質疑応答

韓国(座長:立岩真也)

質疑応答

(立岩) ありがとうございました。私もお伺いしたいことがあるのですけれども、司会ですので。皆さん、質問がありましたら挙手をお願いします。
(フロア)東京都港区から来ました。質問ですけれども、現在日本においては、韓国もそうだと思いますが、認知症とか障害者の人数がすごく多いです。成年後見制度を利用している人は、日本の場合は3%ぐらいと言われているのですが、韓国においては何%ぐらいでしょうかということが1点です。
2点目に、ちょっと分からなかったのは、10ページに報酬基準表が作られたということが書いてあって、11ページに公共後見支援事業ということで、発達障害に限定されるのか分からないのですが、知的障害、自閉症も入っていますけれども、公共で報酬を支払うか、助成するということだと思います。日本では、基本的には専門職が付いた場合の報酬は本人が支払っています。区市町村で助成はありますけれども、あまり機能していないので、月に2万〜6万円という額を1年分まとめて支払うというような状況になっています。また、日本では2000年に成年後見がスタートしたときには、9割が親族なので報酬があまり発生していなかったのですが、2015年時点で親族が3割になり、7割が専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士等)になっていますので、この報酬の問題についてです。
それから、韓国の事情が分からないのですけれども、日本は弁護士さん、司法書士さんが仕事がなくて困っているということで、後見制度をどんどん推進して専門職の人に仕事をくださいよという流れがあって利用促進法ができたのではないのかという話があります。韓国の方も、どんどん進めていくという背景に、日本と同じような事情はないでしょうか。
最後の質問は、親族後見人から専門職へという流れがある中で、専門職による横領事件が日本では多発しています。3年間で1億円横領して、いかがわしいお店で全部使い込んでしまった弁護士さんなどが新聞記事に出ているのですけれども、韓国の方ではそういった事件はあるのでしょうかということで、お願いします。
(立岩) ありがとうございました。少し復唱してお渡ししたいと思います。主には高さんに答えていただければいいのかなと思って伺っておりました。
日本語のものですと、高さんの報告の10〜11ページの辺りです。私もこれを拝見していて、制度が始まったばかりだからなのかと思ったのですが、件数的には割と少なめなのですね。これが、こういう数字で良いのか、あるいはそれはどういうことなのかということも含めて、現在の数というか、どのぐらいの人がこの制度を利用しているのかということが一つです。
それから、お金のことですね。どういう形で支払いが行われているのか。それとも関係して、支払いのない家族の場合と、専門職がそれを担う場合に発生する報酬は、日本の場合は本人というか本人サイドが払うということが原則なのだけれども、韓国の場合はどうなっているのかということ。それに関係して、親族家族の場合と専門職の場合がどういうバランスになっているのかというようなことです。さらにそれに関係して、その弁護士等の専門職が、この仕事を、言ってみれば収入源として狙っているというか、そういうことがあって日本では促進されている側面があるのではないかということですけれども、それは韓国においてはどうなのか。そして、それでお金を稼ごうとしている人たちが、それはそれとして良いとしても、不正にお金を取得するという事件が絶えない。そういった部分は韓国ではどうなのかというような、多岐にわたる質問を頂きました。全てにすぐお答えできないかもしれませんけれども、お答えできる範囲でお願いしたいと思います。
(高) はい、お話しします。非常に共感できるものですけれども、最初の質問です。10ページの表を見ていただくと分かるのですが、教授がおっしゃったように、今、始まってから3年ぐらいにしかなりません。最初の年は宣伝がうまくいかずに、利用率が非常に低かったです。ですから、最高裁や自治体が出てきて成年後見制について広報をしています。そこも少しずつ上がっているのですけれども、今は始まって3年ですから、データも不足しています。事例も十分ではありません。ケースも十分ではありません。問題点も十分ではありません。データをご覧いただくと、事件の中で2013年7月から2015年3月まで、少し長く見ると、かっこの中にある数字が受け入れたということです。857ですね。2013〜2015年の数字です。かっこの中は1年間の数字です。ですから申請者が2年間で857なのですけれども、2013年〜2014年5月までは359ということです。言い換えますと、2014年5月から2015年3月ぐらいまでに500人ぐらい増えたということが分かります。最初よりも少し早く増加を見せているということです。家裁や最高裁、自治体の広報、PR、それから障害者団体、後見人財団などのPRが効いていると言うことができます。
その次は承認された人数を言っています。棄却された例は非常に少ないです。承認された率が非常に高いと言うことができます。それから、限定後見も同じです。特定後見、任意後見も同じですが、任意後見はほとんどありません。主として成年後見と限定後見に限定されています。
二つ目の質問です。報酬の基準についてお話ししましたが、それは政府で報酬の基準を作ったと言いました。この基準表を作ったと言われているのですけれども、それは私たちは受け取ってはいません。
発達障害についての報酬と、公共後見は、政府が後見費用を負担するものです。後見費は基本的には本人が負担するものですけれども、所得がなくて自分で後見人の費用を負担する場合、低所得の家庭の場合は政府がその後見費用を負担するのです。それが公共後見制度です。それは知的障害、発達障害の法律によって準備されたものですが、発達障害者の場合は、知的、自閉症、全て含まれています。ただし老人や精神障害者は除外されています。ですから公共後見制度は10万ウォンを上限としています。それから30万ウォンまで、3人まで支援しています。後見人は1人が月10万ウォンずつ受け取るということになっているわけです。10万ウォンずつ、ずっと受け取ることができる。そして30万ずつ支払いが行われるということです。
次に4番目の弁護士、専門職の参加度です。おかしいのが、日本と似ている状況にあるということです。私が3周年の記念式典セミナーに参加したとき、私は障害者の当事者としてセミナーの場所を占拠する目的で行ったのですが、私を除いて皆専門家、弁護士や司法書士だったのです。われわれがしなくてはならない専門領域が拡大した、そして後見支援に関する法律をまた新しく作ろう、自分の身元をもっと保証しようというようなことだったわけです。記念式典、討論会が行われた場所だったのですが、障害者団体から出てきた人はほとんどそこにはいらっしゃらずに、弁護士や司法書士という方たちがほとんどでした。
11ページの表「後見の選任状況」を見ていただくと分かりますが、後見人の選任の現状として、専門家が33件とあります。市民が62件です。専門家の後見人を見ますと、持続的に増えています。そして法人の場合にも、必ず専門家を通じて法律的な諮問を受けているということです。市民の意見の中にも専門家の意見が含まれているということが見て取れます。専門家の影響が非常に拡大しており、先ほども言いましたが、ユルチョン法務法人の場合は、専門家の領域だ、そして拡大しているのだという評価を下しています。そして私も、不正などの部分、横領や不正に関してはまだまだ十分追及できていないのですけれども、今後そういったところも調べていきたいと思っています。
(李)制度が始まってそれほどたっていないので、まだたくさんの人がご存じありません。障害者自体も知らないし、両親たちも知らない。多くの人が知らない状況です。国会議員と私が話をした過程で、こういったことを聞きました。退職した教師たちに、成年後見制を通じて、そういった機会を与えるというような発言を聞いたことがあります。発達障害者の両親たちがその現場で教育を受けて、自分の子供に対する後見ができないので、他の子供の後見人の役割をする。そういったことも増えてきているということです。そして最近は、成年後見制の教育機関が全国的に障害者たちによって増えてきているわけですが、その機関において教育を受けている数もだんだん増えてきているということです。特に一部の精神遅滞の障害者たちも教育を受けて、成年後見制をするために何か希望を持っているという状況なのです。
私が非常に残念なのは、成年後見制度について、正確な理解がされずに、一つのお金もうけの手段に転落する可能性があるのではないかという部分です。まだ始まってあまりたっていないのですが、何かそういった防止策、安全策を講じる時間は十分あると思うのです。ですので、さまざまな勧告や制度と共に、濫用防止策なども一緒に設けられていくのではないかと期待しています。
(立岩) ありがとうございました。もう1人、2人、可能かと思いますけれども。では後ろの方が早かったので、よろしかったらお名前を。
(フロア)福祉施設の理事長をしております。また成年後見制度を見直す会の代表もしております。
韓国のお話を伺いまして、韓国の制度がどういうものかということがよく分かりました。韓国は日本と法制度も、あるいは法理論もあまり変わらない、同じような位置にある。そのように私は理解しました。
国連権利条約は、あるいは池原さんの今日の基調講演は、ハンディがある人、障害者と言われている人の自己決定権と無能力法理、韓国や日本での法制度は、知的ハンディがある人たち、精神病の人たちは無能力なのだ、能力がないのだ、だから法的能力もないのだというような無能力法理で成年後見制度は成り立っているわけです。それに対しての問いかけが、成年後見制度を見直すテーマとして、主題としてあるかと思うのです。国連権利条約や池原さんのこういうお話の中で、そういった自己決定権をどう確立していくのか、あるいは法律が思想としてあるところの無能力法理をどう乗り越えていくのか。その辺りを韓国の方々はどう考えていらっしゃるのかをお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
(立岩) かなり大きな質問でしたので、もう一つ質問を取ってから、併せて最後に答えてもらうような形にしたいと思います。どうぞ、こちらの質問を取ってください。
(フロア)立命館大学の客員研究員です。今日お聞きした話では、あまり韓国では成年後見人制度が普及していないということだったと思うのです。これは実は日本でもそんなに成年後見人制度は広く普及していなくて、それを普及させようという法律ができるような状況です。まず1点目に、では成年後見人制度が普及していない場合、それ以外の方法、何らかの形で代替の方法でやっていると思います。成年後見人制度なしでやっていると思うのですけれども、そのイメージがわかないのです。恐らく家族か何かが代わりに本人の金銭を管理しているのかと思うのですが、そういう制度がないところでは、現実どのようにそういうものが実質的に運用されているのかを教えていただければと思います。
(立岩) 今のこの二つの質問に併せて答えるというのはなかなか難題です。時間もそんなにありません。30分までということだったのですが、始まったのが5分遅れでしたので、少なくともあと5分ぐらいは大丈夫だと私は判断しています。ですから、あまり時間はありませんが、今お二方からあった提起、質問に答えたいところ、答えられるところをお二方に、大きな話なのできちんとしゃべっていると長くなると思いますけれども、あまり長くならないようにお答えいただければと思います。よろしくお願いいたします。どちらからでも。
(李) 私が書いた資料ではないのですが、さまざまな資料、他の資料も参考にしながら勉強させていただき、民法において禁治産者、また限定治産者という用語を排除して、これを成年後見制度に変更したとしても、その根幹は変わっていない、用語のみが変わったと思っています。当然ながら意思決定支援制度に向かうべきですが、これに対するアイデアが不十分な状況です。例えば、内部的な、内心的な効果を持たない、そういった障害者に対する、意思表示ができるような設備の普及が不十分ということもありますし、意思決定支援制度の前に自己意思をツールを使って明確に表現できる設備、インフラ、制度がまずは先行されなければいけないと思います。
韓国においては法務省の力は非常に強いものがあり、法曹界の力もそうです。フロアの方からもありましたけれども、この制度はもしかしたら法曹界の利権のために設けられたという話も出ていますし、また法曹界内部でも、この成年後見制度の問題を指摘する声もありますが、根本的に障害者が自分の意思決定をすべきであるという主張をする方も、もちろん法曹界にいらっしゃいます。そういった方々が討論会も開催していますが、私は相当期間は、成年後見制度が韓国の中ではある程度は進むだろうと思います。この成年後見制度が障害者権利条約の求める障害者の意思決定のレベルにまで進むべきですが、こういったことを早期に進めるためには、障害者、当事者の絶え間ない、また力強い闘争が必要ですし、法曹界からこの意思決定、支援制度に賛成する方々と連帯して、絶え間ない闘争を繰り広げる必要があります。
また、まだ成年後見制度がどのようなものなのかを分からない障害者や国民がたくさんいます。これは逆に新たな機会になると思いますので、この制度を広報する前に、法曹界や障害者団体の意思決定支援制度の賛成側と力を合わせて、力強く進めていく必要があると思います。これは障害者権利条約の障害者の人権と関わる最も強い制度ですので、みんなが力を合わせて、韓国のみならず、この場にいらっしゃいます日本の方、また中国、台湾の方々と連帯して、この意思決定支援制度、支援付き決定制度を早期定着のために結集する必要があると思います。
(高)少し補足いたします。発表の中でも申し上げましたが、日本の経験などは私たちにとっては非常に重要な示唆、教訓になると思います。ですので、情報共有をお願いしたいと思います。また、自己決定権のレベル、また意思決定権のレベルがどの程度であるのか。これは非常に専門的な領域でありますし、専門的なテクノロジーの分野ですので、その専門的な方法論も併せて模索する必要があると思います。人文学的に考える分野ではありません。共に解決を目指して、日本、中国、台湾の皆さんと共に解決に取り組みたいと思います。
私が驚いたのは、意思決定制度の発表のために参加させていただいているのですけれども、昨夜、筋肉障害協会の会長にお会いしました。彼は自分の意思表示が全くできない方ですので、まさに行為の無能力者と見なされるケースになりますが、そういう方でも、例えば目の合図や唇の動きで表現していて、支援者の協力をもって自分の意思表示をしていました。こういったことがさらに具体化し、また技術的にサポートされてこそ、知的障害者、また重度の障害者の自分の意思表示、意思を中心に表現できる方法が定着すると思いますし、そういった確信を持ったわけです。ですので、こういった方法が一つの対策になると思います。
最後に、他の国において、こういったプロセス、またこのような制度を作らなかったのであれば、積極的に参加してほしいと思います。成年後見制度を民法としていったん決定しますと、変えることは大変難しいと思います。最初の段階からきちんと政策なり法律を作ることができれば、こんな課題、悩みは少なく済むことができますし、障害者の当事者の意見を反映して、より合理化した制度を作っていけると思います。ですので、まだそういった制度がない国に、私たちは新たな希望を生み出すことができるのではないかと思います。以上です。
(立岩) ありがとうございました。少しだけ補足すると、今おっしゃったのは、この会場にも見えておられる日本ALS協会会長岡部宏生さんについての紹介でした。意思表示ができないかのように見なされるかもしれないけれども、実はできるわけだからという、そういう文脈での発言でしたので、通訳のことも含めて少しだけ補足させていただきます。
既に既定の時間は超えましたので、これで最初のセッションを終わらせていただきたいと思います。