開催報告 「規範×秩序」研究会 特別企画「デモクラシーと福祉の規範理論」

掲載日: 2014年12月04日

 立命館大学生存学研究センター若手研究者研究力強化型「規範×秩序研究会」は、2014年9月23日(火)、名古屋大学大学院法学研究科教授の田村哲樹先生をお招きし、「デモクラシーと福祉の規範理論」と題する公開企画を開催しました。

 まず研究会メンバーである角崎洋平さん(衣笠総合研究機構専門研究員)が「給付・貸付・資本――「負債」に基づく福祉の構想」と題する報告を、次に同じく研究会メンバーの村上慎司さん(公益財団法人医療科学研究所リサーチフェロー)が「健康政策のためのヘルス・ケイパビリティ理論の検討」と題する報告をされ、それらの報告のコメンテーターを田村先生に務めていただきました。そして、最後に、田村先生に「「民主的家族」とはなにか」と題する報告をしていただきました。

 角崎さんは、フローの生活保障とストックの生活保障を区別したうえで、前者が主に給付によって、後者が主に貸付によって担われていることから貸付と給付は両立すると指摘しました。そのうえで、福祉的貸付制度に焦点をあて、そこで重要なのは「借りる」「貸す」の支配-従属関係ではなく、互恵的な関係であると、ロールズ等を参照しつつ論じました。これに対し、田村先生から、貸付制度を擁護する目的について、前半部分では各個人のよき人生に資するためとされていたが、後半部分では互恵的な社会を作るためと位置づけられている、これはどちらなのかといった論点が提示されました。

 村上さんは、アマルティア・センのケイパビリティ概念とジェニファー・ルーガーのヘルス・ケイパビリティ・パラダイムを比較検討し、それを踏まえて健康の平等と健康の衡平性の分節化を試みたうえで、ルーガーの中心的/非中心的ヘルス・ケイパビリティの区分と健康の平等/衡平性の区別がどう関係するのかを論じました。これに対し、田村先生から、ルーガーが中心的/非中心的をわける狙いは何か、また、村上さんは平等を中心的、衡平性を非中心的と位置づけようとしているがその狙いは何かという論点が提示されました。

 田村先生は、「「民主(主義)的家族」は、どのような意味で「民主的」なのか?」という問いについて、「民主的」とされうるいくつかの家族論、すなわちリベラルな家族、平等な家族、「意味形成」の場としての家族をそれぞれ検討し、それらとの差異から「民主的家族」とは何かを明確にされました。「民主的家族」においては、「家族」構成員も「異なる他者」であり、そこでは必ず「政治」(意見や利害の対立、その調整、その結果としての集合的決定)が発生します。それは負担を伴うある種の「魅力のなさ」を含んではいます。しかし、国家だけでなく、どんなレベルでも等しく「政治」の単位として考えるのであれば、「家族」においても、暴力的・強制的ではない形で共存し協力しようとする場合には民主主義が必要となるとされました。

 以上の報告について、研究会メンバーだけでなく、外部からの参加者も含めた活発な議論を行なうことができました。「規範×秩序研究会」は、本学先端総合学術研究科関係のメンバーが多く、外部への広がりという点に課題がありましたが、本企画を端緒として、今後より幅広い活動を展開していく所存です。

(本学衣笠総合研究機構・専門研究員である櫻井悟史さんによる報告を掲載)