開催報告(2015年9月19日開催)第4回「精神分析と倫理」研究会−−学校・自閉・精神分析−

掲載日: 2015年10月22日

 立命館大学生存学研究センターは2015年9月19日(土)、本学衣笠キャンパス学而館第3研究会室にて、第4回「精神分析と倫理」研究会−−学校・自閉・精神分析−−を開催しました。現代社会のアクチュアルな課題に、精神分析の知をつうじて接近することを目的とした本研究会の第4回目では、発達障害の精神分析臨床の可能性について学校臨床の視点から捉え直すことが試みられました。またそのうえで、これまでの研究会の議論を整理するため、臨床・思想それぞれの視点から二つの報告が行われました。

 第一部として、スクールカウンセラーとして活躍する丸山明氏(近畿大学カウンセリング室)による報告「学校臨床と自閉症スペクトラム」が行われました。学校での発達障害支援の制度的枠組みを確認することから始まり、現場で活躍するカウンセラーの目からみた現在の状況の整理、また豊富な事例を下敷きにした臨床像の紹介がなされ、学校での発達障害臨床が精神分析臨床家の視点から見てどのようなものか、具体的な提示が行われました。その後のディスカッションでは、フロアから、最近の医療と教育の関係性の変化や、神経症診断の消失と現状の関係などの論点が提示されました。また、内面の探求という意味での精神分析臨床に時間と労力がかかることと裏腹に、現代の教育=臨床場面にそうした余裕があるだろうか、といった問いなどが投げかけられました。

 第二部では二つの発表をつうじて発達障害の問題への精神分析的アプローチの可能性を確認しました。最初に行われた牧瀬英幹氏(大西精神衛生研究所付属大西病院)の報告「発達障害における臨床的問題について」では、発達障害ないし「自閉症スペクトラム」という枠組みでひとくくりにされているが、実は多様な臨床的差異をいかに考えていくのか、という問題提起がなされました。とりわけカナー型とアスペルガー型の区別をどう考えるかという問いが立てられました。

 続いて行われた上尾真道(立命館大学衣笠総合研究機構)の報告「現代病理モデルとしての「自閉」と発達障害」では、現代において「自閉」という概念が帯びる重要性の理解のためとして、医療制度における治療的監禁レジームから、精神保健福祉的レジームへの移行という視点が提示されました。またそれとの関連で、医学のみならず様々な支援者や運動体と連接するという「自閉」モデルの特徴が指摘されました。最後に精神分析理論を展開するかたちで、今日の「自閉」概念が示唆する主体形成のモデルを「二重分節」の視点から捉えることが提案されました。

 最後の討論では、精神分析がどのように臨床的に貢献できるのか、といった大きな問いも提起されるなか、一方で時代への抵抗として古典的な実践を維持することの意義と、他方で時代への適応のなかで実践の新たなモデルを考えていくことの意義、という二つの方向性が確認されました。

(立命館大学衣笠総合研究機構 専門研究員 上尾真道さんによる開催報告を掲載)