支援テクノロジー開発

代表者:大谷いづみ(産業社会学部・教授)

目的

本プロジェクトは、ダイバーシティ社会を実現するテクノロジーの社会実装を目指して「当事者」とともにデザインの上流から関わるものである。これまで、美馬達哉により発振操作による動的ネットワークの再組織化やネオ・リハビリテーションというコンセプトのもとで、基盤研究(A)(2019-2022年度)、挑戦的研究(萌芽)を(2021-2022年度)を獲得し、支援テクノロジーの基礎研究と応用の両輪で継続発展させてきた。本年度は、新学術領域研究(研究領域提案型「超適応」)の「脳卒中超回復者の脳再構成を静的・動的磁場で誘発される脳波変調で解明する」(2022-2023年度)を獲得し、支援テクノロジーの基礎研究と応用の両輪で継続発展させている。

他方、ハンドル形電動車椅子を常用する大谷いづみが副所長に就任した2019年度には移動アクセシビリティに焦点を広げ、翌2020年度から情報保障を包含する「アクセシビリティ・プロジェクト」としてより広角な社会実装を展開してきた。同年春のCOVID-19感染拡大にあたっては、いち早く手話通訳や文字通訳つきのオンライン企画を複数開催し、情報アクセシビリティの課題に実践的に取り組んできた。さらに、2021年度後期に本学「Postコロナ社会における課題解決、価値創造に貢献する研究プロジェクト」に採択、本2022年度は「グラスルーツ・イノベーションプログラム(GRIP)」採択をうけ、大学における「困りごと」を抱える当事者の教育活動や研究活動における移動・情報アクセシビリティについて着目し、「困りごとを抱えた学生と教員を架橋するプラットフォームの構築」をコンセプトに、多様な障害やツールを用いる当事者(潜在的障害学生・教員(研究者))のアクセシビリティの課題の可視化にも取り組む。

本アクセシビリティ・プロジェクトには、当事者として車いすを日常的に使用する統括の大谷、共同研究の坂井、北島、視覚障害を持つ栗川および中村、さらに昨2021年度末、聴覚障害を持ち障害学生支援と心理相談にあたる甲斐更紗をメンバーに迎えた。また、本プロジェクトでは、当事者だけでなくNOP法人「ゆに」、WHILLやミライロをはじめとする事業者(企業)と行政を含めた、当事者と産学官民が連携する情報共有と問題解決のためのプラットフォーム作りをめざしている。実際に2021年度、移動アクセシビリティにかんしてWHILLの連携のもと、法人レンタル及び購入したWHILLを用い学内のバリアフリー実装実験に取り組み、情報アクセシビリティについてオンライン企画を行い、領域・大学・当事者の別をこえて研究交流を行ってきた。すなわち、「いま」「ここ」で研究者と「当事者」の別を越境してダイバーシティ&インクルージョンを展望し、従来の「障害」のフレームワークの限界とその解決の方途を示して社会的共生価値の創造を企てる。

目標

今年度の計画として、以下を挙げる。

第一に、「キャンパスは街の縮図」というコンセプトで、すでに5月に衣笠キャンパスにて、WHILL複数台を用いた実装実験を行っている。すでにあるWHILLに加え、近々納入予定であるパイプフレーム・ハイバックタイプのWHILLを含む、5~8台(法人レンタル)を連ねたキャンパス及びキャンパス近隣での実装実験を引き続き行う。また、朱雀キャンパス購買部入り口の自動ドア化が予定されており(夏季休暇)、その際には、あわせて、WHILL複数台、ハンドル型電動車いす、手動車いすによる実装実験を行って本学のD&I施策と協働する。さらに、KIC・朱雀・BKC・OICの4キャンパス間移動、生存学集中講義の機会をとらえてのAPUでの実装実験を行う。APU実装実験の際は、WHILLのモデルFをレンタルする。これらの作業を通じて移動コスト、心理的障壁、スクールバスのバリア度などの検証を続ける予定である。

第二に、COVID-19下の2年間に大きく進展した情報アクセシビリティのプロジェクトを継続する。具体的には、『生存学研究紀要』6号掲載の情報アクセシビリティ特集の公刊、本研究所主催・共催・後援の研究会やイベントなどでの情報保障、本学土曜講座の情報保障の協力等である。

第三に、「困りごとを抱えた学生と教員を架橋するプラットフォームの構築」をコンセプトに、多様な障害やツールを用いる当事者(潜在的障害学生・教員(研究者))のアクセシビリティの課題を可視化し、従来の「障害」のフレームワークの限界とその解決の方途を示す。

第四に、世界的なCOVID-19パンデミック状況下における移動・情報アクセシビリティ、とりわけ移動弱者・情報弱者のリアルを、NPOゆに、NPOぽぽんがぽん等と連携しながら調査し、プロジェクトメンバーと共有する。またたとえば、メンバーの欧陽が調査している日本各地のLGBTと障害の交差性の調査(LGBTパレードにおけるアクセシビリティの調査)に同行しインターセクショナリティの面からの調査を行う。またメンバーのシンの協力のもと、コロナ禍でストップしていた韓国でのアクセシビリティ調査を再開する。同時に、共同研究者のアンジェリーナ・チン氏(ポモナ大学、在米国)、安孝淑氏(韓国ALS協会理事、在韓国)のほか、山名勝氏(アクセス関西ネットワーク、在大阪)、焦岩氏(先端研院生、在東京)、小山万里子氏(東京ポリオの会代表、在東京)、柴田多恵氏(全国ポリオ連絡協議会代表、在神戸)らとオンライン会議にて情報交換する。そのうえで当事者や他研究機関の研究者とともにオンライン企画を行う。

メンバー一覧

リーダー

  • 大谷 いづみ(産業社会学部・教授)

学内教員(専任教員、研究系教員等)

  • 美馬 達哉(先端総合学術研究科・教授)
  • 川端 美季(衣笠総合研究機構・准教授)
  • 塩見 康博(理工学部・准教授)
  • 姫野 友紀子(生命科学部・助教)

学内の若手研究者(専門研究員・研究員)

  • シン・ジュヒョン(衣笠総合研究機構・専門研究員)
  • 北島 加奈子(先端総合学術研究科・博士課程後期課程)
  • ユ・ジンギョン(先端総合学術研究科・博士課程後期課程)
  • 栗川 治(先端総合学術研究科・博士課程後期課程)
  • 欧陽 珊珊(先端総合学術研究科・博士課程後期課程)
  • 焦 岩(先端総合学術研究科・博士課程後期課程)

日本学術振興会特別研究員(PD・RPD)

  • 坂井 めぐみ(先端総合学術研究科・日本学術振興会特別研究員(RPD)/産業社会学部授業担当講師)

客員協力研究員

  • アンジェリーナ・チン(ポモナ大学歴史学部・准教授)
  • 甲斐 更紗(一橋大学 保健センター・障害学生支援チーフコーディネータ)
  • 中村 雅也(東京大学大学院先端科学技術研究センター・日本学術振興会特別研究員)
  • 仲尾 謙二(立命館大学・客員研究員)

その他の学外者

  • 芝田 純也(新潟福祉大学・教授)
  • 安 孝淑(先端総合学術研究科修了生(2018年度学位取得))