障害学国際セミナー2016 ― ドア、太陽の塔、コナン

掲載日: 2016年11月01日English

法的能力(障害者権利条約第12条)と成年後見制度をテーマとする障害学国際セミナー2016を9月22日と23日に立命館大学の大阪いばらきキャンパス(OIC)で開催した。2010年に日韓の枠組みで開始された本セミナーは、2014年には中国の市民社会の参加を得て、日韓中の障害学に関する議論と対話の場となった。本年はさらに拡大し、台湾が加わったのが大きな特色である。

主題である法的能力の障害者全員への確保は障害者権利条約の一つの核心部分であり、国際的にも東アジアにおいても大きな課題である。同条約の国際的モニタリング機関である障害者権利委員会(来年から静岡県立大学石川准教授が加わる)が特定の条文の詳しい解釈である「一般的意見」の最初のテーマとして「法的能力」を取り上げたのは偶然ではない。

参加した韓国、中国、台湾、そして日本における障害者の法的能力の現状と課題の一部をセミナーは明らかにした。プログラムと発表資料を是非、ご覧いただきたい。

3か国語の同時通訳や資料準備、手話と文字通訳の提供などにより「国連スタンダード」の会議であるというお褒めの言葉をいただいたり「次回以降の開催のハードルが高くなった」という声を耳にしたりして、とてもうれしかった。参加者のアンケートもおおむね高い評価である。

私は事前準備の統括と当日の総合司会を担当したが、設営が始められていた会場に前日午後に行った際に他のスタッフから「もう終わったような雰囲気を醸し出している」と言われてしまった。韓国6名、中国7名、台湾10名、さらに香港から3名が参加した本セミナーでは、他の国際会議同様、各国・地域との事前の様々な連絡と調整が非常に重要である。特に韓国語、日本語そして中国語で開催のため、事前のパワーポイントファイルやペーパーの入手と翻訳には神経を使った。3か国語での資料の準備をさらにややこしくするのは、中国大陸で使用されている簡体字と、台湾と香港で使用されている繁体字の違いである。そうした準備もほぼ予定どおり進み、心配された台風16号の影響もなく前日を迎えられた安ど感が顔に出ていたのかもしれない。

enlearge image (to back to press x)ユニットバスの入り口の李燦雨さん

しかし、そうは問屋が卸してくれなかった。海外ゲストが泊まるOICセミナーハウスのフロントから連絡があった。私がさきほど部屋まで案内した、車いすを使用する韓国のゲスト、李燦雨さんがユニットバスに入れなくて困っているというのである。早速、部屋を再訪する。確かに、ユニットバスの入り口よりほんの少しだけ車いすの幅が広く、車いすで入れない。入口の段差は介助者の支援で何とか解決できるが、入り口の幅は問題である。ホスト役として私は大変焦った。トイレはフロント横のバリアフリートイレで何とかなるにしても、李さんが宿泊する4泊5日間、まったく汗を流せないのはまずい。平静を装ったが、「やばい」。

そもそも、新設されたOICセミナーハウスに、バリアフリーで、トイレやバスが円滑に利用できる部屋が一つもないのが正直、恥ずかしい。しかし、李さんの車いすの幅と入口の幅を確認していなかった自分の詰めの甘さをかみしめ、今さらながらバリアフリーの部屋を求めて、茨木市内外のホテルに切羽詰まって問い合わせの電話をかけざるを得なかった。

結局、李さんからの提案である「ユニットバスのドアを外す」ことが実現して解決策となった。OIC地域連携室のサポートもあり、ドアが外されたのである。これはまさに、障害者権利条約の批准に必要な措置として成立し、この4月から施行されている障害者差別解消法が求めている、障害に応じた変更や調整を意味する「合理的配慮」としての対応だった。

enlearge image (to back to press x)太陽の塔の前の韓国・香港ゲスト

白熱した議論を含め、充実したセミナーが終了した23日午後に、参加者の一部を万博記念公園に案内した。折角の機会なので、太陽の塔を見てもらいたかった。OICから近い大阪モノレール宇野辺駅から万博公園前駅までわずか一駅の近さである。OICから宇野辺駅までは車いすの動線が確保されている。宇野辺駅では同行した車いす利用者二人も、自力で支障なく車両に乗り込んでいた。大阪モノレールのバリアフリーの評価が高いのも、うなずける。条約第9条のアクセシビリティ(バリアフリー)の大切さを実感した。

テーマ以外でも、忘れられない会議になった。今回のセミナー関係で私が最も驚いたのは、中国の若い参加者二人(博士課程留学先の英国とアイルランドからそれぞれ参加)が終了後、鳥取に向かったことである。鳥取は名探偵コナンの聖地だというのである。調べてみると、確かにいつの間にか、空港の名前にまでコナンが入っている。中国の人からコナンと鳥取について教えられたのは意外だった。これもまた東アジアの障害学国際セミナーの醍醐味である。

障害学に取り組んで20年になってしまった。私にとっての障害学の魅力は研究と実践が一体なところにある。来年の障害学国際セミナーは韓国で開催予定である。

長瀬 修 (衣笠総合研究機構 教授(特別招聘研究教員)) arsvi.comの「長瀬 修 (衣笠総合研究機構 教授(特別招聘研究教員))」へ

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