法的能力と投票参加 ―台湾の事例

台湾(座長:宋颂)

法的能力と投票参加
―台湾の事例

林聰吉(淡江大学教授)

学術界の皆さま、ご在席の皆さま、実務界の友人の皆さま、こんにちは。午前中から、皆さまに後見宣告に関してたくさんの貴重な意見を聞かせていただきました。障害者の日常生活に関するものが主でした。私は政治学が専門で、今回の会議で私のテーマは少数派ではないかと思っています。法律能力と投票権、すなわち政治参加権との関係ですが、これは人権保護の大事な部分です。日常生活を除いた部分になります。
また、国連の「障害者の権利に関する条約(CRPD)」の第29条の中にははっきりと明記されていて、障害者の公的生活に関しての参加の条文があります。主に選挙権と被選挙権です。基本的には選挙権の選挙の原則があり、投票権ですが、そういった権利が守られています。第29条以外には、選挙権以外に、第12条、今回のテーマですが、法律の前の平等ということなのですが、特に第2と第3項目が大事だと思います。第12条の第2と第3です。締約国は障害者が生活のあらゆる側面において他の者と平等な法的能力を享有することを認めています。第3は、締約国は障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を得られるように適切な措置を取ることと規定しています。人々の投票権を守るということが義務付けられております。
これは権利条約の中で明記されている二つの条文です。選挙権に関する規定です。これが私の話したい最初部分です。
2番目です。ご存じのように、権利条約は2006年に締結されて、短い間ですが、個人通報は少ないのですけれど、選挙権に関する重要な通報事例があります。まず、2013年9月に公布された事例です。一つの通報事件がありました。ハンガリーで6名の方が連名で国連の権利委員会に通報した事例がありました。当時、ハンガリーの憲法の規定の中では、障害者であれば、宣告を受けた人は選挙権はないと規定していました、2010年の2回の選挙にわたって選挙権を剥奪されたということでした。
その理由ですが、ハンガリー政府が障害の程度を一切考慮に入れず剥奪したということは、権利条約に違反しているということです。ハンガリー政府はこの通報案件に対して回答を出しています。現在その憲法の条文は既に廃止しました。2012年に法律の改正を行いました。主な内容としては、今後、後見宣告を受けたから一切投票できなくなるということではなくなり、投票できるかどうかは裁判官が認定する、裁決するという規定が国内法で別途定められているという回答でした。
こういうやりとりがあったわけですが、最終的に裁決でどうなったかというと、権利委員会の決議は、実はハンガリー政府には不利なものでした。6名の投票権を剥奪されたハンガリーの公民の言い分が正しいということです。先ほども申し上げた第29条によれば、障害者は投票権を共有すべきだということでした。いかなる合理的な制限も設けてはならない、生まれつきの権利であるということでした。2番目の理由ですが、もし本当にそういった障害があるとすれば、やはりこの第12条の平等であるという原則にのっとって、政府は適切な支援、サポートを提供すべきだということです。
この二つの前提の下で権利委員会は、ハンガリー政府は無条件でこの証言者の選挙権を確保すべきだと決定しました。国内法を改正するだけではなく、先ほどのハンガリーの6名の方に対して、精神的なダメージの損害賠償をするように求めました。これは2013年にあった実際の案件でした。
3番目です。2014年に国連が公布した第1号の一般的意見がありました。そこの中でも再び投票権に触れられています。なぜ国連が投票権に触れたかというと、ハンガリーと似たようなケースが実は多くの国で起きていたからです。スペイン、チュニジアも含めてです。そういった似たような障害者の選挙権を剥奪しているケースがありました。
一般的意見第1号では、三つのポイントがあります。一つ目は、第12条の法律の前に等しく認められる権利に関する解釈です。二つ目は、重要な点で、いかなる場合でも、障害者であることを理由に人々の投票権を剥奪してはいけないということです。精神的な障害があったとしても、最終的に投票できるかどうかという判断は、個人が関連情報を利用したり比較検討したりすることで、ある決定の性質と結果を理解できるか否かを判定しようとするものです。実は、正確に評価できないという仮定を支持する十分な科学の根拠は存在していません。人類の脳の特定の活動を正確に評価できる、そういった仮定を支持できるような科学的な根拠はありません。これは2番目の理由です。三つ目は、先ほど何名かがおっしゃったとおり、第12条をさらに強調しているわけですが、障害者の権利行使が難しい場合、代替的意思決定ではなく、支援付き意思決定の方法で対処すべきであるということです。これは2014年に出された国連の第1号の一般的な意見書の内容です。
4番目は台湾の事例です。台湾の選挙罷免法は、もし後見宣告を受けたら、選挙権も被選挙権もなくなるとはっきり規定しているのですが、これは明らかに国連の権利条約に違反していると私は思っています。世界では、違反している事例、障害者たちに投票させないというケースは、台湾も含めて非常に多いと思います。今まではそのような感じです。
先ほど、人の脳の特定の活動は、科学的な根拠でもって正確に評価できないと申し上げました。午前中の日本の先生方の間でも、これは論争のある部分かもしれません。ただ、重度の精神的障害あるいは知的障害者が実際に投票できるかどうかについては、私個人的には、絶対にできると思っています。ハーバード大学の法学部が出したレポートもあります。こうした解釈の枠組みは法律学者が主導となっていますが、特に重度の障害者が投票するということは、政治学という観点からも議論のある部分です。
アリストテレスのギリシャの時代から、現在の民主政治の文脈の中では、仮定として、人は理性を持っていると考えています。また、いろいろな資料を読む中でも、法的義務について議論することは非常に有意義であると思っています。そういった非常に厳格な定義をもって民主政治の参加を見た場合、特に投票といったテーマは非常に難しい課題で、なかなか一般市民には理解してもらえない、あまり理解できないものです。市民の投票は意見が二分しやすい、分かれやすいテーマです。今、参加型予算という言い方がはやっています。少数派がコントロールしてしまうプロセスになってしまう、ごく一部の人が牛耳っているという部分があります。それについて非常に議論があります。
核心的な問題はどこにあるかというと、民主というのは選挙だけではないです。民主にはもっと大きな内容が含まれています。もっと大きな価値が考慮されるべきです。もしかしたら今、政治学という角度から解釈したかもしれませんが、政治学が専門だからです。以上が、法律という観点から見た、国連の権利条約についての私の個人的な見解です。
参加が大事です。もっと多元的な多様な方法があるかと思います。障害者や知的障害だけではなく、もっと広い目で見てほしいと思います。投票権に関しては、台湾も韓国も日本も、場所と時間を決めて、例えば「この日の8時から16時にある場所で投票します」と言うことは、知的障害者に制限を設けてしまっています。知的障害者はもっと支援が欲しいのです。政府は適切な措置を与えるべきと規定されているので、さらに多くの機会を確保するためには、そのことを考慮すべきです。韓国の方も日本の方も含めてです。
また後で時間があれば補足したいと思います。もう時間がなくなってきたと思います。投票できる国ではもっと多元化を図っていただきたいです。例えば、電子的な投票です。家を出なくても、パソコンから投票できるという形も取れるかと思います。あるいは期日前投票です。アメリカにも日本にもあると思います。同じ日ではなくて、期間を2週間に延ばす。投票期間を2週間にする。期日前投票もできるように、コンピューターでもできるように、そういった配慮も必要かと思います。
知的障害者には、もっと十分な時間を与えて、もっとゆっくり決断していただけるようにする。時間と場所を決めると制限してしまうことになってしまいます。知的障害者も含めて、もっと多元的に、視野を広げて考えていただきたいと思います。日本は期日前投票はありますが、パソコンでは投票できないと聞いています。知的障害者がもっと公的な事務に参加できるように、多元的な参加の仕方を提示してほしいです。政治的な手段でもって解決できる部分もあります。
以上です。ありがとうございました。

法的能力と投票参加:台湾の事例

林聡吉
淡江大学公共行政学部教授

Legal Capacity and Voting Participation : The Case of Taiwan
Tsong-Jyi Lin
Professor, Department of Public Administration, Tamkang University, Taiwan
【省略】