台湾民法の成年後見新制度 ―実務運営についての研究

台湾(座長:宋颂)

台湾民法の成年後見新制度
―実務運営についての研究

陳誠亮(台湾知的障害者親の会理事)

皆さま、こんにちは。台湾の知的障害者親の会を代表して、この場所で発表ができて非常にうれしく思います。後見制度の現実的な運用の検討についてお話をしたいと思います。私の息子は今年28歳です。私自身、ふだんは台湾大学の化学工業学科で働いています。台湾の民法はずっと変化していなかったのですが、8年前、この後見人制度に関する条文が変わりました。20歳で成年ということです。19歳以下の人は法律的な行為能力がないということです。
この条例の中で、どのような条件の下で誰が申請するのか、裁判官が申告するのか、禁治産宣告するのかということです。民法ではこのような簡単な条文があるのですが、実際の場合、どういった人が禁治産宣告を必要としているか、保護を必要としているかということです。それぞれのケースに大きな差があるのです。例えば、事例1では、父親が突然死去しました。そして重度の知的障害のある息子が自らの遺産を処分できないということがあります。そして、機関の職員が、お母さんの方が、それを売ってしまったのです。それに同意しているのでしょうか。こういった紛争になるのを防ぐために、裁判官にこの子どもには独立した決定能力があるのか、もしくは後見人を必要とするのか、保護が必要なのかということを判断させようとしたのです。
台湾では軽度知的障害の者はなるべく外で働くようにと奨励しています。しかし、そこでさまざまなトラブルも起きています。例えば、1週間で24台の携帯電話を注文して、その電話料金が18万台湾ドル(66万円程度)にも達したというケースもあります。事例3では、街頭でクレジットカードを申請し、1週間で利用限度額に達してしまいました。事例4のように、名義貸しで会社の責任者になり、偽造文書で訴えられた件もあります。事例5は、露天商に名義を利用されて多額の金額を払わされた、事例6は、保証人になって多額の負債を背負わされたというものです。
このようなひどい結果が起こるので、さまざまな現象が今起こっています。法改正前は、事例1のみが禁治産宣告の保護対象となることができました。事例2や事例3のように、周りに財産があったり、家族がいたりする場合、その家族に資産を売られてしまうことがあります。ですから、台湾では年配の者に資産がある場合は、全てではなく一部を強制信託、自益信託にし、自分の資産を適切に処分するということを勧めています。
また、ひどい双極性障害の患者が、自らの資産を適切に管理できないという問題も起きています。例えば、実際の申請とその承認の差、利用とニーズに大きなギャップがあります。その宣告を受けたとき、当人の財産の剥奪というのが申請理由で最大のものです。こういったところの制度で不足している部分があったので、今回修正を行ったのです。
では、どういった修正が行われたのか。8年をかけて修正を行いました。そして改革を行ったのです。この修正法が2009年に採択されました。11月から実施されました。どのような新しい変化が起きたのかをご説明します。これまでは禁治産宣告という名称だったのですが、これは自らの資産を管理するのを禁止するというマイナスイメージの言葉でした。ですから今回、監察保護という概念を入れたのです。成年後見制度に変わりましたが、これは後見宣言を受けた者の保護、そして人格の尊厳を守り、権益を守るということに重点があります。
また、今回新しく補助宣告というものが増えました。先ほど、双極性障害であるとか、保証人にならされた、1200万台湾ドルを払わなくてはならなくなったということがありましたが、こういった人は能力的には成年後見人宣告を受けるほどではないので、こういった場合に補助宣告という新しい枠組みができました。法律の審理の際、受け答え、フィードバックの能力があると裁判官が判断すると、補助宣告になることがあります。
では、申請についての要件ですが、午前中に韓国の学者の方のリポートを聞きました。台湾のこれまでの民法でも、心神喪失、精神薄弱によって自らの事柄を対処できない場合が要件だったのです。でも、どういったものが心神喪失で精神薄弱なのか明確ではありませんでした。ですから、今回どのような状況であればそうなのか、例えば、自分の意思表示や描写といったところをはっきりさせるようにました。
どのような人が申請できるのでしょうか。申立権者ですね。今までは配偶者や最も近しい家族2人、もしくは検察官だったのです。それ以外の者は権利がありませんでした。でも今回、変更して、より多くの人が申立てをできるようになりました。例えば、社会福祉機関やその主管機関などです。検察官のサポートを受けて、こういったところが申立てをすることができるようになりました。こういった主管機関や社会福祉機関もこの申立権者の範囲に含まれるようになりました。
では、誰がこの後見人の人選を行うかということですが、今までの民法では順序に関する選択肢がありませんでした。全てこの優先順位で決めていました。例えば配偶者、その次が両親、その次が年長者、保護者です。しかし、家族が後見人に適切かどうかというと、そうとも限らないのが事実です。ですから、社会福祉機関や主管機関など、その他の適切な者も人選に含まれることになりました。
また、後見宣告もしくは補助宣告をした後、これは裁判官が判断するのですが、財産目録発行の立会人も派遣します。そして、後見人が全ての財産目録を書き出し、正確に作成したかを監督するのです。
今日は日本の学者の方から、必要なときに、周りの1人以上の人が後見人になることができるというお話がありました。後見人の責任は非常に大きいのです。ですからルールが必要です。今までのように、やりたいようにするということではいけないのです。ですから適切な監督が必要です。このとき、1人のみが後見人になるのは必ずしも適切ではないかもしれません。複数の者がなってもいいと思います。では、どういった権利と義務があるのでしょうか。
改正前は、財産事務や身上監護など、その責任は曖昧でした。ですので、後見人の資格を得てから資産を売却するような人が現れました。現在は、民法の中で、後見人は監督を受ける必要があるとなっています。価値が1000万円であれば、500万円を売却する、これは善良な後見人ではないと言えます。ですから、法律的な地位は高い、しかし責任は明確ではないということがありました。
今までは家族が後見人になることが多く、家族会議で監督していたのですが、なかなかそれが難しいということで、今後は裁判所が監督するというように変わっています。不動産の購入または処分は裁判所の許可が要るということになりました。今まで、監督がしっかりしていなかったので、いろいろな問題が起きていましたが、監督があるので、その責任がもっと明確にされ、重くなっています。
ここにある事例は、私の息子のクラスメートの話です。2009年に当人のお父さまが亡くなりました。当人は非常に重い知的障害者でした。ですから、親族と共に家屋2軒を共同で相続することになったのです。彼にはお姉さん、お母さんがいました。共同で相続したのです。
この家屋は他にも親族がいたので、一つの家屋を売却しようということになりました。お母さんは印鑑の登録申請を行い、当人名義の不動産を処分しようとしました。ですので、行政の戸籍係が来ました。そして、これには禁治産宣告の手続きが必要だと判断しました。禁治産宣告が必要ということで、裁判所に行って手続きを行いました。病院で知能鑑定が必要だと言われました。10月になり、裁判所は当人を禁治産宣告の該当者とすることに同意しました。そして母親が後見人になることを認めました。その1カ月後の11月に、民法の新しい制度が施行されました。ですから、これは禁治産ではなく成年後見制度宣告になりました。
1月になり、裁判所が、後見人である母親の当人名義の家屋1軒の処分に同意しました。その手続きをするということを1カ月間公示して、順調に売却することができました。民法の新しい制度がないときであれば、母親は自分の立場で売却していたと思いますが、新しい制度で新しい手続きが行われたということです。
その後、2011年1月に2軒目の不動産を処分しようという計画が起きました。裁判所はこのとき、子どもはどのぐらいの財産があるのかを知りたいと考え、後見人に財産目録を作成するように指示しました。そのときに、当人の姉を財産目録作成の立会人として提示することになりました。この者は全ての財産をリストアップすることができるという信用関係があったので、全ての財産を裁判所に報告し、裁判所もこれを認めました。こういった財産の処分は全て、今後、裁判所の同意が必要となります。裁判所は2011年5月に1軒目と同じように処分に同意し、最初のスタートから売却まで5カ月の月日を必要としました。母親は、今までは合法的な後見人だったので直接売却したと思うのですが、新しい制度の下では、今後は全て裁判所の同意が必要というふうに変わっています。ですから、こういった外部からの監督という力がこれからは働くのです。
毎年1700人が禁治産宣告を受けていましたが、こういった新制度ができてから、それが7600人に増えました。また、申請の比率は66%アップしました。毎年、後見の申立ては倍増しています。民法の新しい制度ができて、去年まで人数はものすごく伸びています。非常に安定した大きな伸びを示しています。
また、宣告を要求されるという状況も出ています。補助申立てというものもできました。最初は300名ほどでしたが、去年で500名ほどになっています。これも安定した伸びです。
こういった補助申立て宣告の人は、銀行の口座をつくることができるのか、新しいクレジットカードを申請できるのか、銀行もしくはクレジットカードの会社も、その者が宣告を受けているかどうか分からないというのも事実なのですが、今まで乱用して大きな浪費が生じていたことと比べると、この補助を受けている人は、自らの力でクレジットカードに申し込みをし、この人が私の補助者であると言うことができます。
どの会社でも信用の記録を調べ、この人が宣告を受けている者かどうかを調べます。それによってみだりにクレジットカードを申請し過ぎることを防ぐようになっています。ここで注意すべきなのは、この赤い部分です。見たところ、2015年、5000人ほどが後見宣告や補助宣告に変更しています。4500人というのはその家族もしくは配偶者が後見人となっています。
しかし、社会福祉機関や主管機関も100近くが後見人になっています。ですから、90%が家族による後見人ですが、やはり10%ほどは社会福祉機関などが後見人になっているということです。必要なときに適切な第三者が後見人になることができます。比率としてはまだまだ少ないのですが、民法では後見人が報酬を受けることができる、裁判官がその額を決めることができるということになっています。
経済状況を見て報酬額を決めるのですが、社会はこの可能性に対して非常に消極的です。ですから第三者が後見者になることは比率的には非常に少なく、90%が家族ということです。家族間では報酬がなかなか発生しません。日本は30%だと聞きました。ですから、台湾の10%とは違った状況であるということが言えます。では、誰がその後見人になるかということですが、やはり配偶者が多いと言えます。これも申請が必要です。90%以上が家族、5%が主管機関、社会福祉機関などであるということです。
民法の新制度について、全体的に言うと、これまでは家族を重視していました。現在は新しい追加の力を投入しています。ですから、多くの人がこういったものの力をこれから借りることができます。私が強調したいのは、当事者の最善の利益です。以上です。ありがとうございました。

台湾民法の成年後見新制度
実務運営についての研究

曽雅倫 孫一信 劉貞鳳 陳誠亮+

台湾知的障害者親の会
+CCL@ntu.edu.tw

East Asia Disability Studies Forum
Ritsumeikan University・22-23 Sep 2016
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