開催報告 第10回「紛争後社会の和解政策を再考する―ポストアパルトヘイト後の南アフリカを中心に」

掲載日: 2014年12月22日

 2014年7月11日(金)に本学衣笠キャンパス敬学館211教室にて、第10回「目の前のアフリカ」セミナー『紛争後社会の和解政策を再考する―アパルトヘイト後の南アフリカを中心に』を開催しました。

 大谷大学の阿部利洋准教授に南アフリカの真実和解委員会の試みと和解論をめぐる理論的な到達点についてお話しいただき、その後、政治哲学者である本学先端総合学術研究科の井上彰准教授と和解と正義をめぐって対談いただきました。

 民族・宗教・人種の対立による分断と憎悪の増幅を前にして、その傷をいかに修復するのか。また加害者の社会復帰を模索し、被害者支援の方途を探る方向性にはいかなる制度や規範の構築がありうるか。阿部利洋先生は、このような問いをアパルトヘイト後の南アフリカの和解に向けた取り組みを題材に長年探究されてきました。

 昨年12月に逝去したネルソン・マンデラ大統領は、黒人初の大統領となった1994年の翌々年に、すべての人種がともに生きる社会の実現を目指して真実和解委員会(以下TRC)の設置を呼びかけます。国外からは、報復的な裁定によらない加害者への許しを通じた紛争解決、被害者の自律性を取り戻すための試みとして好意的に報じられたTRCですが、その内実はいかなるものだったのか。阿部先生は、TRC関係者や当時の公聴会の記録などから、TRCが直面した困難を浮かび上がらせます。そのうえで、社会的に和解をすることと社会的に和解を求めることを区別し、TRCの試みを、和解を意見の一致や最終解決とみなす視座ではなく、「和解の理念を社会的指針とすることで、武力紛争への交代を回避しつつ、新たな競合関係を誘発する」視座において意義づけました。すなわち、敵対的な過去を共有する当事者集団がその相互関係を改善する必要があるという視座を少なくとも共有したうえで、和解へ向けてのより適切な条件をどちらが提示するかという競合関係を築き、そこで優位に立つために相手からの承認を引き出すことを模索する、というものです。

 講演の後には、井上彰先生より、上述の視座は「討議民主主義」や「熟議民主主義」より、「闘技民主主義 agonistic democracy 」の考え方に近いのではないか、対抗的な局面を残しながらの修復的正義を考えていくうえで暫定的な合意はどのように考えられるのか等の問いかけがなされ、活発な対話が展開されました。引き続き行われた会場との質疑応答では、個人レベルの和解から社会的レベルの和解へとシフトする際に「社会」はどのようなものとして人々に理解/想像されていたのか、行為や感情レベルでの和解と現象としての和解をどのように接合すべきか等の質問がなされました。報告者自身(小川)は、ゲーム論的な視座からTRCの試みを捉えることに関心を抱きましたが、今回の報告は南アフリカのポストアパルトヘイト後の政策的試みを超えて、「和解」を論じうる枠組みの多様さ・複雑さを考えさせる豊かな機会となりました。

(本センター副センター長 本学先端総合学術研究科小川さやか准教授による報告を掲載)