世代間コミュニケーションの定義を再考するために

掲載日: 2021年04月01日

アメリカのシニア・コミュニティにおける「世代間コミュニケーション」の捉え方と大学・大学生との関係性について調査することを目的に、アリゾナ州南部の高齢者関連施設を2018年12月から2019年1月まで訪問しました。アリゾナ州南部は一年を通して温暖な気候に恵まれるため、アメリカ全土からの避寒地として、特にリタイアメント者に人気があります。彼らの多くは、リタイアメント・コミュニティと呼ばれる、居住者の年齢が55歳以上であることといった条件が設けられているエリアに住んでいます。今回は、筆者がアメリカでの調査研究をおこなううえで長きにわたりお世話になっているアリゾナ大学とプログラムの提携などで関わりのある3つの非営利組織へのインタビューを試みました。

写真1:La Posadaメインビルディング

1つ目は、Arizona Senior Academy(以下ASA)です。ここは、大学教授が退官後もプロフェッショナルな学びを続けられる環境の提供を目的にアリゾナ大学で9年間学長を務めたH. Koffler氏が創設したコミュニティです。実際、居住者のほとんどが大学教員経験者でした。リタイア後も自分と似た価値観を持つ人々との会話を楽しみたい、知的好奇心を満たしてくれる場所に身を置きたいという理由からこの場所を選んだという話を数多くの住民から聞きました。Koffler氏は2018年に逝去されましたが、その精神は受け継がれているようでした。2つ目は、62歳以上が入居するCCRC(Continuing Care Retirement Community)のLa Posadaです。ここには自立型と介護型の2つのタイプの居住施設が用意されています。3つ目は、Green Valley市内の大小さまざまのリタイアメント・コミュニティの住民に向け多種多様なセミナー、イベント、運動施設などを提供するGreen Valley Recreation(以下GVR)です。Green Valley市は人口約23,000人のうちその80%近くを55歳以上のシニア市民が占めています。GVRが所有する13のセンターにはプールや屋外コート、学びや趣味のプログラムを提供する教室が用意されています。

写真2:13箇所あるGVRのコミュニティ・センターの一つ

これら3つの組織では、プログラムを提供するために運営管理スタッフだけでなくボランティアの存在も欠かすことができません。ボランティアの大半はコミュニティの住民であり、例えば退職前までドイツ語の先生をしていた人が学びのプログラムでドイツ語講師を務めるなど、自らの経験を生かした形で関与しています。そのほかに大学生のボランティアもいますが、実際にインタビューしてみると、筆者の予想に反し、こうしたボランティアは圧倒的少数ということがわかりました。GVRのイベント補助が数名、La Posadaのメイン・ダイニングルームでの給仕係が5名でした。ASAにボランティアがいないのは、ASAを創設した数年後にKoffler氏がアリゾナ大学を退官したことが大学との協力関係の希薄化に影響しているからだと聞きました。La Posadaのボランティアはアリゾナ大学の奨学生で、ここでの活動が学費免除の条件になっています。コミュニケーションの機会という点では、料理を提供する際に限定され、それ以上の積極的なコミュニケーションはないとのことでした。この点はGVRのボランティア学生についても大差はありません。3つの組織に共通していたのは、大学生など若い世代とのコミュニケーション機会があればそれに越したことはないが、かといって、積極的にその機会を設けようとはしていないという点です。また、大学生のボランティアが少ない理由として、非営利団体のため基本的に無償ボランティアであり、将来このような領域での就職を希望する学生以外は有給のアルバイトに流れることを挙げていました。

インタビューのなかで、大学生とシニアとの世代間コミュニケーションの現況を把握することを目的に調査をしていた私にとって新たな気づきを与えてくれた語りがありました。ひとくちに「シニア」と言っても、下は55歳、上は100歳近い年齢の住民が一つのコミュニティに存在する。すなわち、大学生が入らずとも「世代間コミュニケーション」が成立しているのだ、と。このことばにより、「世代間」の「世代」の捉え方を筆者自身が既存の枠にはまった捉え方をしていたことに気づかされました。世代間コミュニケーション教育の方策を考えるうえで、この「世代」の捉え方がコミュニケーションにどのような影響を与えるのかについて今後も研究調査を続けていきます。

野島晃子(先端総合学術研究科 一貫制博士課程 共生領域)

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