中国大陸における成年後見制度の概要

中国(座長:邱大昕)

中国大陸における成年後見制度の概要

陳博(国立アイルランド大学ゴールウェー校博士課程院生)
高薇(武漢大学公益発展法律研究センター主任研究員)

(陳) 本日は、このような場を設けていただきまして、大変うれしく思います。また、本日の午前中には韓国の皆さまから、大変貴重な説明をいただきました。今回は中国の大陸の状況についてご紹介し、先ほどの韓国のご発表の内容と合わせまして、より一層ご理解いただければと思います。では、中国大陸の状況についてご紹介申し上げます。
まず、中国の成年後見制度がどうなっているのか。二つ目に、香港やアモイを含めて中国で初めてこうした関連の報告が成され、総括所見が権利委員会から発表されましたので、それについてご報告申し上げます。三つ目に、後見制度というのは、精神障害、知的障害の人に適用されるものと思っておられると思います。それについて中国ではどのような運用が成されているのかについてご紹介申し上げます。
中国の成年後見制度の法律は大変単純で、1987年に採択された「民法通則」が基本となっています。その対象は自分を弁別できない精神病者とあり、これには認知症患者や行為無能力者、行為制限者も含まれます。これが後見制度の対象となりますが、非常に狭い範囲であると言えます。後見人には、配偶者、両親、成年の子女、その他の近親者、関係の深いその他の親しい友人、職場、あるいは住民委員会、村民委員会などがなれるとされています。
後見の内容は、被後見人の健康、生活、財産を守る民事的な活動を行うこと、そうしたことを守ることとされています。また、効力のないもの、制限されているものに対して民事的な責任も負うとされています。つまり、全ての民事活動について、後見人がそれを代理するということになっています。例えば、被後見人が何か民事的な問題を起こしてしまった場合、私が個人的に知っている限りにおいては、その家族が責任を負わなければならないとなっています。それに対して報酬が与えられる場合もありますが、私が知っている限りでは、それは今のところないと思われます。
成年後見の認定に関しては、まず申請し、精神病者、あるいは行為無能力者、行為制限者といった者が宣告されることになります。
では、より詳しく見てみましょう。一つ目に、完全には自分の行為を規制できない人に関しては、中国大陸の法律によると、適切な民事活動については、その病状、健康状態に応じて行うことができます。しかし、司法判断においては行為が制限され、それを自分でやるといった面において制限はないと考えています。そういった面の判決は出ていないと考えます。つまり、現行の法律の範囲内において、この人たちは自分たちでできる限りの自己決定権を持っていると言えると思います。
では、もし完全に後見が必要と判断された場合にはどうでしょうか。残念なことに、精神病を患って入院したり、精神障害を患った場合には、自動的にこの人は行為能力のない人間だと判断されてしまいます。この行為能力の宣告制度に関しては、厳格に実行されていません。つまり、法律はあるのですが、実際にはこの法律に基づいて確認されていないということになります。また、自分の銀行口座を持てないけれど、銀行側はなぜなのか分からないわけです。
現在「民法総則」について、2016年に草案が構想されています。今、適用されている「民法通則」は、30年前に制定されたものです。それをバージョンアップした「民法総則」というものが考えられています。ご存じのように、今、自己決定権を拡大しようとする動きがあります。これは中国大陸でも同じで、7年後、8年後にそれが成されればという感じで進んでいます。この草案の中においては、「被後見人の意思を最大限尊重するように」という条文が盛り込まれることになっています。被後見人に有利な最善の原則でもって、被後見人の意向を最大限に尊重しようという方向に進んでいます。少しではありますが、中国大陸でも進歩があるかと思います。
では、法律の規定に関しては、どのようになっているでしょうか。中国の報告によると、権利委員会に参加したときに、このように報告しました。「実際の民事活動におきましては、支援が必要とされる障害者に関しては支援を行っている。そして、代理人によって代理行為が行われている」。以前、スペインなどでもそうでしたが、政府が後見人制度というものを設けていました。中国でも同様です。けれども、これは権利委員会において明確に否定されました。条約に違反しているというわけです。その後、総括所見の中で、代理で行うことに関しては、改善していく方向で進んでいるとは思います。
先ほどポスター発表を見ましたが、総括所見で指摘されたような、第12条に反するものに関するものが見られました。中国の立法に関しては、2016年に通過しましたが、支援に関してどのようになっているのかということをお話ししたいと思います。今回のポスター発表では、計画について発表されていました。さまざまな方法があります。アイルランドにおいても多くの方式があります。まず、事前にそれを通告し、精神病によって権利が阻害されるような事態があってはならないということで進んでいます。私はこの支援法に関して紹介したいと思います。
まずは、事前にそれを通告します。私の役割が制限されます。そして、その役割をどうするのかに関して審議が成されます。後見代理人になると、私の銀行口座を調べるなど、私の代わりに代理行為ができるようになるわけです。けれども、自主的に私が、どこが分からないのかを通告し、その部分について助けてもらうことになります。契約書にサインをし、約束の範囲の中で代行してもらいます。これは役割分担ということです。つまり、協働で処理をすることになるわけです。例えば、私が双極性障害(躁うつ病)があり、私の家を非常に低い価格で売りに出してしまうとします。その場合、契約書に基づいて、客観的にこれは病状が悪化したときに成された契約だということで、そのような契約は破棄されることになります。
アイルランドの立法においては、後見人制度に似たような制度があるにはあります。しかし、法律体系が異なります。理論的に言うと、最後の手段として用いられることになります。先ほど中国大陸の後見制度について少し触れましたが、どのようにその支援を提供するのかに関しては、法律では明確に規定されていません。家族、親族といった者たちが、代わりに決定することが今は行われています。これが、中国で行われている後見制度の現状です。
次に、発表者が替わります。後見制度についてしっかりお話ししてもらいたいと思います。
(高) 皆さん、こんにちは。武漢大学から参りました高薇と申します。私は公益に関する法律に関して研究しており、特に障害者の権利について研究しています。先ほど中国の後見制度について少し触れられましたが、中国には正式な法律の枠組みがあるだけでなく行政システムが整っています。つまり、後見に関係する人たちの問題を解決するシステムが、今、あるにはあります。これが現状です。
中国障害者連合会が、それを管轄しています。第12条に関しては、障害の種別を問わず、全ての障害者は平等に権利を受ける権利があるとされています。現在、多くの状況において注目されているのは、知的障害の人たちです。その他にも、例えば、聴覚障害、視力障害など多くの障害があり、それらの人たちも権利を制限されています。
中国障害者連合会は、法律に基づく民間の団体で、実際には行政的な機能を請け負っています。ですので、中国障害者連合会は非常に複雑です。多くの権利を持っていて、障害者の生活面に関して、いろいろな物事を行使できるわけです。中国では、障害者証を規定しています。その中に、障害のレベルや種別が書かれており、どのような福祉を受けられるのかも決められています。
2008年、第二世代「中華人民共和国障害者証」が発行されました。これは管理方法という法律に基づいて発行されるのですが、精神障害者、知的障害者に関しては、後見人の氏名を書かなければならないとなっています。
第二世代障害者手帳のフォーマットです。注意事項の黄色の部分ですが、「未成年の障害者、知的障害者、精神障害者は、後見人について記載しなければならない」と書かれています。そして、右側のフォーマットの後見人の欄に名前と電話番号を書くようになっています。
ここにどのような問題があるのか。中国の法律的な枠組みの中では、この人が行為能力がない人である、限定されるといったことが宣告されるとあります。また、障害者証の中には後見人を書けと書いてありますが、一般的にも障害者というのは、正式な手順を踏んで行為能力がないとか、制限されると宣告されているわけではありません。また、自分の行為を弁別できない人が精神障害者と見なされるわけですが、障害者証の記載によると、ただ単に知的障害者、あるいは精神障害者と書かれているだけで、具体的なことは何も書かれていません。つまり、法的な根拠がなく、こうした表記がされています。
それ以外にも非常に重要な問題として、知的障害者、精神障害者の別にかかわらず、視力障害、聴力障害者に関しても、この障害者証を発行するときに、後見人、電話番号も書かなければならないことがあります。つまり、中国障害者連合会が、後見人についてどのように理解しているのかということが分からないのです。例えば、後見人だと思っているけれど、実際にはただの連絡役であったりします。何か問題が起きたときに、中国障害者連合会は後見人と連絡を取ろうとしますが、法的に見ると後見人ではないということがあります。つまり、多くの問題が存在します。障害者が問題に直面したとき、後見人の部分に名前が書いてある人は何かを代行するわけですが、まず他の人たちは後見人の意見を聴くようになってしまいます。そして、後見人がOKと言えば、実際に行なわれることになるわけです。こうしたことは、権利侵害につながります。
視力障害、聴力障害を持つ人も同様の問題に直面します。例えば、耳の聞こえない夫婦がいて、双方がお互いの後見人になっているという状況がありました。つまり、「あなたの法的能力が足りないのであれば、私がなりましょう」と奥さんが言えば、逆に旦那さんも奥さんの後見人になるという状況が実際にあったのです。このように役割を分担した場合、一体誰がどのように、その人の行為を支援するのかといった奇妙な状況が起こるわけです。
また、目が見えない高齢者の人がいて、後見人はその人の子供で、その子供が後見人として何か問題を起こしたとします。高齢者、自分の父親に不利なことをしたとしても、彼女が自分の子供であり、後見人であるといった理由で、その周囲はあまり構ってくれないということがあります。
また、お年寄りの子供が後見人として銀行でクレジットカードを作り、未払いになってしまったことがあるとします。その後見人が子供であったとすると、実際に後見人はいるのですが、責任は高齢者本人の方に行ってしまうという奇妙なこともあります。
結婚、離婚するということでも、民生局に行って登記をしようとしますが、一人では受け入れられません。障害があるということで、しっかり考慮ができないと見なされ、必ず意思を表明できるような後見人を連れてこいと言われることもあるわけです。
それから、視覚障害がある人が、銀行に行って何か手続きをしようとすると、銀行員に「あなたは目が見えないから書いてある契約の内容を読めないでしょう。だから、後見人を連れてきなさい」と言われ、追い返されてしまうということもあります。
つまり、価値観、認識といった面において、大きな不足があります。社会に問題があるのです。社会は障害者に認知能力が不足していると思うわけです。法的な能力が効果を発揮し得ない状況にあります。
最後に、一つの例をご紹介します。インターネットである裁判官の話を見ました。彼は、自分が担当した事例を分析しています。彼が言うには、離婚の訴訟があって、女性はろうあ者で、字も書けない、手話も分からないので、私が娘の代理人としてこの法廷に来ましたと、離婚訴訟の場に父親が来たわけです。そのとき、女性側の父親は、どのような身分になるのでしょうか。代理人でしょうか。後見人でしょうか。
裁判官は、一つ目の観点として、女性の父親は法定代理人になれないと見ています。なぜなら、法律には障害者の法定代理人を立てるという規定はないからであると。しかし、一方で二つ目の観点として、父親を法定代理人として認めることができるといった考え方もあると言っています。なぜなら、彼女は訴訟を行使する能力がないからです。慣例の規定によると、訴訟能力のない人に関しては、自分の法定代理人を代わりに出廷させてもいいと規定されているからです。本人が、十分に法廷でのコミュニケーションが取れないということで、父親を法定代理人として法廷に出廷させることができると。
この裁判官は、二つ目の観点、つまり父親が法定代理人となれると考えていました。つまり女性はろうあ者で訴訟に参加できないので、父親が法定代理人になれるということです。しかしおかしなことに、法律にはこのような規定がないというのです。けれど、少し回りくどいですが、考えていけば、実際には法定代理人になり得るだろうという結論に達したわけです。法律の業界の人でさえ、こうした認識しか持てないわけです。つまり障害のない人の角度でしかものを見ていないのです。女性が十分に訴訟に参加できないのは、彼女自身の問題でしょうか。手話通訳がいないといった社会的な構造の問題ではないでしょうか。
従って、中国の後見人制度は、法律的にはまだまだ漏れがあると思います。行政においても同じです。つまり、混乱した状況にあると言えます。社会全体において、障害者の人たちは、どのような態度を取るべきなのか。これには法律の法曹界の人も含まれています。そして、専門的な目で見ていかなければなりません。実際に仕事を持っている障害者の方は少ないと言えます。より多くの人たちが、この問題に関与していくことを望んでいます。ありがとうございました。

中国大陸における成年後見制度の概況

陳博(国立アイルランド大学ゴールウェー校)
高薇(武漢大学公益発展法律研究センター)
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