提案者の与党議員が法案を撤回し、衆議院厚生労働委員長の茂木敏光(自民党)による委員長提案となった。先天性凝固異常症の患者たちが意見書で指摘した与党議員法案の「後天性の傷病に係る投与」は、委員長提案では「獲得性の傷病に係る投与」に差し替えられた。この文言の変更は、先天性凝固異常症の患者たちの追及をかわそうという意図からと思われる。文言の相違があっても、同義であることに違いはない。その後、全会一致で可決された。その際、衆議院厚生労働委員会において「ウイルス性肝炎問題の全面解決に関する件」という付帯決議がなされた。

 特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎ウイルスの感染という薬害事件は、多くの被害者を生んだが、これ以外の要因によるウイルス性肝炎感染者も多数おり、それらの方々は症状の重篤化に対する不安を抱えながら生活を営んでいる。このような状況を踏まえ、政府は、「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」の施行及び今後の肝炎対策の実施に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
 一 「投与の事実」、「因果関係」及び「症状」の認否に当たっては、カルテのみを根拠とすることなく、手術記録、投薬指示書等の書面又は医師、看護師、薬剤師等による投与事実の証明又は本人、家族等による記録、証言等も考慮すること。
 二 法律の施行の日から五年に限られている給付金の支給の請求については、施行後における請求状況を勘案し、必要があると認めるときは、その期限の延長を検討すること。
 三 約三百五十万人と推計されているウイルス性肝炎患者・感染者が最良の治療体制と安心して暮らせる環境を確保するため、医療費助成措置等の早期実現を図ること。
 四 先天性の傷病の治療に際して血液製剤を投与されウイルス性肝炎に感染した者への必要な措置について、早急に検討すること。
 五 特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤以外の血液製剤の投与によるウイルス性肝炎の症例報告等を調査し、その結果を踏まえて受診勧奨等必要な措置について、早急に検討すること。
 右決議する。

 法案は同日午後の衆議院本会議に送付され、全会一致で可決成立した。その日のうちに茂木を提出者として、参議院に送付された。
 1月10日、午前10時から参議院厚生労働委員会が開かれた。次第は、衆議院と同様である。出席した参考人は、薬害肝炎原告団代表の山口、長野赤十字病院院長の清澤研道、B型肝炎原告団代表の木村、洛友会会長の佐野の4名である。木村は、委員会質疑にあたって「「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」案に対する意見」を作成した。

 B型肝炎患者については、ご承知のように、2006年6月16日、最高裁判決において、B型肝炎感染に関して、集団予防接種における国の責任を明確に認めました。
 しかし、私たちは、判決後、厚生労働大臣と直接面談を求め、国として、謝罪していただくこと。また全国のB型肝炎患者の救済を求めて、数回にわたって、厚生労働省健康局との交渉を重ねてきましたが、未だ厚生労働大臣との面談は実現していません。しかもその都度の厚生労働省の回答は、国の責任は5名の原告のみにかかわるもので、それ以外は関知しないとい〔ママ〕ものです。
 最高裁判決が指摘した過去の予防接種行政に対する過ちについて、その後の諸対策は示されたのでしょうか。是非、大臣に直接面談しお話しをさせていただきたい。
 今、全国に約350万人いると思われるB型・C型ウイルス肝炎患者のその多くは、国の杜撰な医療行政の犠牲者であると推定されます。先進国にまれな大量のウイルス性肝炎患者を生んだ責任が国にある以上、国は患者救済のための政策を施行することは当然であります。
 しかし、今回の法律案は、特定の血液製剤によるC型肝炎感染を薬害とし、特定の感染被害者とその遺族への救済法となっています。これではウイルス性肝炎被害のすべてを対象とするものにはなっておりません。
 是非、今国会で審議されている与野党の「肝炎法案」の審議を進めていただきたいと考えます。インターフェロンが適応にならない患者も多数存在するなか、他の治療薬や治療法も含め、すべてのB型・C型感染患者に対する医療費助成及び肝炎総合対策の推進を切にお願いする次第です。

 4人目の参考人に立った佐野は、以下のような意見陳述をした。

 裁判の和解とは、いったいどんなものでしょうか。「当事者間に存在する法律関係の争いについて、互いに譲歩し、争いを止めることである」と定義されているようです。薬害肝炎訴訟において、このような「和解」を目指し、今回この法案が提案されたと理解しております。ところが、この法案の条項には、この訴訟の全く当事者でない者が、なぜか極めて不利益を被る内容が含まれています。
 当事者でないものとは、私たちです。
 法案の前文には「フィブリノゲン製剤及び血液凝固第IX因子製剤を投与されたことで、C型肝炎ウイルスに感染するという薬害事件が発生し」とあります。しかし、条文では「獲得性の傷病に限る」とされています。
 これは裏返しますと、先天性疾患の患者は、今回の原告の方と同じ製剤を使い、同じようにウイルスに感染し、同じように苦しんできたのにも関わらず、その感染被害を甘んじて受け入れるべきである、つまり薬害ではないと否定されてしまうことになるのです。血友病Aとフォン・ヴィルブラント病の治療に使われる第VIII因子製剤も、条文にないのですから、同じ扱いになります。
 私たちは、自分たちの感染被害が薬害であると、そもそもまだ世に問うておりません。
 私たちは常に血液の問題にさらされており、とりわけHIV感染禍があったなかで、C型肝炎の被害問題に立ち向かうことは、色々な意味で極めて難しい状況であります。また、先天性無フィブリノゲン血症の患者は、HIV感染はなかったようですが、患者数が全国で50名弱と極めて少数、しかもその7割近くが女性、組織的活動もできず、孤立している状態です。
 このような中、声も上げられないのに、「お前たちのは薬害ではない」と宣告する、これは何とも不条理です。後ろから包丁で見ず知らずの人間から突然刺されるような、もっと正確な例えをすれば、戦場にまだ出ていないのに、流れ弾が雨あられと飛んでくるような、そんな想いがいたします。
 また、今回の法案をめぐって、「救済」という言葉が山のように使われました。「一律一括救済」とも言われました。その結果、その意味が訴訟を経た損害賠償としての「救済」なのか、医療費の公的助成としての「救済」なのか、そしてその対象が誰なのか、全くはっきりしなくなったのではないかと感じられます。
 もし、今回語られる「救済」「一括救済」が前者の「訴訟を経た賠償」であれば、今回の法案の対象は限定的なので、全ての肝炎患者は次々に提訴せよ、ということになってしまいます。まさかそんな勧めを皆様がされているのではないと思います。
 つまり、今回の法案が出てきたことで、全体の肝炎対策としては、極めてバランスが悪くなってしまうのです。
 何が原因で感染したかに関わらず、深刻な病状に苦しむ患者の立場に違いはありません。賠償としての給付金が出ない患者さんについて、どのように救済しようというのか、それをお示しいただくことが必要と存じます。また、その場合、肝硬変、肝がんへという病状の進行への配慮も必要だと思います。
 参議院は「良識の府」といわれます。委員の皆様方には慎重な上にも慎重なご審議をお願いしたいと存じます。

 4人への質疑が終わった後、全会一致で可決された。そして、C型肝炎特別措置法案と別個に、委員会決議として「肝炎対策における総合的施策の推進に関する決議」が全会一致で決議された。

 我が国では、国民があまねく近代的な医療の恩恵を享受し得るよう社会環境の整備が進められ、これまで先端技術に基づく医薬品・医療機器によって多くの患者の生命が救われ、また予後の改善がもたらされてきた。
 その一方で、サリドマイド、スモン、薬害HIV感染、医原性クロイツフェルト・ヤコブ病感染という医薬品・医療機器による悲惨な事件も経験し、そのたびに薬害根絶及び被害防止が訴えられ、これを受けて感染症予防医療法をはじめ諸施策が実施されてきた。それにもかかわらず、B型肝炎ウイルス感染・C型肝炎ウイルス感染という重大な事件に直面することになった。多数のウイルス性肝炎患者・感染者は、多様な症状に苦しみあるいは症状の重篤化に対する不安を抱えながらの生活を余儀なくされている。
 我々は、血液製剤フィブリノゲン等により、C型肝炎ウイルスに感染した被害者やその家族の肉体的・精神的苦痛を取り除くために、一日も早く対応策を講ずるとともに、これらを含めたウイルス性肝炎患者・感染者の健康回復等の対策に最善の努力を行う必要があると考える。
 今般、いわゆる薬害C型肝炎訴訟については、「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」を制定することによって一応の解決をみることができるが、これはウイルス性肝炎被害のすべてを対象にするものではなく、本法の施行によって肝炎問題が終了するわけではない。
 政府においては、これまでの薬事行政の反省に立って、速やかに次の事項について措置を講ずるべきである。
 一、薬害C型肝炎訴訟の全面解決に向け、血液製剤に起因するウイルス性肝炎患者・感染者を含め、すべてのウイルス性肝炎患者等に対する総合的な肝炎対策に政府を挙げて取り組むこと。
 二、過去における血液製剤に対する調査を速やかに実施するとともに、投与事実の証明に関するカルテその他の記録確保等のために必要な措置を実施すること。
 三、肝炎ウイルス検査の質の向上と普及を促進するとともに、肝炎医療に係る専門知識・技能を有する医師等の育成及び専門的な肝炎医療を提供する医療機関の整備・拡充を図ること。
 四、約三百五十万人と推計されているウイルス性肝炎患者・感染者が最良の治療体制と安心して暮らせる環境を確保するため、医療費助成等の早期実現を図ること。
 五、肝炎に関する治療方法の充実・普及を図るとともに、治療薬等の研究開発の促進を図ること。
 六、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の体制の点検を行い、健康被害救済、審査、安全対策等のための整備・強化に努めること。
 七、特別措置法の施行の日から五年に限られている給付金の支給の請求については、施行後における請求状況を勘案し、必要があると認めるときは、その期限の延長を検討すること。
 八、先天性の傷病の治療に際して血液製剤を投与されウイルス性肝炎に感染した者への必要な措置について、早急に検討すること。
 九、特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤以外の血液製剤の投与によるウイルス性肝炎の症例報告等を調査し、その結果を踏まえて受診勧奨等必要な措置について、早急に検討すること。
 十、肝炎に関する総合的な対策を推進するため、早急に「肝炎対策推進協議会」(仮称)を設立すること。
 右決議する。

 1月11日、午前10時から参議院本会議が開かれて、C型肝炎特別措置法案が審議され、全会一致で可決成立した。

4 C型肝炎特別措置法の問題点
 C型肝炎特別措置法は成立したが、多くの問題点を内包している。第一に、本法前文と本文の甚だしい乖離がある。これは先天性凝固異常症の患者たちの意見書でも指摘された。まず、本法前文をすべて引用する。

 フィブリノゲン製剤及び血液凝固第IX因子製剤にC型肝炎ウイルスが混入し、多くの方々が感染するという薬害事件が起き、感染被害者及びその遺族の方々は、長期にわたり、肉体的、精神的苦痛を強いられている。
 政府は、感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、感染被害者及びその遺族の方々に心からおわびすべきである。さらに、今回の事件の反省を踏まえ、命の尊さを再認識し、医薬品による健康被害の再発防止に最善かつ最大の努力をしなければならない。
 もとより、医薬品を供給する企業には、製品の安全性の確保等について最善の努力を尽くす責任があり、本件においては、そのような企業の責任が問われるものである。
 C型肝炎ウイルスの感染被害を受けた方々からフィブリノゲン製剤及び血液凝固第IX因子製剤の製造等を行った企業及び国に対し、損害賠償を求める訴訟が提起されたが、これまでの五つの地方裁判所の判決においては、企業及び国が責任を負うべき期間等について判断が分かれ、現行法制の下で法的責任の存否を争う訴訟による解決を図ろうとすれば、さらに長期間を要することが見込まれている。
 一般に、血液製剤は適切に使用されれば人命を救うために不可欠の製剤であるが、フィブリノゲン製剤及び血液凝固第Ⅸ因子製剤によってC型肝炎ウイルスに感染した方々が、日々、症状の重篤化に対する不安を抱えながら生活を営んでいるという困難な状況に思いをいたすと、我らは、人道的観点から、早急に感染被害者の方々を投与の時期を問わず一律に救済しなければならないと考える。しかしながら、現行法制の下でこれらの製剤による感染被害者の方々の一律救済の要請にこたえるには、司法上も行政上も限界があることから、立法による解決を図ることとし、この法律を制定する。

 本法前文は「フィブリノゲン製剤及び血液凝固第IX因子製剤によってC型肝炎ウイルスに感染した方々が、日々、症状の重篤化に対する不安を抱えながら生活を営んでいるという困難な状況に思いをいたすと、我らは、人道的観点から、早急に感染被害者の方々を投与の時期を問わず一律に救済しなければならない」という普遍的な内容になっている。しかし、本法本文冒頭を読むだけで「限定的な給付金の手続き法」であることが分かる。

 (趣旨)
 第一条 この法律は、特定C型肝炎ウイルス感染者及びその相続人に対する給付金の支給に関し必要な事項を定めるものとする。
 (定義)
 第二条 この法律において「特定フィブリノゲン製剤」とは、乾燥人フィブリノゲンのみを有効成分とする製剤であって、次に掲げるものをいう。(中略)
 2 この法律において「特定血液凝固第IX因子製剤」とは、乾燥人血液凝固第Ⅸ因子複合体を有効成分とする製剤であって、次に掲げるものをいう。(中略)
 3 この法律において「特定C型肝炎ウイルス感染者」とは、特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第IX因子製剤の投与(獲得性の傷病に係る投与に限る。第五条第二号において同じ。)を受けたことによってC型肝炎ウイルスに感染した者及びその者の胎内又は産道においてC型肝炎ウイルスに感染した者をいう。

 2007年末の時点では「全面解決」「全員救済」などが新聞紙上の見出しになり、空疎な文言だけが一人歩きした。「限定的な給付金の手続き法」が明確に伝えられなかったために、21世紀の会代表の尾上のところに全国各地から問い合わせが殺到したという。民主党第24回会合に、原告以外の多数の人たちが詰め掛けたのも、同様の理由である。
 第二に、三権分立の問題がある。本法前文の結語では「感染被害者の方々の一律救済の要請にこたえるには、司法上も行政上も限界があることから、立法による解決を図る」と述べている。しかし他方で、本法前文に「政府は、感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、感染被害者及びその遺族の方々に心からおわびすべき」と明記した。「責任」の認否や「おわび」は、司法で決着すべき事柄であり、それらを法律前文の中に「ねじ込んだ」と指摘せざるを得ない。「法律専門家」を自負する自民党の早川忠孝は、本法前文と本文の乖離を含む問題点を指摘している。

 国会議員は決して文字が読めなかったり、物が分からない人間ではないから、法案の問題点を挙げ始めると議論が噴出し、きりがなくなる。
 はじめて昨日の厚生労働部会で法案3点セットを見せられ、短時間であるが検討した結果、いくつか疑問点が出てきた。/しかし、この段階でいかにも法律家らしい観点からの問題提起をしてしまえば、今日中に与野党の協議を終えて国会に提出したい、という関係者の努力に水を注す結果になる。
 ここは、法律専門家としての見解を表明するよりも、政治家としてのセンスを示すとき。/そう思って、法案の曖昧な部分や表現の問題点について疑問を封印し、賛成の討論をすることにした。(中略)
 法律案の要綱に明記されている部分は、80点は与えられるであろう。/しかし、別紙として別に記された前文は、どう見ても法制局の文章ではない。
 制度の根幹に関わるものではないから、その文章は政治家の皆さんでお決めください、そんなやりとりがあり、原告団に丸投げしたのがこの部分ではなかったか、そんなことを推測させるような書き振りである。

 前文を「原告団に丸投げ」したのかは定かではない。しかし、早川がそのような憶測をするほど、前文と本文の乖離が大きいのである。
 第三に、平等・公平の問題がある。本訴訟が司法で、原告団・弁護団と政府・製薬企業との間で決着していれば、日肝協、21世紀の会、B型肝炎原告団、先天性凝固異常症の患者代表が意見を言う権利はなかった。しかし、本法前文で肝炎患者全員を含むような普遍的な内容を謳い、本文で本訴訟原告に限定する二重構造であるために、それぞれの立場から意見を言う必要が生じた。特に、先天性凝固異常症の患者たちは「先天性凝固異常症の患者の存在・尊厳を踏みにじるにも等しい」法律だと強い懸念を表明した。また、難病患者や医療従事者から、公平な医療政策の観点から著しくバランスを欠くのではないかと疑義が表明されている。たとえば、ハンドルネーム kazmaximum は、本法成立以前の2007年12月24日時点で、自身のブログに「薬害訴訟について、難病認定患者を持つ家族からの雑感」というエントリを書いた。kazmaximum は、「難病認定を受けた家族を持つ者の一視点から書きます」と断った上で以下のように言う。

 最近、C型薬害肝炎訴訟の問題が大きく動き出している。ニュースで原告の人たちの顔を見ない日はないといったぐらいに。そして、自分たちの考えをメディアに訴えている姿を見ると、「この人たちは、確かに自分たちのせいではなくC型肝炎にかかってしまい、大変お気の毒だ。しかし、こうやってメディアに取り上げられ、司法の判断をそっちのけにして政治判断を迫り、政府がそのように動き、立法措置が何らかの形で取られるのは、幸せな方だ……。」と自分の妻の姿を見ると、そう思ってしまう(ひがみ意識もあるでしょう。否定しません。)自分の妻は、難病指定されている特定疾患の膠原病(SLE)を中学2年生の時から患っている。今は、その薬(ステロイド)の副作用で、骨粗鬆症から背骨を3か所圧迫骨折しており、痛むに堪え、いや、それよりも普通の母親ができる「娘を抱きかかえること」もできない辛さにも耐えている。同じような病気による辛さを抱えている人はたくさんいるだろう。そういう人たちは、あの人たちが立法措置で「一律救済」されそうなことを聴いて、どう思っているのだろう…。特定疾患者の医療費の救済は年々少なくなってきている。膠原病だけではなく、その他の難病認定者の医療費もそうだろう。「国の責任」で病気になったかならなかったのかの違いはあるが、「なりたくてなったわけではないこと」は同じである。それなのに、辛い思いは同じであるのにも関わらず、C型肝炎患者は「救済への道」が少しでも開けてきたのに、自分の妻のような「特定疾患」患者には明るい未来が見えないのはどういうことなのだろう……。国の予算は有限だ。救済できる・援助できる患者の数は限られている。もしかすると、「自分の考えは穿った見方」なのかもしれないが、C型肝炎患者の人たちに救済のお金が行けば、特定患者への援助は少なくなる・遅れるかも知れない……。妻や同じ思いをしている人たちはどう思っているのか……。メディアでは、今、旬の問題しか扱わない。辛い思いをしている患者はいっぱいいる。あえて言えば、あの原告の人たちは「C型肝炎の自分たちが救済されれば、それでよい」と考えているのか。メディアで号泣すれば、自分の妻たちのような人たちは国に助けてもらえるのか……。泣けば、司法の判断も無視して、首相が政治決断してくれるというのか……。特定疾患患者を家族に持つ自分としては、そういう見方しかできない。これは、そういう立場でない人には分からないのかも知れない。「何、考えているんだよ」と。でも、C型肝炎の原告の人たちには頭のどこかに入れておいて欲しい。「あなた方の救済はあなた方にとっては勝利だろう。でも、その結果、他の特定疾患を代表とする『自分のせいで病気になったわけではない』人たちの救済は遅れる、または不可能になるかもしれない」ことを。原告団はそのような「十字架」を背負っていることを忘れないで、活動して欲しい。
 反論はたくさんあるかもしれません(その前に、このブログを見る人がそんなに多いとは思いませんが)。けれど、助けてもらいたい患者はたくさんいます。限られた予算の中で、救済・補償費を獲得するある種の「ゲーム」(言葉は悪いですが)に、自分の妻のような特定疾患者は「負け続けている」のです……。大きいニュースに隠されている小さな事実にも目を向けてあげて下さい。

 Kazmaximum の「救済・補償費を獲得するある種の「ゲーム」」という指摘は、部分的に当たっている。原告団が国・製薬企業が責任を認めて詫びてほしいと願っている一方で、弁護団は決して無報酬のボランティアではないから、これまでの「活動資金」「弁護士報酬」の回収をしなければならない。そのためには、原告団の求める「責任」「お詫び」の徹底追及をある程度で収め、和解金を勝ち取る必要がある。和解協議が決裂した後、代案として出された苦肉の策がC型肝炎特別措置法なのである。

5 議員立法という「奇策」
 薬害C型肝炎訴訟は、議員立法という「奇策」によって終結を迎えたが、訴訟終結のあり方という観点から、問題点を指摘する。
 第一に、当然のことながら、訴訟は司法での争いであるから、あくまでも司法で決着をつけるべきである。行政が手詰まり云々と言って、解決を立法に丸投げすることは「奇策」であり、本来の訴訟終結のあり方ではない。与謝野馨前官房長官が議員立法による訴訟終結を主導したと報道されている。これを、朝日新聞社コラムニストの早野透は「自民党という政党の意外な懐の深さ」、毎日新聞専門編集委員の山田孝男は「袋小路の政治を救った」と評した。しかし、本当に懐が深いならば、司法で決着をつけるべく、もっと知恵を絞って手を尽くしたはずである。前出の早川は自民党議員であるが、「法律専門家」の自負から「救済法案はそうそう簡単には成立しない代物」「このような手法がいつも通用していいはずがない」と本法成立の異常性を明言する。

 実に不思議だ。/昨日の厚生労働部会で議員立法にかかる薬害C型肝炎被害者救済法案を承認したと思ったら、もう今日の衆議院本会議で採決するという運びになった。
 何たる早業、何たる荒業。/こんなことができるなどとは、つい1ヶ月前までは想像もできなかった。
 民主党の山岡国対委員長は、与党の提案に対して、原告の皆さんがそれでいいということでしたら、民主党として法案に反対致しません、と述べている。
 それだったら与野党の共同提案に持っていったら良さそうなものだが、「連立を組んでいるわけではないから、立案作業は与党の責任でやってください。いいものだったら賛成します。」とのスタンス。/なんとまあ、おおらかなこと。/なんとまあ、無責任なこと。/これは、原告団に判断を丸投げ、ということだ。
 しかし、こんなにもおおらかに対応されると、細かいことに目くじら立てて法案の細部についての検討などする気も失せてくる。/皆がそれでいいと言っているから、まあ、これでいいか。(中略)細部に拘ればこの救済法案はそうそう簡単には成立しない代物である。/とにかく、大変な法律がこの臨時国会で成立することになった。(中略)
 しかし、このような手法がいつも通用していいはずがない。
 これでは、立法府の国会議員は法律案の審議権を放棄しているようなもの。/単に一部の幹部で決めた方針を役人が内心の疑問を封印しながら条文化し、国会議員はその法律案に対して賛成の投票をするだけの単なる投票マシーンに成り下がる、ということである。(中略)
 どうやら深いところで与野党の協議のルールができ上がったようだ。/そうでなければ、この異常なほどスムーズな法案策定のスケジュールは理解できない。

 このような「奇策」は後に様々な禍根を残すことが強く危惧される。決して繰り返してはならない。前出のKazmaximumのブログのコメント欄に、ハンドルネームLTが医療関係者の立場として、2007年12月25日に「辛口ですが」と題して、懸念される問題を列挙している。

 医療関係者です。(肝臓や膠原病に詳しいわけではありませんが。)奥様や薬害肝炎の方には、今後よりよい治療とよい経過が得られることを願っています。/その上で辛口のコメントになるかも知れませんが、こういう見方もあるということで書かせてください。
 1 和解案のように線引きは仕方がない。なぜならば、その時代に不明だったことまで現代の常識で責任追及をしてはいけない。(不遡及の原則)
 2 マスコミの問題。放送法第3条にあるように議論のある問題については両者の言い分を公平に出す必要がある。いつものように原告=被害者=善としており、片方の言い分を垂れ流している。
 3 財源の問題。これを皮切りにC型、B型肝炎など次々と出てくるかもしれません。その時に情に流されたこのような結果があると認めざる得なくなります。
 4 医療費削減を含めて医療崩壊が進行している中で、他の医療に対する財源的しわ寄せが顕著になる恐れがあります。膠原病も含めてそうではないでしょうか。
 5 薬の問題。今後さらに国が新薬を認めるのに躊躇するようになる恐れがあります。
 ちょっと考えただけでもこれだけの問題はあるように思います。日本の医療、そして将来の患者さんにとって不利益が生じる恐れのほうが強いように思えます。単に「お気の毒だから国が補償すべき」という考えで良いのでしょうか? そういったことをマスコミは国民に議論を呼びかける必要があると思うのですが、現実のマスコミの状況は嘆かわしいばかりです。長文失礼致しました。

 第二に、マスメディア報道の問題がある。マスメディアは、原告団・弁護団追従の報道を繰り返し、本訴訟の多面的分析や検証を怠った。本法で問題が生じた場合、マスメディアは議員立法を出さざるを得ない状況に政府を追い込んだ一端があることを免れない。司法において「原告以外」を含む「全員救済」は不可能である。「全員救済」はマスメディア向けのパフォーマンスに過ぎない。にもかかわらず、マスメディアは原告団・弁護団のパフォーマンスを真に受けた報道を続けた。今回の決着は、内閣支持率が急落した政府と戦略に失敗した弁護団が大慌てで手を握った「政局」決断である。それをマスメディアが後押しした。
 第三に、残念ながら、原告団・弁護団の戦略の失敗を指摘せざるを得ない。特に責任が重大なのは、訴訟戦略を立てる弁護団である。当初そして現在も、訴訟を有利に進める戦略として、わざわざ「血友病あるいは先天性フィブリノゲン欠乏症などの疾患にかかっておられる方につきましては、原告となることを控えていただいて」いながら、徐々に「全員救済」という矛盾したスローガンを強力に打ち出した。結果として、自ら打ち出した「全員救済」というスローガンの自縄自縛に陥ったといえる。前述したように、原告団が「責任」「お詫び」「全員救済」の徹底追及をどんなに求めようとも、弁護団の「活動資金」「弁護士報酬」の回収も必要となる。原告団と弁護団は訴訟の最終局面において常に引き裂かれ、原告団の指導者たちは苦渋の決断を迫られる。薬害C型肝炎訴訟では、弁護団が原告団の代わりに意思決定をして訴訟をしてきた。今回のC型肝炎特別措置法による訴訟の終結は、典型的な「代行政治」の帰結である。

 3月1日、21世紀の会交流会が京都のひと・まち交流館で開かれた。当日は、会場の会議室から溢れるほどの多数のC型肝炎患者が、本法の詳細の説明を聞こうと遠くは関東から詰め掛けた。マスメディアで取り上げられることは減ったが、今後もC型肝炎をめぐる混乱と「認定の悲劇」が続くだろう。

■本稿は、『現代思想』2008年2月号(特集・医療崩壊──生命をめぐるエコノミー)に掲載された「C型肝炎特別措置法の功罪」をもとに加筆修正したものである。筆者のホームページ(http://www.livingroom.ne.jp/)の「C型肝炎特別措置法」全文等の関連資料を「C型肝炎特別措置法アーカイヴ」(http://www.livingroom.ne.jp/h/080111.htm)として掲載している。本稿のスラッシュは原文の改行、一字下げの改行は原文のスペースを示す。引用文はすべて原文通りである。

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