まえがき

 本書は、2009年1月10日に立命館大学において開催された国際シンポジウム「健康権の再検討:近年の国際的議論から日本の課題を探る」の記録である。同シンポジウムは、人権論においても公衆衛生論においても国際的に注目されている健康権を改めて検討し、日本における課題を探ろうというものであった。健康権というなじみのない概念をめぐるこの企画に、シンポジストを始め、参加者による活発な討論が行なわれたことは望外の喜びであった。
 本書の作成にあたって各報告についてはそれぞれの報告者に手をいれていただき、討論については重要部分を中心に記載している。その意味では逐語的な記録ではないが、シンポジウムの内容をほぼ忠実に再現したものである。国連で健康権についての特別報告者の任にあたっておられたポール・ハントさんの基調報告、編者の一人である棟居さんの日本の現状分析がまとまった報告としてあり、その後に健康権を長らく唱道されてきた井上英夫さん、日本弁護士連合会の元副会長の藤原精吾さん、医師として診療とともに多様な社会活動を行なわれている垣田さち子さん、を迎えたパネルディスカッションの内容が掲載されている。
 内容はそれぞれをお読みいただきたい。ただ、健康権をめぐる議論は高度に専門的な水準で行なわれているが、日々の生存をめぐる争いや議論とあたり前のように関わっていることはここでも言っておきたい。その意味では、本書で述べられていることは、健康権をめぐるわが国における議論の新たな出発点にすぎないし、これからもっといろいろ具体的な場面で検討していくことが重要だと考えている。
 企画をすすめ、また本書を編纂したものとして、この場を借りてお礼を申し上げておきたい。遠くイギリスから強行軍で来ていただいたポール・ハントさん、激務の中報告の準備をして討論に参加していただいたシンポジストの方々に、深くお礼を申し上げます。企画具体化のほとんどを進めていただ棟居さん、お疲れさまでした。そして、シンポジウム開催そして本センター報告書発行のの実務を担っていただいた立命館大学人間科学研究所事務局ならびに立命館大学生存学研究センター事務局の皆さん、特に煩雑な編集作業をしていただいた佐山佳世子さんには、心から感謝いたします。
 最後に、上記の企画は立命館大学人間科学研究所・グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点(拠点リーダー:立岩真也)・生存学研究センターが主催したものであるが、その実施にあたり、立命館大学「研究の国際化推進プログラム」、文部科学省科学研究費補助金「国際連合における社会権保障の現状と課題:健康権保障を中心に」(研究代表者:棟居徳子)、大和日英基金奨励助成(The Daiwa Anglo-Japanese Foundation Small Grants)、文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業「臨床人間科学の構築──対人援助のための人間環境研究」(研究代表者:望月昭)、および日本生活協同組合連合会医療部会からの奨学寄附研究を受けた。また以下の団体から協力、後援をいただいた。(特活)ヒューマンライツ・ナウ、患者の権利法をつくる会、がんを語る有志の会、京都医療労働組合連合会、京都地方労働組合総評議会、京都府社会福祉協議会、京都府保険医協会、京都民主医療機関連合会、国民医療研究所、(財)アジア・太平洋人権情報センター、(社)京都保健会 京都民医連中央病院、全京都生活と健康を守る会、全国保険医団体連合会、全日本民主医療機関連合会(50音順)。ここにそのことを記して感謝の意を表する。

松田亮三(立命館大学大学院社会学研究科教授)