開催報告(2015年10月24日開催)「終わらないハンセン病問題を考える〜映画『もういいかいハンセン病と三つの法律』」

掲載日: 2016年01月15日

 2015年10月24日(土)、立命館大学衣笠キャンパスにおいて生存学研究センター若手研究者研究力強化型プロジェクト「生存のナラティヴと質的研究会」主催で「終わらないハンセン病問題を考える〜映画『もういいかいハンセン病と三つの法律』」と題して公開研究会を開催しました。

 映画を撮られた高橋一郎先生(宝塚大学准教授)をお招きして、映画鑑賞後に高橋先生の講演と本学院生2人からの指定質問、やまだようこ先生(衣笠総合研究機構教授)からのコメントをいただきました。映画は1907年制定の「癩予防二関スル件」から始まり1996年の「らい予防法廃止」と2001年の熊本地裁での国賠訴訟勝訴判決までを丁寧に追いながら、ハンセン病回復者や原告側の弁護士などの関係者の証言が随所に織り込まれている作品となっていました。そして最後に「ハンセン病問題は終わっていない」というメッセージを観る側に訴えるものでした。

 高橋先生の講演は「『らい病』の物語を克服するために――ハンセン病の虚像と実像」というテーマで、ハンセン病の呼称の変遷や、それまでの差別的な法律の詳細、高橋先生自身がハンセン病問題と出会ったきっかけ、これから「らい病」の物語を書き換えつつハンセン病問題をどのように語り継いでいくのかという内容でした。高橋先生がハンセン病問題を初めて知るきっかけとなったのは、大学生時代の一冊の本との出会いでした。それは当事者である藤本としさんが書かれて、思想の科学社から出版された『地面の底がぬけたんです』(1974年)という題名の本です。そのなかでハンセン病に対する苛酷な差別の実態や国側の政策の問題に驚いたとともに、そのような環境下でたくましく生きる女性の姿にも魅了されたといいます。

 やまだ先生からは「被害」という側面だけでなく上記の藤本としさんのような人々の「強さ」や「たくましさ」などに着目する重要性が指摘されました。また、やまだ先生の日系アメリカ人強制収容所での調査経験をもとに、そこでも素晴らしい芸術活動がなされていたことなどが紹介され「レジリエンス」とのつながりからも考察がなされました。また、物語論からのアプローチによって固定した物語だけでなく多様な物語を作り出しながら生きることが人間の生存を豊かにすることが明らかとなりました。

 映画で証言された多くの回復者の方々は高齢になり、既に半数近くが亡くなっています。国立療養所では新たな問題として認知症患者の扱いや看取りの問題などが出てきています。また、国家公務員の定数削減問題が療養所にも及んでいます。これらを改善するための全国ハンセン病療養所入所者協議会は高齢化のために存続が危ぶまれている状況です。そして彼ら/彼女らの亡き後の療養所をいかに残していくかという問題もあります。我々はハンセン病問題を考え続けねばならないのです。決して、ハンセン病問題は終わっていないのです。また安易に終結を迎えられるようなものではないのです。

(立命館大学 先端総合学術研究科院生である青木秀光さんによる報告を掲載)