開催報告(2016年1月22日開催)《生存学ダンスセミナー》第1回「「性・生殖・再生産」――伴戸千雅子さんを迎えて」

掲載日: 2016年01月24日

 立命館大学生存学研究センターは、2016年1月22日(金)に、立命館大学衣笠キャンパスにて、《生存学ダンスセミナー》第1回「「性・生殖・再生産」――伴戸千雅子さんを迎えて」を開催しました。生存学研究センターの村上潔が進行役・聞き手を務め、適宜映像資料を鑑賞しつつ、ゲストの伴戸千雅子さん(振付家・ダンサー)にお話を伺うかたちで進行しました。

 はじめに、伴戸さんの「舞台」との最初の接点が大学での学生演劇であったこと、そこでは自身でシナリオを書き、役者と演出の両方をこなしていたことを伺い、いまの活動の原点がそこにあることを確認しました。その後、桂勘(かつら・かん)さんを通して舞踏に出会い、桂さんの活動を手伝いながら、グループでの舞踏公演をこなしていった経緯を伺いました。

 次に、舞踏家・由良部正美(ゆらべ・まさみ)さんに教えを受けるメンバーで結成されたダンスカンパニー〈花嵐〉の活動とそのコンセプト・特徴を確認しました。そこでは、母か狂女のイメージに収斂されていた従来の舞踏における女性イメージを相対化するため、女性身体を「オブジェ化」する目的があった、という貴重なご発言をいただくことができました。そして、事実上〈花嵐〉の最終公演となった、『アリス・イン・ボーダーランド』(2010年10月)の一部を鑑賞し、そのユーモアと即興性あふれる展開を楽しみました。

 そこから、伴戸さんが2010年頃から本格的に始めた、「女性の身体」(特に出産に関わる)に焦点を当てたワークショップの活動を確認していきました。京都〈月の家〉での活動、高槻での《みんなのためのからだ学》の取り組みについて解説があり、その背景には「ダンス未満の」「カラダで考える」こと、「日常生活とカラダをつなぐ」こと、といった問題意識があることが確認できました。続いて、そうしたワークショップで実践していたプログラム「なんちゃってアフリカン」の映像を鑑賞し、具体的にどのような動きをどのようなペースで行なっていたのかを確認しました。

 そして、今回のテーマである「性・生殖・再生産」の問題に伴戸さんが正面から取り組んだ舞台公演『おしもはん』(2015年11月/伴戸さんは構成・演出を担当)の検討に進みました。話題は、
◇舞台上での「男性」の役割ならびに男性出演者の選定について
◇おむつなし育児・思春期の性に関するレクチャーのシーンとダンスシーンとの関係性について
◇「おしもはん」人形が象徴する生物的要因について
◇「生-死」の単位/範囲の規模について
◇女性の再生産労働の演出の意図
など多岐に及びました。村上は、本公演からは生命の循環・拡散の力とそれを肯定する強い意志が感じられることを指摘しました。一方伴戸さんからは、よりミクロな一人一人の女性の生業(主に再生産労働)に宿る微細な喜び・主体性を強調したい、またその再生産労働そのものを大事にしたい、という旨の発言がありました。参加者からは、そうした点とジェンダー規範との関係性についての問いかけがなされ、村上が「構築主義的なアプローチとは異なる回路での再生産の位置づけが必要であり、その一つの試みとして『おしもはん』があると評価できる」旨を回答しました。そして「性・生殖・再生産」というファクターすべてが「女たち」の動きと語りで表現されていることの(フェミニズムとしての)意味を強調しました。

 最後に、伴戸さんに、「身体」と「ダンス」の連関の可能性について伺いました。伴戸さんは、ダンスをする/構成するうえで、特に「障害」をもつ(「不自由」な)身体に大きな可能性を見出していることを述べられました。それは、あらかじめ身体の不自由さを前提とする舞踏の表現とは別の位相で、身体がもつ創造性の原点が存在するという文脈での発言でした。伴戸さんの今後の創作活動でも、おそらくそうしたアプローチが大きな意味をもってくるだろうという点を確認し、トークを終えました。

 参加者のなかには、『おしもはん』に出演していたかた、制作に関わったかた、鑑賞していたかたがいらっしゃいましたが、いずれも、「まったく違う、新しい解釈の仕方があることに気づいた」、「今日の話で作品の意味がわかった」、といった感想を残しておられました。また、伴戸さんからも、「自分が忘れていた過去の活動の捉え直しができた」というご感想をいただきました。一人のダンサーの来歴を辿りつつ、その表現のエッセンシャルな要素を追究するという本セミナーの試みが、一定程度達成できたかと思います。

*トークの記録は文字起こしして、後日[arsvi.com]内に掲載する予定です。

■関連リンク
生存学ダンスセミナー[全3回]
伴戸千雅子 ダンス/舞踏
花嵐 Hanaarashi
月の家 月経血コントロール・おむつなし育児・きものを着る
みんなのためのからだ学
おしもはん
「「しも」の話をダンスで表現 助産師ら京都で上演へ」(『京都新聞』2015年11月12日17時20分)
◇村上潔 2015/11/27 「「女の時間」をたぐり寄せるために――舞台公演「おしもはん」レビュー」

(立命館大学衣笠総合研究機構准教授 村上潔による開催報告を掲載)