中国における障害者権利条約第12条完全実施の課題 ―中国での実証研究に基づいて

中国(座長:邱大昕)

中国における障害者権利条約第12条完全実施の課題
―中国での実証研究に基づいて

黄裔(リーズ大学博士課程院生)

皆さん、こんにちは。私は黄裔です。先ほど、お二人が皆さんにご説明しましたのは中国の法律的な成年後見制度に関する規定でした。続きまして私が報告するのは、中国大陸の障害者権利条約の第12条に関して、考えるべき問題が何かということです。中国の後見人制度に関して実証研究をしましたので、私の今日の発表内容は、こういった研究の中で発見したこと、気付いたことについてです。
私の研究には三つの背景があります。まず、第12条に基づく、締約国としての中国の義務は何か。二つ目が、現在の中国国内の法律体系における第12条の効力は何かということです。つまり、第12条を実行する中で、どのような国内法の改革をすべきであるか、第12条をどのように中国国内法に反映させていくかということです。三つ目は、中国における現時点での第12条の実施状況についてです。こういった背景の下、研究を行いました。
その中での課題は、中国において第12条を実施し、対応する国内法を改正するに当たり、考慮すべき問題は何かということです。研究の手法としては、インタビュー、もしくはフォーカスグループをつくりました。どのような参加者がいたかというと、障害者、その家族、また後見人、ソーシャルワーカーなどです。裁判官、弁護士なども含まれていました。これが大まかな私の研究の背景です。
先ほどお二人がおっしゃったように、中国では法的能力についての制限は、精神的能力、知的障害者に関するものでした。しかし、厳密には法律の面で実施されていません。精神障害者以外の民事行為能力も剥奪されています。そこで条文を見ると、こういった現状は法律の精神には適合していないと言えます。では、法律以外に他の理由があるのでしょうか。人々の法的能力を剥奪、制限するような理由があるのでしょうか。研究を進める中で課題が見えてきました。発見もありました。四つの面について、気付いたことを発表したいと思います。
1点目、法律上の欠陥についてです。法的能力を認めた法律はあるのですが、全てのものが法的に平等であると明確に規定されていません。ですから、権利の規定が必要であると思います。そして法律も、どういった状況の下で個人が他人の法的能力行使に干渉や制限を加えた場合、権利侵害となるかという明確な規定がありません。また、そういった場合の法的救済の方法も得にくいという状況があります。ですから、何か任意に、もしくは差別的に法的能力行使を制限した場合、侵害となるのですが、実際には、侵害した人はいかなる法的負担も担う必要がないということがあります。また、それに対して、法的救済、もしくは訴訟を行う手立ても少ないということがあります。
それぞれが法の前では平等と認められる権利があり、自分の意思で法的能力を行使できる権利があると、明確にまだ規定されていません。明らかに法律面には欠陥があります。また、実際の現状の中で生じている効果に関しても、少し欠陥があるのではないかと思います。ですので、これから進むべき第一歩としましては、法律の設計において、全ての者が法の前では平等であるということを明確にすべきだと思います。
また、もっと具体的な権利が必要です。国内の法律では、障害者は平等の中で法的能力を発揮でき、サポートを受けることができるとしています。それと同時に、国内の法律の中で、保障体制も明確にすべきです。権利が侵害されたときには、どのような救済手続きが取られるのかも明確にすべきです。第12条であれば、こういった法律の権利の確認については不可欠であると考えています。
二つ目の気付きです。お二人がおっしゃったように、現在の法律では、条文の中では精神能力、認知能力と結び付いています。しかし、実際には障害者の認知能力は、必ずしも法的能力と結び付いていないことがあります。実際、法的能力の剥奪・制限は、精神障害、知的障害以外の他の障害者にも及んでいます。身体的な障害者に関しても、法律上、完全な民事行為能力者でないと制限されている状況があります。これは、私の実践研究の中で気が付いたところです。
また、障害者がもし法的能力、もしくは意思決定の能力がない場合、精神に問題がある、認知に問題がある場合、障害者は自分で意思決定できないのだと、周りの人は不安を感じます。こういった不安の中でより心配になるのは、障害者自らが行為を決定するときに、障害者本人、もしくは周りの人の権利を侵害するのではないかということです。ですので、障害者の法的能力行使への干渉は、リスクを回避するための一つの手段であると考えています。現在の法律では、干渉するに当たって、負わなくてはいけない法律的な責任は規定されていません。
もう一つ気が付いたのは、人々の懸念と似ているのですが、疾患や精神的な疾患の他にも、経済的、社会的地位、教育程度など、考慮すべき要素はさまざまあります。これは社会の現実であると思います。また、偏見や不平等もあります。こういったものは、中国で障害者の社会での地位を低くしています。経済的な地位も低い。教育程度も低いということがあります。こういった現実において、障害者に対する法的能力に対する懸念が増幅されています。
このような多くの要素が、障害者の法的能力の行使が保障される中で障害となっています。この中で注意したのは、条約第12条の精神です。そのコアとなるのが、法的能力と認知能力の関係です。それ以外にも考慮すべきところはたくさんあります。例えば、第12条の要請ですが、国内法の改革において、認知もしくは精神的な能力の制約には、理由が必要です。こういった考慮がまだまだ不足していて、リスクがあります。他の方法で自主決定能力が干渉されているということです。国内法では、全ての障害者の法的能力の行使を阻害しているところについて、これからも研究を進めていかなければならないと思います。
3点目は、後見人の制度についてです。先ほど陳さんがおっしゃったように、自分のことを弁識できない精神障害者が、行為能力がないものと申告された場合のみ、後見人を指定できます。先ほど高さんがおっしゃったように、実際多くの成年精神障害者の家族が、後見人の役割を果たしています。しかし、行為能力がないと申告されていないにもかかわらず、そういった人が後見人となっています。こういった人たちは、法的手続きを踏んで成った後見人ではありません。家族です。しかし、そういったものが周りの人々から後見人として認められています。こういった家族は、後見人登録されておらず、証明することが難しいのです。しかし、彼らは家族です。そういった身分から周りのものに認められているということです。
もう一つ気が付いたところですが、実際に、こういった後見人は、代行者として、責任の請負者としても役割を果たしています。ほぼ全ての障害者のケアの責任を担っており、行為の責任を担っています。ですので、実際にこういった後見人は多くの権力があります。そして、障害者の生活を干渉しています。それと同時に責任も担っています。
インタビューの中で分かったのは、多くの家族にとってこうした責任を担うことが負担となっているということです。負担が重くなるのを回避するために、代行決定をしているわけです。そして、私たちの権力・責任は大きすぎ、担うことができないとも考えています。
もう一つの見方ですが、家族の権力にしろ、責任にしろ、多くの程度において、法律の規定と結び付いていません。道徳的な義務に基づいています。ですので、こういった権力、責任というのは、法律的な保護と監督が必要であると思います。
より注意すべきだと気付いたことは、家庭のつながりの中で障害者の理解の程度がさまざまであることです。こういった行為が障害者の権利を侵害していると、障害者自身も分かっていますが、家族の情があるので、それを認めざるを得ない、受け入れざるを得ないということがあります。ですので実践の中で、監督、後見人制度の改革は難しいということがあります。
実践の中で分かったのは、ジレンマです。家族が後見人の役割を果たしているときに、後見制度を完全に法的な枠組みに収めるのは難しいということです。また、家父長制的な代替的意思決定を完全に脱却することも難しい。効果的な監督も難しいということです。これは、非常に大きな問題だと思います。こういった家族のつながりと後見人が重なったときに、さまざまな問題が生じています。
多くの障害者の家族は、自分の愛する家族である障害者に対するサポートを必要としています。言い換えれば、家族のつながりと障害者に対するサポートは、両方同時に行うことができると思います。また、支援付き意思決定の制度も整備していくことも必要だと思います。家族は、自主的な意思決定に参画していると思います。家族と支援付き意思決定、両方が出てきた場合、これから家族がどのような役割を担っていくべきかという問題があります。
一つは、原則的なものです。現在の制度の下で、家族に代わる支援付き意思決定が出た場合、条約の精神に基づいて、これから変えていかなくてはならないと思います。また、法律は、支援者を明確に支援しなくてはいけません。ある程度の規定、監督も必要です。もう一方で、障害者は家族とのつながりが強く、その状況の中で、家族の権力を制限していくかということを考えていかなくてはなりません。家族のつながり、信頼関係もあります。もともとあるつながりを破壊してしまえば、法的な制度があっても、受け入れることができないと思います。ですので、その制度が良いものであっても、取り入れなければ意味がないと思います。これは、私からの提案としたいと思います。
四つ目の発見です。今、支援は基本的には家族が担っていて、それ以外の社会ネットワークが少ないということがあります。家族以外からの支援が、障害者は受けにくいということがあります。社会からのサポートを障害者が必要としていないわけではありません。社会的なネットワークが不足しているからです。現在の法律では、社会からの支援に関する枠組みがあまり整備されていません。義務、責任、法的な行為、サポートなど、まだまだ明確化されていないものがたくさんあります。ですので、社会的なサービスを受けるに当たっても、それが障害となっています。例えば、法的な決定をするときに、外部からの支援がなかなか得にくいのです。
研究の中で気が付いたのは、こういったネットワークが単一的であることです。精神障害者は、数人の家族からのみのサポートを受け、それ以外の社会的な関係が乏しいということがあります。ですので、例えば家族が権力を乱用した場合、救済を受けることができないという問題もあります。また家族以外で、障害者の意思がどういうものなのかを他人が知ることがなかなか難しいということがあります。そして家族を失った場合、孤立無援の状態になってしまいます。こういった障害者の単一的な社会ネットワークの現状というのは、第12条の精神に反していると思います。
ですので、大切な1点というのは、法律の改革です。そして支援付き意思決定制度の整備に当たって、障害者は数人の家族といった後見人ではなく、もっと多くの人々からのサポートを受けるべきであるということです。そして多様な、アクティブな内容にしていかなくてはならないと思います。フレキシブルで持続可能な社会関係のネットワークの中で、支援付き意思決定制度が構築されるべきだと思います。こういったものがあると、さまざまな権利も、より守りやすくなると思います。こういった社会的支援、枠組みがあると、支援者の法的な地位、義務責任も明確にすることができます。こういった支援者の間で、どのように任務を分担していくかということについても分かりやすくなると思います。
以上の4点が、私の主な発表内容です。
少しまとめてみたいと思います。今日の研究課題は、第12条に関する課題です。これから国内法の改正に当たって、法の前では誰もが平等で認められる権利があることを法的に明確にしていかなければなりません。そして、障害者が平等の中で法的能力の行使をする権利があることを確認しなければなりません。
2点目です。実践の中で気が付いたことは、障害者の法的能力行使を障害する要素が幾つもあるということです。条約第12条の求めるものに関して二つのことを挙げました。
こういった支援付き意思決定制度は、多様な社会的ネットワークの中で形作られるべきであるということです。そして、今は、家族が支援の中に入っていますが、家族と障害者の関係をもっと明確化していくべきと考えます。以上です。

中国における障害者権利条約第12条完全実施のために考慮すべき課題―中国での実証研究に基づいて
ISSUES TO BE CONSIDERED FOR THE FULL IMPLEMENTATION OF ARTICLE 12 IN CHINA―BASED ON THE EMPIRICAL RESEARCH IN CHINA

黄裔 Huang Yi
E-mail: lw11yh@leeds.ac.uk
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