開催報告(2015年11月30日開催)《障害学国際セミナー 2015》

掲載日: 2015年12月25日

■《障害学国際セミナー 2015》に参加して

 2015年11月30日、中国北京市・チャンフーゴンセンターにおいて、《障害学国際セミナー 2015》が開催されました。本セミナーは、生存学研究センターと障害学フォーラム(障害者インターナショナルの韓国組織)が共同開催してきた国際研究交流イベントで、2010年より毎年、日本と韓国で交互に開催されてきました。第6回となる2015年の今回は、中国も加えた3ヵ国での初めての共同開催となりました。

 今回の中国での開催に尽力されたHandicap Internationalのカントリー・ディレクター、Alessandra Aresuさんからは、開会挨拶とスピーチの中で、3ヵ国から北京に集まった障害学研究者・当事者へ感謝するとともに、国際的な協力の意義、情報を交換して経験をシェアすることの大切さを強調しました。またオープニングスピーチを行った長瀬修客員教授は、同じ2015年11月初めに開催されたばかりの日中韓首脳会談について「3ヵ国の政治主導者がやっと顔を合わせたのは、嬉しいこと」と述べ、「政治主導者が会合できるから、私たちが会えるというわけではありません。政治主導者が会わないときにこそ、私たちは会うべきです」と、このセミナーの一日を象徴するかのような言葉を続けました。続けて韓国のLEE SeokGu氏(障害学フォーラム議長)は「話すことは簡単ですけど、社会で実現することは難しいです」と、国際協力の意義と必要性を強調しました。

 引き続き、「社会サービス」をテーマとした午前中の第1部で3件の口頭発表(韓国1件、日本2件)、「障害者の権益保護」をテーマとした午後の第2部で3件の口頭発表(韓国2件、中国1件)および日本から7件のポスター発表が行われました。この後、中国知的障害・発達障害ネットワークによるポスター発表が予定されていましたが、残念ながら進行の都合により割愛となりました。

 「社会サービス」をテーマとした午前中の発表の中で最も印象深かったのは、小谷千秋さん(先端研院生)による米国・日本・韓国のCILサービスに関する比較研究です。障害者の状況には、もちろん国による違いがあります。その違いは、たとえば最も重要と考えられているサービスが「公的手当の利用アドバイス」(米国)・「信頼できるカウンセラーによる守秘義務と尊敬に基づくサービス」(韓国)・「障害者が施設から出ることと、その後の地域生活の支援」(日本)と異なることからも見て取ることができます。しかし集計して分析を行った結果には、国による目立った差異は見られず、「障害者に対して重要」と社会が考えがちな「雇用・エンパワメント・支援技術」は重要視されていないという共通点がありました。小谷さんは「いかにCILの課題が3ヵ国で共通しており、世界で共通であるかということ」と結論づけました。その共通点は、人類史の中で障害者が現在置かれている位置や、人類社会の中で各国という部分社会が置かれている位置によっているのかもしれません。では差異は何に由来しており、どのような意味を持っているのでしょうか? 今後の研究の展開が楽しみです。

 「障害者の権益保護」をテーマとした午後の発表の中で最も印象深かったのは、中国のNi Zhen氏(China Vision)による視覚障害者の教育権擁護に関する講演でした。自身も視覚障害者であるZhen氏は、まだエンパワメントや権利主張が始まったばかりの中国で障害学を研究することの意味として「自分たちがどういう社会的バリアにぶつかったのかを知る」「自分たちで声を上げ、障害学を主流の学術研究の中に入れる」「自分たちを研究の対象者から社会構造を研究する主体に」の3点を述べ、全寮制の盲学校の中で行われている教員から生徒への差別や、先天的視覚障害の小学生と後天的視覚障害の成人が寮で同室にされることの問題点など、生々しい実態の数々を語りました。先天障害と後天障害の違いは、中途運動障害者である私自身にとっても身につまされるものでした。障害者として置かれている現在の状況に大きな違いはないとしても、「自分の生きる世界を、少しずつでも広く、より良く」という希望を持てる先天障害者と、「健常者として『普通』の世界に生きていたのに、突然、障害者の世界に押し込まれてしまった」と不条理感を感じがちな後天障害者では、障害観も社会観も異なって当然ですし、その差異こそ次の一歩のエネルギー源でもあるはずです。しかしそこに健常者社会の視線や、対立や分断に導かれる可能性もある社会的な力が存在することを意識すると、とても「多様性を喜び合う」という心境にはなれません。Zhen氏の講演は、中国の先天障害者が逆の面から同じ問題に直面している可能性と、そこにある対立や分断が国とも時代とも無関係に近い可能性を示唆するもの、と感じられました。

 この他、中国の地方部の農村における障害者の自立生活の試み、韓国の精神障害者をめぐる偏見や家族への負担など、日本との共通点も相違点もある問題に関する講演の数々は、いずれも印象深く感じられるものでした。

 来年、2016年の障害学国際セミナーは、「自立生活支援と必要なサービス」をテーマとして、日本で開催されることが決定しています。広く東アジア全域から、当事者・支援者・研究者が集まり、障害者政策や支援体制に関する検討を行い、それぞれの国での障害者の状況・障害学研究・障害者政策をさらに前進させるために協力する機会となることを、心から期待しています。

(本学大学院先端総合学術研究科院生の三輪佳子さんによる報告を掲載)