補遺

補遺

茶園繁美

1.うえの式質的分析法の活用方法

うえの式質的分析法は、インタビューだけでなくいろいろ使える。観察、フィールドノート。章立てをつくるときも書き出して使える。集団でやるほうが発見も多いし、楽しい。
自分が自分のデータをつかうとき、文脈がわかっているから、文脈からはずせない。頭が固定化することもおきるが、他人がはいるとまったく違う文脈におかれてしまったりすることもあるので、この点は兼ね合い。
データをユニット化するにはフォーマットを決めることが重要(マトリックスをつくるを参照)。同じカードに図もグラフも全部ユニット化する。要因連関図を作る。
フォルダBOXに項目をたててそこに観察、発言、引用というものをためていく。文献も入れる。たまっていったらひとつのブロック毎にその情報ユニットの蓄積ができる。質の違うものがはいっていてもかまわない。BOXを決めるには、それ以前にチャートが必要。
論文にする=文字情報にする=時間軸に沿って紙芝居を配列しなおす。
情報生産=情報加工→別のものができる醍醐味。

2.情報ユニット用紙の作り方(Windows編・MAC編)

MACのパソコンをお使いの方も、windowsワードで論文を作成されている方が多いこととおもいます。そこで、ワードで情報ユニット用紙の作り方を次頁にまとめました。左端画面はワードを立ち上げると最初にでてくる画面です。

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・情報ユニット用紙の作り方(MAC編)
MACのpagesで論文を作成している場合他どうしてもワードテンプレートが使用できない場合→ラベル屋さんという無料のラベルテンプレートのサイトがあります。MACとwindows両方つかえます。(http://www.labelyasan.com/, 2016. 11. 28確認)
新規作成→お名前シール用→品番60292が上記のラベルのサイズです。→画面右上の「WEBカタログ」画面クリック→ラベル屋さんで作成→作成画面がでてくるので、ここに情報カードの項目を順次いれて作成できます。
上記の方法でできない場合、配布済の情報ユニット原紙をテキスト変換して使用(このアイディアはうえのゼミSさんのアイディア)。

・‌こんまり(近藤麻理恵)さんのお片付け術をうえの式質的分析法でやってみよう(茶園敏美)

コード分析で思い出したのは、こんまりさん(近藤麻理恵さん)のお掃除方法です。こんまりさんの場合、衣服、書類、小物と家中にあるモノをカテゴリー別に一か所に集めた上で、ときめくものとそうでないものを分類して、ときめくものを残しておいて、ときめかないものを感謝して処分します。
この場合の「衣服」「書類」「小物」といったものが、コード分析のコードにあたります。
そしてそれぞれのモノについて、残しておくものか否かを分類していく作業は、コード別に処分するか否かの分類作業です。こんまりさんは、コードごとにお掃除していたのだと考えると、面白い発見でした!
こんまりさんのコード分類を、論文に応用できないか、と考えてうかんだアイディアが、次のようなものです。タイトルはずばり。

・家父長制への対抗戦略-おんなたちの衣服・小物・書類の世代間比較から(仮)

タイトルは考える余地がありますが、タイトルの下線部分は、互換性があります。たとえば、「都市と田舎」、「独身と既婚者」「こどもあり、こどもなし」「母と娘」「姉と妹」などなど。
具体例として、たとえば第2次世界大戦直後の、日本の女子の衣服について。和服、洋服、モンペについて、世代間で違いがみられるか、地域別では、米軍基地のある地域とない地域ではどのような違いがみられるか、あるいは職業によってどのような違いがみられるか。また、なぜその服装を選んでいるのか等。
どなたか、しませんか?この研究…。

おまけ

・うえの先生漫才師になる??
うえの:(2014年度うえの式質的分析法の結果は、)先端研の先生方が大喜びする結果!
A:いや、うえのゼミだけですよ
うえの:ええ学校やな!
B:いや、そうはおもわないけど。(苦笑)
うえの:私たちは経験研究をやっている。だからここに出ていないものを証拠にあげるわけにはいきません。少なくとも今回のデータは圧倒的に「先端研に来てよかった」というポジティブ情報でしたね。
C:データがどこからあがっていたか。うえのゼミに来ている人のデータばかりです。
うえの:それについては、「意義と限界」で「強力なサンプルバイアスがある」と解説すればよい(笑)。
D:ここに来る人達は、自己責任型、ネオリベ型パーソナリティがおおいかも。ちょっといやかも
E:自己責任型で、生活保護研究をやっているって…(笑)
F:ネオリベ系から遠いうえの先生のゼミで、このような結果が出るのか…。
G:それだけの教育サービスを、うえの先生はやっているということ。
H:おべんちゃらを。
I:おべんちゃらじゃないですよ〜
うえの:はい、次いこう!

-全員大爆笑-

3.研究計画書

上野千鶴子

研究に先だって研究計画書がなければなりません。
以下に研究計画書標準版と当事者研究版の2つをあげておきます。後者のほうが、計画書が書きやすいかもしれません。

研究計画書 サンプル1 標準版

研究計画書(標準版)
1氏名
2所属
3研究テーマ

4研究内容

5理論枠組(理論仮説&作業仮説)

6研究対象

7研究方法

8先行研究および関連資料

9研究用機材・研究費用

10研究日程

11本研究の意義

12本研究の限界

研究計画書 サンプル2 当事者研究版

研究計画書(当事者研究)
1.氏名・所属
2.どのように、この研究を名づけるか(主題)

3.何故、この研究をするのか(研究の獲得目標)

4.‌先行研究(すでに解かれたこと、解かれていないこと/クレイム申し立ての宛先は誰か)

5.研究者としてわたしの立ち位置(ポジショナリティ)

6.理論枠組(採用するアプローチ)
7.研究対象

8.研究方法

9.意義と効果

10.研究費用

11.研究日程

・目次はフルコースメニューの設計図(茶園敏美)
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・「クレイム申し立て」とは何か?
バカヤローを言いたい相手
上野千鶴子(社会学者)
社会学には「クレイム申し立て」という概念がある。社会問題とは、あらかじめそこにわかりやすいかたちであるものではなく、誰かが「それはおかしい」「問題だ」とクレイムをつけることによって初めて作り出される、という考え方のことだ。世の中には「モンスター・クレイマー」などという呼び方もあって、何かとケチをつける困ったひとのことを指すようだが、クレイムに限らず、自己主張することがこの社会ではきらわれるらしい。
だが、セクシュアルハラスメントにしても、ドメスティックバイオレンスにしても、クレイム申し立てをする人がいたからこそ、問題として取り扱われるようになった。どちらもカタカナであるのは偶然ではない。それまでそれぞれ「いたずら」とか「痴話喧嘩」とか呼ばれていたことがらを、人権問題だとクレイム申し立てしたのが外国で、日本はそれを輸入したからだ。それ以来、世の中がぎすぎすしてね、とイヤがる人もいるようだが、救われたひとたちがどんなに多いことか。「痴漢は犯罪です」という標語を東京の地下鉄のなかで見つけたときの感動といったら!
だから、セクハラが増えたかどうかを問うのはあまり意味がない。わかるのはセクハラだと申し立てる人たちが増えた、ということだけだから。そしてそれは女性の人権感覚が鋭敏になってきているということでもある。
それまで問題だと思われてきていないことを問題だと認めさせるにはたいへんな努力がいる。立命館大学のわたしのゼミには社会人受講生が多いが、そのなかに、過労死遺族会の関係者がいる。彼女も夫の死を受け入れられなくて、過労死認定を求めて闘ってきた女性だ。権利はクレイム申し立てをしない限り、向こうから歩いてやってはこない。
ゼミでのやりとりのことだ。「クレイム申し立てって…」よくわからない、という彼女に、ゼミの受講生仲間がうむむ、と詰まったあげくにせっぱつまってこう説明した。
「つまり…あんたがバカヤローを言いたい相手ってことだよ」。
「それなら言いたい相手はいる。いちばんにバカヤローを言いたいのは、死んだあのひとよ」
夫を過労死で失ってから25年経っていた。そのあいだ、自分自身だけでなく、他の過労死遺族のひとたちのために、過労死認定を求めて支援を続けてきた。認定を配慮して、「バカヤローを言いたい思いを抑えてきた」のだ…と彼女は言った。過労死認定のためには、過失が使用者側にあり、雇用者側にはないことを立証しなければならないからだ。
だが、なんで死んだのよ、死ぬほど苦しかったらなんで言ってくれなかったのよ、死ぬほど働く必要なんてないじゃないのよ…。バカヤローと言いたい思いが鬱積していたのだろう、彼女はその一言を25年目にゼミの仲間の前で吐いたのだ。
ゼミは一瞬、厳粛な雰囲気に包まれた。こういう一言を引き出す、暖かさと信頼が仲間のあいだにあった。そして学問の用語を血のかよった道具にする智恵と心意気があった。こういう時だ、教師をやっていてよかった、と思えるのは。
(『朝日新聞』北陸版・連載「北陸六味」14回2015.2.6掲載)

・うえの式質的分析法の作成過程の一部
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