開催報告(2015年10月16日開催)生存をめぐる制度・政策 連続セミナー「障害/社会」第7回「精神障害のある人への法制と成年後見制度の課題」
2015年10月16日(金)、立命館大学朱雀キャンパス303教室において、生存をめぐる制度・政策 連続セミナー「障害/社会」第7回「精神障害のある人への法制と成年後見制度の課題」を開催しました。
このセミナーは、「障老病異」のある人びとを研究の対象とする本センターが推進するプロジェクト「生存をめぐる制度・政策」のアウトリーチ活動の一環として企画されたものであり、今回で第7弾となります。今回は、東京アドヴォカシー法律事務所の池原毅和弁護士をお招きし、精神障害者と法律の問題についてご講演いただきました。
池原氏は、まず、障害者権利条約における障害の概念が「発展する概念」であるとされていることにフォーカスを当てるとともに、障害の捉え方が社会モデルである点を強調しました。その上で従来個人に帰属するものと考えられてきた判断能力も、社会モデルの観点から捉えなおすことができるとしました。医学モデルに基づく判断能力は、精神機能や脳機能の程度が基礎となります。それに対して社会モデルに基づく判断能力は、判断能力が低いとカテゴライズされたことで真に社会通念上の判断の機会を失い、結果として判断しない/できない人間とみなされたものと捉えなおすことができるのです。
次いで池原氏は、社会モデルの視点に立ち近代法における個人意思自治(私的自治)の原則・意思主義をとらえ返しが必要であると述べました。「効果意思」は、近代法における私的自治の原則においては動機などの社会関係を捨象し、「買う」なら「買う」、「あげる」なら「あげる」と人の内面のごく一部を技巧的に抽出したものとして構成されます。しかし、人間の内面の多くを捨象して回っている取引社会とは、間違いなく何かしらの不具合を生じさせていくことになります。池原氏は、こうした不具合を是正する取り組みとして、オープンダイアローグやオランダのファミリーグループカンファレンス、イタリアのコミュニティーメンタルヘルスが志向する方向が挙げられるのではないかと提案しました。
また、成年後見制度は、欧米を含めて合理的必要最小限度に限定した運用が求められており、そのための手続きも検討されてきたが、どの国も真に合理的必要最小限度に限定した運用にとどめることができませんでした。誰しも、個人の自己決定の制限を推奨するようなことはなく、やむを得ない場合に限り必要最低限度の運用にとどめるべきだというのですが、実際には自己決定を制限した方が円滑な場合が多く、それゆえに必要最低限度の運用にとどまることはなかなかありません。このことについて池原氏は、成年後見制度を残すことで犠牲になる人の数と、成年後見制度をなくすことで犠牲になる人の数のどちらが多いか、と質問を投げかけます。法律の実務家として現実を直視した上での厳しい問いかけでした。
また、そもそも自己決定が困難な人に対するアプローチは、決める人(後見人)の存在の問題なのか、それとも決める内容の問題なのか、決める人の問題ではなく、決める内容の問題なのであるならば、別の同意を推定する枠組みの用意が可能となるはずだと述べました。
講演に引き続いておこなわれた質疑応答では、動機と結果が結びつかない決定など内面の段階ですでに問題がある場合は、自己決定という装置に頼りきれるのか、頼りきれるのだとしてどのような具体的支援の可能性があるのか、医療同意といった事実行為と法律行為の制限との関係はどうなるのか、そもそも成年後見制度と意思決定支援制度とはどう違うのか、など活発で建設的な議論が交わされました。
(本学大学院先端総合学術研究科院生である桐原尚之さんによる報告を掲載)