開催報告(2015年10月3日開催)ワークショップ「マイノリティをめぐる思想/政治:オーストラリアにおける白豪主義・ネオリベラリズム・アジアとの関係から」

掲載日: 2015年11月06日

 立命館大学生存学研究センターは、2015年10月3日(土)に立命館大学いばらきキャンパスにてワークショップ「マイノリティをめぐる思想/政治:オーストラリアにおける白豪主義・ネオリベラリズム・アジアとの関係から」を開催しました。本企画は、立命館大学人間科学研究所「インクルーシブ社会に向けた 支援の<学=実>連環型研究(基礎研究チーム)」の共催、南山大学社会倫理研究所との協賛企画として開催されました。

 まず、マイケル・シーゲル氏より、1970年代の多文化主義にいたるオーストラリアのマイノリティ状況について報告がありました。オーストラリアは、イギリスの流刑地としての成り立ち、先住民との関わり、西洋列強やアジアからの侵略に対する恐怖といった歴史的背景をもっており、混血の子どもが親元から引き離された「盗まれた世代」のような政策にみられる白豪主義へ至る複雑な歴史について説明がなされました。つづいての報告者である塩原良和氏からは、 2000年代以降の先住民や難民庇護をめぐるエスニック・マイノリティ政策の変質について論じていただきました。エスニック・マイノリティ政策は全体とし てコストダウン重視と福祉依存からの脱却として自立を結びつけるネオリベラルな多文化主義政策へと変質しており、それは特定の地域に負担を押し付けかねない構造を抱え込んでいると問題提起されました。最後の報告者である原田容子氏は、国際関係の視点から、オーストラリアと日本のナショナル・アイデンティティをサイードの「オリエンタリズム」概念から分析され、日豪の政治政策にみられる西洋コンプレックスという共通点について述べられました。

 報告につづき、南川文里氏、加藤雅俊氏、杉田弘也氏からコメントをいただき、全体討論へとうつりました。コメントでは、アメリカとの比較におけるオーストラリアのマイノリティ政策の特徴、マイノリティ政策にみられる社会的分断と保障制度の変質、社会福祉的な政策と警察国家化・国防政策との関係といった論点提示がなされました。最後に、会場をまじえて、オーストラリアにおけるマイノリティ支援施策と市場経済との関係をめぐる問題やイスラム・フォビアのような排外主義の現状についての質疑や議論がおこなわれました。

(立命館大学衣笠総合研究機構准教授 渡辺克典先生による開催報告を掲載)