余暇活動を通じた知的障害者の権利意識の向上へ ――台湾における「自我倡導」運動の一事例

掲載日: 2020年09月01日English

私は、台湾における知的障害者の「自我倡導(Self-Advocacy)」の運動の展開を解明し、そして、その活動が日本や他の東アジアの地域とどのように連携しているのかについて研究しています。台湾では「自我倡導」と訳される「Self-Advocacy(セルフ・アドボカシー)」とは、2016年の国際育成会連盟(Inclusion International)によると、「障害があっても、自分と権利を知り、自信を持ち、自分らしい生活を営むこと。そして、仲間と一緒に働き、われわれの暮らしの環境(社会)を変えていくことです。」とあります。

2020年3月にこの「研究の現場」に「台湾における知的障害者の『自我倡導』――日本との連携と『わかる情報』をめぐる課題」が掲載されました1。そこで私は、台湾と日本の知的障害者の連携の背景について少し触れました。台湾における知的障害者の「自我倡導」の発展は、親の会の歴史と深く関わっています。また、専門家が運営する福祉団体や特別支援教育団体とも関係しています。

2008年に、台湾の知的障害者の親の会連合会である「中華民國智障者家長總會(PAPID)」(以下、智總)は、知的障害者の自立生活と自我倡導を促進するため、地方の親の会と福祉団体、そして知的障害当事者の活動をつなげていく全国的ネットワーク(「智總の会議」、「智總の自我倡導会議」、「自我倡導者交流平台(Platform)」などと呼ばれます。呼称は年度によって変更されます)を形成しました。その全国ネットワークの参加団体の多くの支援者にはソーシャルワーカーがいますが、このネットワークに2013年から参加している「第一社会福祉基金会」(以下、「第一」)は、就労支援員が支えています。

「第一」は、1980年に台北市で特別支援教育専門家が起業したもので、早期療育を主な事業としており、台北市における知的障害児・者へのサービス提供を行う三大民間福祉団体の一つです。スタッフは特別支援教育の専門家が多く、主に知的障害児を対象とする事業を行っています。1993年に成人のデイサービスとグループホームの事業も開き、2012年には台北市政府労工局から就労支援事業を委託され、知的障害者へのサービスを拡大しました。

2019年8月に私は「第一」で、団体における「自我倡導」の促進や、全国ネットワークに参加した経緯について、「第一」で16年間勤めている就労支援員の方にインタビューしました。1990年代後半、「第一」は事業団体内の利用者に充実な生活を提供するため、断片的に余暇活動を開始しました。具体的に、「第一」が就労支援の事業を運営しはじめてから、利用者の就職を安定させるために、第一の就労支援チームのスタッフは交替で平日の晩、また週末に利用者に向けた余暇活動を定期的に行いました。当初、就労支援員たちは利用者の「自我倡導」について考えていませんでした。「第一」は全国ネットワークに参加して以来、他の団体と交流し、事業団体内の知的障害者への活動について検討しながら、知的障害者グループ「第一就業青年聯誼會」を組織し、就職している知的障害者たちが限定に集まる余暇活動を続けていきました。余暇活動の内容は就労支援員が企画するものから、徐々に会員の知的障害者の望む活動に変更されていきました。2013年から現在まで「第一就業青年聯誼會」では、グループ内の活動準備や、グループ名の変更(2017年に「快楽時光聯誼會」と改称)、また入会条件などについて、利用者である知的障害者たちとともに決めています。「第一就業青年聯誼會」には、毎年有志の会員から「会長」と「副会長」を決める際に、立候補者自らが「会長」と「副会長」とペアになり、選挙活動を行ってきました。この選挙活動が他の知的障害者グループと異なっている点は、投票権を持つ人は知的障害者だけに限らず、支援者も同様に無記名の投票を行っていることです。この投票用紙や投票会場は台湾の総統選挙や地方自治体知事・議員選挙などを模したものです。こうした活動をとおして利用者は政治参加することを疑似的に体験し、公民権の意識を身につける目的があることがうかがえます。

インタビューの当日の夜、私は快楽時光聯誼會の会議に参加しました。テーマのひとつは「これから本会はどうするのか?」という快楽時光聯誼會の今後のビジョンについてでした。就労支援員は、知的障害者が快楽時光聯誼會を主導することが重要だと認識していますが、現段階では、知的障害者の会員たちはまだ自主的な活動が少なく、知的障害者がもっと広く社会的な権利意識をどのように身につけていったらいいかということが課題になります。「自我倡導」は、知的障害者自ら行動する公民権運動にすぐになり得るものではなく、段階的に発展していくものです。「第一」のように、台湾の各地に知的障害者の当事者団体それぞれ「自我倡導」に向けて異なる段階で存在しています。知的障害者が自ら行動して社会を変えていくようになるためには、各地の知的障害者グループが努力するほか、全国ネットワークもこれまでとは異なるような知的障害者の当事者団体との連携の仕方が課題になってくると私は考えています。

高雅郁(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生)

注12020年3月の「研究の現場」をご参照ください。


写真①:「快楽時光聯誼會」の会議で、知的障害者会員が意見を述べる様子。(撮影:筆者)


写真②:第一社会福祉基金会本部の外観。(撮影:筆者)


写真③:「快楽時光聯誼會」の会議資料。(撮影:筆者)

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