あとがき

あとがき

吉田一史美

 本報告書は、立命館大学生存学研究センターの2013年度若手研究者研究力強化型プロジェクト「出生をめぐる倫理研究会」の活動の報告と、この研究会のメンバーがかかわった生存学研究センターの公開企画の報告、そしてメンバーが執筆した論考によって構成されている。
 出生をめぐる倫理研究会は、これまで子どもの出生をめぐって生ずる様々な倫理的問題を考えてきた。生殖を妊娠・出産・養育という広い意味で捉え、妊娠中絶、出生前診断、代理出産、人工授精、新生児医療、養子縁組などをテーマに、哲学、倫理学、歴史学、社会学などの各メンバーが専門とする手法を用いて、学際的研究の構築を試みてきた。
 本研究会は2008年に院生主体の研究会として発足し、現在まで6年間にわたって活動を続けている。2008年度の立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点の院生プロジェクトとして立ち上がったのが始まりである。松原洋子先生を顧問に、当時院生であった櫻井浩子氏が2008〜2009年度まで代表を務め、2010〜2012年度は吉田が代表を引き継いだ。この間、本学に籍を置いていた堀田義太郎研究員が優れた指導者として、つねにわれわれ院生の研究会活動を支えた。2013年度は、本研究会のさらなる発展を期し、松原洋子先生を代表に、事務局を小門穂研究員と吉田が務める新体制で始動した。
 昨年度まで本研究会は、生命倫理関係の文献講読、年1〜2回の公開研究会、報告書の作成を行ってきた。公開研究会を振り返れば、招聘講師に土屋貴志先生、加藤秀一先生、柿本佳美先生、沢山美果子先生、荻野美穂先生、江口聡先生、二宮周平先生をお迎えした。哲学、倫理学、社会学、歴史学、法学など、各研究領域の第一線でご活躍される先生方は、院生ばかりの小さな研究会にもかかわらず講師をお引き受けくださり、われわれに厳しくも愛情あふれるご指導をくださった。2009年に刊行された生存学研究センター報告10号は、櫻井氏と堀田氏が編集した『出生をめぐる倫理──「生存」への選択』であり、これは本研究会が作成した最初の論文集である。執筆者の半分はすでに研究会を巣立っており、なつかしくも思われる。
 このたび刊行される生存学研究センター報告22号『生殖をめぐる技術と倫理──日本・ヨーロッパの視座から』は、それにつづく2冊目の報告書となる。本報告書は、医療人類学者の柘植あづみ先生と幹細胞生物学者の八代嘉美先生をお招きしたこれまでにない規模の公開企画の成功と、本研究会発起人の一人である利光惠子氏の著書刊行後の講演、海外の生命倫理研究者との研究交流の実現、新旧の研究会メンバーによる論考が収められており、これまでの研究会活動の一つの到達点とともに、新たな研究会活動の展開の可能性を示す充実した内容である。
 生殖技術がもたらした過去、現在、そして未来がある。人間社会が直面している倫理的課題を、いま各国の研究者が分野を超えて議論し、歩むべき道を模索している。本報告書にしるした生殖に関する学際的研究の試みの記録と、メンバーが取り組む各々の主題に関する論考を通して、子どもが生れて育つということをめぐって相互に関係し合う倫理的問題の広がりを、多少なりとも示すことができたなら、本報告の目的は達成されたといえるだろう。
 末尾になりましたが、本報告書の刊行にあたり、多くの皆様にお力添えをいただきました。
 まず、本研究会主催の公開シンポジウムで大変貴重なご講演をいただいたのみならず、ご講演録の掲載をご快諾くださった柘植あづみ先生、八代嘉美先生に心より感謝を申し上げます。
 また、ご縁あって生存学セミナーでのご講演録の掲載をご承諾くださった張香理氏、突然のお願いだったにもかかわらずご寄稿くださったデンマークのCharlotte Kroløkke氏、Karen Hvidtfeldt Madsen氏のご好意に感謝を申し上げます。
 そして編集から刊行に至る過程において、生存学研究センターの安部彰先生、生活書院の高橋淳氏には、大変お世話になりました。ありがとうございました。

2014年3月