開催報告 「映画を通じて問いなおす「記憶」の形成」による、「『こつなぎ――山を巡る百年物語』上映会」公開研究会

掲載日: 2014年09月22日

 2014年11月16日(日)に、立命館大学衣笠キャンパスにて、本学大学院先端総合学術研究科院生プロジェクト主催「映画を通じて問いなおす「記憶」の形成」による、「『こつなぎ――山を巡る百年物語』上映会」と題する公開研究会が開催されました。

 今回の研究会では、まずドキュメンタリー映画『こつなぎ――山を巡る百年物語』(2009年)を上映し、次に森下直紀さん(和光大学講師)をお招きしたご講演と、フロアをまじえた討論会の時間を持ちました。上映作品からは、入会権 をめぐる法的な紛争とその経緯がいかに記憶され、記録されたのかを知ることができました。「入会(いりあい)」とは、一般的に、特定の地域の住民が、自分たちの生活を支えるために山や川や様々な土地を共同で利用・管理する制度や組織のことを指し、そのように人びとが入会うことのできる慣習上の権利のことを入会権といいます。入会(権)は、日本では明治以降に土地所有に関する制度や国政の方針が改革されるなかで制限されたり否定されたりし、そのことに抵抗する運動が各地で展開されてきたという歴史的な経緯があります。

 研究会全体を通して、(1)映画の構成の特色(2)映画のテーマである入会問題という二つの論点が共有されていたと思われます。(1)について、『こつなぎ』では単なる同時代の記録ではなく、時期も作り手も異なる複数の記録を組み合わせながら物語を形成するという、独特の制作手法がとられていることが指摘されました。(2)については、『こつなぎ』で描かれる入会をめぐる争いの構造や、入会慣習をどう継承するかという問題を、観客が現代の視点から再点検することの意義が注目されました。それは、たとえば、入会林野で積み重ねられてきた問いが、空間の「共有」や「公」的な空間の利用といった事象の研究にも繋がると考えられるからです。講演者の森下さんは、日本で入会権をめぐる法的な紛争が起こってきた流れや、その歴史的背景、日本とアメリカにおける入会行為への認識の背景の差異などについてお話しされました。また、森下さんは、環境社会学や経済学から入会行為をみたときの解釈にグラデーションがあることや、コモンズ研究の文脈で入会空間がいかに分析できるかについても述べられました。その後、質疑応答が行なわれ、入会の議論に焦点化される近代日本における土地の所有・使用の権利や、慣習と法のせめぎあいなどをめぐって活発な議論がありました。

(立命館大学先端総合学術研究科 院生 岩田京子さんによる報告を掲載)