開催報告(2015年12月20日開催)出生をめぐる倫理研究会 4単著合同合評会

掲載日: 2016年01月14日

 2015年12月20日、生存学研究センタ―の若手研究者研究力強化型プロジェクト・出生をめぐる倫理研究会は、4単著合同合評会をキャンパスプラザ京都にて開催しました。本研究会メンバーが博士論文をもとに執筆した以下の単著4冊を取り上げ、コメンテーターに立正大学の溝口元氏、南山大学の丸岡高弘氏を迎えました。

 ① 由井秀樹『人工授精の近代――戦後の「家族」と医療・技術』(青弓社、2015年)、②利光惠子『出生前診断と受精卵診断――その導入をめぐる争いの現代史』(生活書院、2012年)、③山本由美子『死産児になる――フランスから読み解く「死にゆく胎児」と生命倫理』(生活書院、2015年)、④小門穂『フランスの生命倫理法――生殖医療の用いられ方』(ナカニシヤ出版、2015年)。

 本研究会代表の松原洋子・本学先端総合学術研究科教授の挨拶で開会し、第一部は日本に関する研究書『人工授精の近代』『出生前診断と受精卵診断』の著者による解題と溝口氏のコメント、第二部ではフランスに関する研究書『死産児になる』『フランスの生命倫理法』の著者による解題が行われ、丸岡氏からコメントをいただきました。

 解題報告において、由井は非配偶者間人工授精(AID)と戦後家族の関係を、不妊医療研究史という観点から検証し、AID導入をめぐる従来の3つの歴史的理解の修正を行ったことを説明しました。利光は、日本における受精卵診断導入をめぐる論争の経緯をたどり、いかなる力関係のもとでどのような文脈を経て導入されたのかを示しました。山本は、現在の生命倫理学で看過されている「死産児」という領域を、フランスの事例を用いて顕在化させ、その重要性、倫理的問題の所在を示しました。小門は、フランス生命倫理法に関わる議論を対象として、誰が医療技術を介して親になれるのか、その技術利用のルールは何のためにどのようにつくられるのか、生殖補助医療と社会の関係について明らかにしました。

 溝口氏からは、由井の研究はセクソロジー(性科学)、軍事研究の歴史や優生学に関するSTS(科学技術社会論)の知識を用いることで、より豊かな歴史記述が可能になるという示唆をいただきました。利光の研究については、その時代区分の成功がみとめられ、その上でより科学的な視点を取り入れた記述の可能性と優生学を批判する論理の強化が求められました。

 丸岡氏からは、山本の研究が示す「死にゆく胎児」について、アガンベンの「剥き出しの生」「ホモ・サケル」、アーレントの「権利をもつ権利」という現代思想の概念を用いた議論が示されました。小門の研究については、フランス方式は世界の中で有効なのかという問いかけ、またリベラルな家族制度・婚姻制度と保守的な生殖補助医療規制との関係が検討されました。

 全体ディスカッションでは、フロアの参加者から質問が出され、また各コメンテーターが担当しなかった書への質問やコメントを行うなど、活発な議論が展開しました。

(衣笠総合研究機構 専門研究員 吉田一史美さんによる開催報告を掲載)