開催報告(2016年3月24日開催)フェミニズム研究会・第5回公開研究会「〈抵抗〉を描く――『レズビアン・アイデンティティーズ』合評会」

掲載日: 2016年04月15日

 2016年3月24日(木)に、フェミニズム研究会・第5回公開研究会「〈抵抗〉を描く――『レズビアン・アイデンティティーズ』合評会」を開催しました。

 第一部では、まず、フェミニズム研究会の創設メンバーであり著者である堀江有里さんに自著を解題して頂きました。そして、青山薫さん(神戸大学国際文化学研究科)と天田城介さん(中央大学文学部)のお二人をお招きして、堀江さんの著書に向けてのコメントを頂きました。

 堀江さんは、合評会のタイトルにある「〈抵抗〉を描く」ことに引きつけて、自著のテーマを話して下さいました。「レズビアン」という定義は、病気や犯罪に結び付けられてきた負のイメージを抱えたもので、「男」「女」や「異性愛」「同性愛」「バイセクシャル」といった他の概念との関係のなかで暫定的に定められているものでもあります。

 堀江さんは、この「レズビアン」という名づけの、他のものとの関係の狭間に立っていることが、性差別を強化・再生産し人と人との関係を矮小化する主義・主張(例えば、異性愛中心主義や男性中心主義など)を撹乱するものと捉え返し、(あえて)このマジョリティが用意した負のレッテルとしての「レズビアン」を引き受けて、整った「ノーマル」とされる社会規範を撹乱(=卓袱台返し)していくことに、「〈抵抗〉の行為」の流儀を感じておられることを話して下さいました。

 抵抗の流儀として、相手が用意した名づけを引き受け、それが強い困難と孤独を伴うことは汲んだうえでなお、相手との啓かれた関係を模索する姿勢に、堀江さんが纏われる生の型を垣間見たように思います。

 青山さんは、レズビアンとバイセクシャル女性との異同やレズビアンの特異性についてコメントを下さいました。「レズビアン」という名づけを引き受けることが「男」「女」、「異性愛」「同性愛」といった従来の二分法の再生産・強化に加担しうることや、カミングアウトに伴う暴力性の発現の問題についてなど、青山さんご自身と堀江さんの思想や実践が触れ合う点について問いを開いて下さいました。

 天田さんからは、堀江さんが拠って立つ(ように見える)「レズビアン原理主義」がいかなるものであるのか、ピア・コミュニティの限界と可能性、名づけを引き受けて撹乱することへの拘りについてなどを、セクシャル・マイノリティが抱える問題の分節化を図りつつ、国家論や家族論と関連づけるかたちでコメントして下さいました。

 第一部をうけて、第二部では、近年のダイバーシティ戦略や、出生にからんだ国家の制度的介入の問題についてなど、約30名ほどの学内外からの参加者とともにディスカッションが行なわれました。国家や体制といった大きな視座からだけでなく、堀江さんが歩まれる実践や思想に目を向けた議論に至るまで、幅広い質疑応答が交わされ、大変盛況な公開研究会となりました。開催にあたってご協力頂いたみなさま、ありがとうございました。

(※フェミニズム研究会は「生存学研究センター若手研究者研究力強化型」の研究支援を受けており、本企画に関してましては、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「インクルーシブ社会に向けた支援の<学=実>連環型研究」プロジェクトの一環としておこなわれました)

(生存学研究センター・フェミニズム研究会プロジェクトメンバー 大谷通高さんによる開催報告を掲載)