開催報告(2015年6月18日開催)目の前のアフリカ 第11回 植民地期の狂気:現代アフリカの精神障害を考えるためのプロローグ」

掲載日: 2015年07月22日

2015年6月18日(木)、立命館大学生存学研究センター主催企画第11回「目の前のアフリカ」セミナーが、衣笠キャンパス学而館第3研究室において開催されました。日本アフリカ学会関西支部との共催により、学外からの参加者を含めて、約30名の参加となりました。

 今回のセミナーでは龍谷大学の落合雄彦教授を特別講師としてお招きし、「植民地期の狂気――現代アフリカの精神障害を考えるためのプロローグ」と題して、講演していただきました。

 落合先生は、講演を通して、「アフリカ民地期精神医学が成立する素地がいかに社会・文化・時代的に構成されていったかを例を挙げて論じられました。まず、当時のアフリカ精神医学へ関わりが深い三名の人物を取りあげられました。先ず人種差別的な「民族精神医学」を提唱したジョン・コリン・D・カロザース、次に精神医学が植民地支配の道具と化していると批判し、心の病を支配する精神医学に代わり植民地主義の暴力から植民地諸国民の解放の必要性を訴えたフランツ・ファノン、最後に近代精神医学と伝統医療の融合による独自の治療システムを模索したトーマス・ランボー。これらの人びとの精神医学をめぐる実践・試みはいずれも植民地期特有の思想を体現していました。また、当時の精神医学の実際の診断や治療には植民地主義をめぐる様々なまなざしが混在しており、白人と黒人とでは診断結果や治療方法に異なりがみられたことを記録から明らかにされました。次に、落合先生は、宗主国イギリスの影響を受け建設された英領アフリカ諸国における精神障害者収容施設「アサイラム」をめぐる状況を説明され、植民地期の各国の「アサイラム」は宗主国のレプリカではなく、ある種の帝国主義的な状況を反映したものであったことを指摘されました。植民地期につくられた「アサイラム」は、アフリカの多くの国にとっていまだに主要な精神医療機関であり続けており、今日のアフリカの精神医療が植民地遺制を生きていることに他ならないと位置づけられました。最後に、現在のアフリカ精神医療の問題を読む手がかりとして、薬物依存の問題と精神医学との関係性を指摘され、このたびの講演を締めくくられました。

 会場からの質疑応答では、植民地時代の遺制とも捉えることができる「スティグマや、当時の精神医学者の思想と一般の人びとが持つ精神医学に対する捉え方の違いなどに関して、活発なディスカッションが展開されました。植民地期のアフリカ精神医学を紐解くことが、現行のアフリカ精神医学を理解する重要な糸口であることを理解し、表裏一体にある「精神障害のありかたをも改めて問い直す機会となりました。ご講演いただいた落合雄彦先生はもとより、ご出席いただきました皆さまに感謝申しあげます。

(本学先端総合学術研究科院生、小田英里さんによる開催報告を掲載)