開催報告 国際シンポジウム:《敗戦/引揚げ/性暴力》『竹林はるか遠く』ブームを問い直す

掲載日: 2014年08月01日

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 2014年7月21日(月)、立命館大学生存学研究センターは、「《敗戦/引揚げ/性暴力》『竹林はるか遠く』ブームを問い直す」と題した国際シンポジウムを開催いたしました。

 司会者西成彦さん(本学先端総合学術研究科教授)は、シンポジウムの冒頭、『竹林はるか遠く』をめぐる米国、韓国、日本での評価のズレは、そこで動員されていたイデオロギーの違いから生じており、あらためて『竹林はるか遠く』を読むときに、そこからどこまで自由になれるかが問われると、企画の趣旨を説明されました。

 講演者お一人目の小林富久子さん(城西国際大学客員教授)は、『竹林はるか遠く』をアジア系アメリカ文学の中に位置づけ、同じ歴史を経験していても、日韓という記憶の異なる人々によって、「代理戦争・法廷」が行われていると述べられました。次に、講演者お二人目の朴裕河さん(韓国・世宗大学教授)は、『竹林はるか遠く』のテクスト分析を行い、この小説が反共・帝国小説として読めること、「強姦」表象の力学、隠蔽された加害者性と被害者意識の世襲等についてお話しされました。

 上記二人の講演者による課題提起に対し、討論者お一人目である原佑介さん(日本学術振興会特別研究員PD)は、五木寛之らの引揚げ体験を参照しながら、『竹林はるか遠く』に描かれた、母娘だけでの引揚げはかなり例外的なものであり、それゆえ日本人が集団で抑留されたときに感じる、日本人共同体への幻滅を描かずに終わっていることを指摘されました。また討論者お二人目である上野千鶴子さん(本学先端総合学術研究科特別招聘教授)は、主人公の母親の教育アスピレーションの強さや、この小説がソ連や共産主義を絶対悪として描いているために米国で受容されたこと、主人公が当時11歳という責任能力のない、イノセンスな存在であるため、安心して「反戦・平和小説」として読めたということを指摘し、最後に、強姦(性暴力)は侵略と侵攻のメタファーであると同時に、家父長制にとってアキレス腱であると述べられました。

 その後、質疑応答が行われ、日韓(朝)のせめぎあいにおける米国の関与や、植民者のほとんどは内地で食べていくことのできない棄民であったという前史、背後にあった家父長制の問題などをめぐって活発な議論がありました。

(立命館大学先端総合学術研究科大野藍梨さんによる寄稿)