台湾における知的障害者の「自我倡導」――日本との連携と「わかる情報」をめぐる課題

掲載日: 2020年03月01日English

知的障害者が自らの意思を示して様々な活動を行って生活の向上を目指す社会参加を、台湾では「自我倡導(Self-Advocacy)」と言います。欧米では「セルフ・アドボカシー」または「ピープル・ファースト(People First)」運動、日本では「本人活動」、「当事者活動」、「当事者運動」などの言葉を使います。私は、台湾における知的障害者の自我倡導の発展の解明、そして日本や東アジアとの連携について研究しています。

台湾における知的障害者の自我倡導の歴史は、親の会との交流の歴史とも関わっています。1990年代、台湾と日本の知的障害者の親たちの交流が始まりました。台湾の知的障害者の親の会連合会である「中華民國智障者家長總會(PAPID)」(以下、智總)は、1992年の創立期から機関誌である『推波引水』に日本の「手をつなぐ育成会」(以下、育成会)の設立以降の歴史や組織変遷について掲載していきました。2002年には、米国の「The Arc」(知的障害者の親の会)の紹介と日本の育成会の応援のもとで知的障害に関わる国際組織である「国際育成会連盟(Inclusion International)」に参加しました1。国際組織への参加は、当初は親たちや専門家が参加しましたが、近年では当事者である知的障害者も同行しています。国際会議への参加によって、台湾の知的障害者たちは他国の知的障害者と接触する機会を得ることになりました。

台湾代表者である曾さんと私の録画風景。彼がカメラの前で話し、私は後ろで通訳した。(新竹市智障福利協進会提供)

2019年2月23日、「第5回全国手をつなぐ育成会連合会全国大会」が京都で開催されました。本人大会の第2分科会「本人活動」では、はじめて台湾の知的障害者が登場する機会を得ました2。この参加の前には、台湾の知的障害者は智總が主催する自我倡導者会議でこの大会に出席する代表者を話し合いましたが、旧正月の直後で休みを取りにくく京都へ渡航することは難しくなりました。最終的に、曾昱誠(ツン・ユツン)さんが「諦めたくない」と意思表示をして、会議出席の代わりにビデオ報告をすることになりました。

そこで、全国大会直前の2019年1月、私は台湾の研究調査の間に、支援者および通訳者として曾さんと地元の親の会の支援者と協力してビデオ報告の録画をしました。曾さんは2016年に相模原殺傷事件の植松聖容疑者が言った「障害者がいなくなったほうがよい」という発言に対して「それは差別だ!」「私たちは障害者だけではなく、他人と同じように、地域で自立生活ができるように願っている」と言いました3。当時、台湾でも事件は大きく報道されましたが、支援者は、その事件について知的障害者たちとどう話し合えばよいのかわからないと言っていました。

育成会の全国大会当日、私が立ち会ってビデオを放映しました。ビデオの冒頭で、曾さんは事前に何回も練習した日本語の挨拶と自己紹介をしました。会場の参加者は「日本語が話せるの!」と驚いたり「だれだれと似ている」と話したりしていました。曾さんは地元の知的障害者の活動と全国的な活動を話したあと、三つの質問をしました。質問の一つは、相模原殺傷事件と関連して「差別されないように、みんなは何かしていますか?」でした。意外なことに、日本の知的障害者の参加者は「差別」という言葉が分からないようでした。私は会場にいる知的障害者は差別された経験がないのかと疑問に思いましたが、知的障害者の司会者がバスの乗車拒否や外出時に凝視される例を挙げて説明しました。多数の知的障害者は、そういった経験を「差別」という言葉で捉えていませんでした。

言葉の理解は、他人に自分の意思を伝える自我倡導の出発点です。たとえば、「差別」という言葉への理解がないと、知的障害者が受けた経験を「差別」として周りの人や社会へ伝えられません。自我倡導は、知的障害者が自分の身の回りのことを理解しながら、自立生活の実現や社会参加を促進する重要な手法と過程です。しかし、多数の知的障害者はまだ身近な場で起きていることを「差別」のように認識する機会がほとんどありません。知的障害者が自立生活を送っていくためには、成人期以降の保護の問題とともに、社会参加をしていく上での「わかる情報の欠如」も大きな課題なのです。このことを、日本と台湾の連携活動のなかで強く感じました。

育成会全国大会本人大会第2分科会の様子。(筆者撮影)

私は、自我倡導の普及および台湾と日本の知的障害者の交流に実践的に協力するのとともに、知的障害者の自我倡導と自立生活に関わる知識が平易に伝わることに関する研究に取り組んでいきたいです。

高雅郁(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生)

1.台湾(Taiwan)は国際社会であいまいな政治的地位とされて、民間団体の活動にも影響を与えました。智総が国際育成会連盟への加入を申請した時、中華人民共和国(China)に入会を阻止されました。しかし、排除は連盟の「インクルーション(inclusion)」の理念に反するので「Full members(加盟国)」ではなく「Affiliate members(準加盟国)」として、入会を認められました。当時は、世界会議で「Taiwan」の名称が使われ、国旗をあげたこともありました。残念ですが、近年の連盟では智総はChinaに付属されています。智総は抗議しましたが、連盟は智総の貢献を認めたうえで、Chinaに付属することは変えていないようです。

2.2016年、国際育成会連盟のアジア・太平洋地区理事であった長瀬修さんの仲介で、台湾の知的障害者が育成会の全国大会で普段の活動や自我倡導を話し台湾と日本の交流を深める計画がありましたが、予算の関係で実現できませんでした。

3.相模原事件に対する曾さんの発言は、以下を参照ください。
https://www.papmh.org.tw/news/76

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