開催報告(2016年2月23日開催)第7回(2015年度第3回)現代社会エスノグラフィ研究会 「語り」を織り成す文化背景を読み解くために 〜伝承民話集『聴耳草子』における「異人」たちと「多文化共生」 

掲載日: 2016年03月15日

 立命館大学生存学研究センター現代社会エスノグラフィ研究会は、2016年2月23日(火)に立命館大学衣笠キャンパスにて、2015年度第3回公開研究会「「語り」を織り成す文化背景を読み解くために〜伝承民話集『聴耳草子』における「異人」たちと「多文化共生」」を開催しました。

 まず、孫美幸氏より、日本の伝統的な思想の中で、多文化共生といのちの視点とをつなぐ考え方がどのように位置づけられているか、その考え方が民衆の間に伝えられてきた民話集にどのように表出しているかについて報告がありました。日本人の神の観念は「万有生命信仰」に基づくとし、全てのものに神を認める汎神教であること、また『古事記』の中で記されている「共生」の読み方、「ともうみ」の思想について、上田正昭氏の説明を参照しながら、異民族や異文化との共生のあり方につながる部分であると説明がありました。また、『聴耳草子』に登場する「異人」たちが登場する各話において、登場する人物や動物、妖怪たちの生と死という問題が多く描かれている点について指摘がありました。全くの他者である「異人」と共に生きるためには、身心で感じる「痛み」が鍵となっており、共に感じている「苦しみ」、つまり「共苦」をベースにしてお互いを生かしあう「ともうみ」の関係へと発展させられたとき、初めてそこに多様な文化背景をもった人々を生かしあう「多文化共生」という関係を結べる希望が立ち現れることについて述べられました。

 報告につづき、吉村季利子氏からコメントを頂き、全体討論へとうつりました。コメントでは、イスラエルにおける平和に向けた市民活動という点から、日本における「痛み」や「苦しみ」、「ともうみ」の思想と関連する具体的な実践について述べられました。その後、全体討論では、人類学の視点から見た「文化」の捉え方や方法論の問題、仏教的なものと神道的なものとの区別、当時の生活形態と密接に関わった分析の仕方、「自然と文化」や「人間と非人間」に対する文化圏ごとの切りとり方の違い等について、質疑や議論がおこなわれました。

(立命館大学衣笠総合研究機構 専門研究員 孫美幸さんによる開催報告を掲載)