アーカイヴィングの継承と新たな活用の可能性――生存と制度をめぐる研究会の活動

掲載日: 2021年09月01日

写真1 インタビューに協力してくださった、元BEGIN専従職員の鎌田真和さん

現在では、「当事者参加」の重要性が自明視され、障害に関する政策決定における障害者の参加が徐々に進んでいます。有効な政策提言をおこなうには、関連する情報の入手が不可欠です。そのような情報収集、提供のために1993年に発足したのが、「障害者総合情報ネットワーク(Basic Essential & Genuine Information Network: BEGIN)」です。BEGINは、インターネットが普及しておらず、情報公開法(2001年)が制定されていない時代に、日本の障害者政策に関する行政文書や議会議事録、障害者団体関係資料を収集してきました。BEGINが、2004年にDPI日本会議に組織統合するまでに収集した資料の数は、2766点に及びます。

生存学研究センター(当時)は、2018年、客員研究員でNPO法人ちゅうぶにお勤めの尾上浩二さんを通じて、BEGINが管理してきた資料を譲り受けました。その資料の整理、活用を目的の1つに、私たちは「生存を巡る制度研究会」を立ち上げました。BEGINについて知ろうと最初におこなったのは、専従スタッフとしてお仕事をされていた鎌田真和さんへのインタビューです。鎌田さんのお話からは、資料の収集、管理、提供の作業が休みなく続けられていたことがわかりました。それから私たちは、資料が多くの社会運動や研究活動に活かされるように、資料のリストを電子化してウェブ公開し、経年劣化していた資料の封筒と段ボール箱を交換しました。そしてこれらの研究活動の経緯を、冊子(伊東ほか 2021)としてまとめました。この活動は、2018年度~2020年度の生存学研究所の研究プロジェクトの助成を受けています。このような大規模な資料の整理、保存は個人ではほとんど不可能であり、大学や研究所の重要な存在意義だと思います。

写真2 研究会で作成した冊子と実際の資料の一部(資料は創思館415号室に所蔵)

政策は刻々と変化するものであり、常に最新の動向を把握して意見を言う必要のある社会運動にとって、BEGINの資料は当時ほどの重要性はないのかもしれません。しかし、障害者の社会運動や政策を考察する研究にとっては、当時以上に貴重な情報を提供してくれるかもしれません。そこで、研究におけるBEGINの資料の活用の仕方を、比較的資料の多い兵庫県に注目してご紹介します。BEGINの資料収集は、東京の事務所だけではなく、各地にいる会員も担っていました。このため地方の行政や運動に関する資料も、偏りはありますが収集されています。兵庫県と大阪府では、1992年に全国で初めて「福祉のまちづくり条例」が制定されました。兵庫県の条例は、阪神・淡路大震災を経て、1996年に2度目の改正を迎えました。障害問題に関心を持つ兵庫県内の団体による連絡会議である「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」による1995年12月の「改正に関するメモ」(文書番号867:註1)を見ると、条例は共生のためのまちづくりの実現のためにあるとして「超高齢社会を迎えるにあたり」という背景説明を批判していること、「高齢者等」を「高齢者・障害者等」と修正すべきと考えていることがわかります。また、連絡会議は、震災で明らかになった課題として、避難所となった学校の環境整備を求めています。さらに、震災で住宅問題に関する自分たちの認識不足が明らかになったことを認めつつ、障害者、高齢者、子どもなどさまざまな人が混在するような住宅設計、施設配置の重要性を指摘しています(文書番号771)。ここで実際の改正点を見ると、連絡会議が指摘した背景説明は変更されておらず、大きく改正されたのは、病院や飲食店といった特定施設のみならず住宅まで条例の及ぶ範囲となった点です 。この改正は、「加齢による心身機能の低下や事故等により障害が生じた人も自宅で日常生活を送る」ための「長寿社会に対応した住宅の整備」と説明されています(文書番号1021)。このように資料から、行政の想定する配慮の対象が、連絡会議より狭いことが読み取れます。さらに、高齢者を配慮の主たる対象として想定していたことにより、学校の環境整備が進まず、震災によって学校が生活施設となったとき、問題が現れたのではないかと考えることもできます。このようにBEGINの資料は、社会運動の主張の論点や政策の変化などを読み解く手掛かりになります。

[註]
1)文書番号は、BEGINによる資料の管理のための通し番号で、該当資料はリストから確認できる。

[文献]
伊東香純・塩野麻子・竹松未結希・櫻井悟史(編),2021,『障害者総合情報ネットワーク (BEGIN)収集資料集』生存を巡る制度編成プロジェクト.

伊東香純(日本学術振興会特別研究員)
竹松未結希(立命館大学先端総合学術研究科院生)

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