『動物も社会の一部?—スンバ島の死者儀礼における家畜の利用法から—』

掲載日: 2020年06月01日English

私は、インドネシア東部の東ヌサ・トゥンガラ州に位置するスンバ島にて、原住民のスンバ人が、彼らの慣習儀礼において家畜をどのように扱っているのか、また家畜が彼らの社会構造にどのように組み込まれているのかを明らかにするためにフィールド調査をしています。

スンバ島は、島の面積は約11,000km²と、日本の四国よりもわずかに小さい島です。島の気候は乾燥しており、雨量の少ない厳しい自然環なかでスンバの人々は、農業や牧畜を行い、島の名産にもなっているヒンギやラウと呼ばれる絣織物を織りながら暮らしています。この島には、祖霊や祖先を意味するマラプと呼ばれる土着信仰があり、この信仰によって定められた慣習に基づく生き方がスンバ島では伝統と見なされています。例えば、スンバ島の死者儀礼にも、慣習によって厳格に定められた葬儀手順が存在します。オランダによる植民地統治の影響から、多くの人々がクリスチャンに改宗して以来、現在ではマラプ信仰を守り続ける人々はごくわずかになりました。

マラプの慣習に基づく死者儀礼の一連のプロセスは、リ・メティと呼ばれています。スンバ島の死者儀礼の特徴を二点上げます。一つ目は、人が亡くなってから、その遺体が埋葬されるまでの期間が非常に長いことです。故人の遺体は、すぐに埋葬されません。遺体は、ヒンギで何重にもくるまれた後、家の中にしばらく安置されます。安置期間は1年以上にも及ぶこともあります。その間、喪主を務める親族は来る死者儀礼に向けて家畜を育て、来賓に提供する食事のために作物を育て、蓄えを作るなどの準備をします。準備が整い、死者儀礼が始まる段になっても、遺体は簡単には埋葬されません。ここから、他の地域に住む親族の弔問が始まるからです。ひととおりの弔問が済んだ後、ようやく遺体の埋葬が行われます。
二つ目の特徴として、死者儀礼において数多くの家畜を殺すことがあげられます。死者儀礼において、鶏、豚、畜牛、水牛、馬といった家畜が大量に屠殺されます。豚や畜牛は食事のために、鶏は占いのために殺されます。また水牛や馬は、故人が死後の世界での財産とするために供儀にされます。この時、死者儀礼の喪主を務める親族は、他の家畜の肉とは異なり、馬の肉だけは決して口にしません。私が経験した貴族階級の死者儀礼では、葬儀の始まりから遺体の埋葬まで10日間ほど日を要し、この期間中に馬と水牛が合わせて8頭、その外にも多くの豚や畜牛、鶏が殺されました。なぜ、スンバの人々は死者儀礼においてこれほど多くの家畜を殺す必要があるのでしょうか。人々へインタビューするなかで、殺された家畜たちから流れ出た血の量が多ければ多いほど、家畜の主人が豊かであるということ、そして角の大きな水牛、体躯の優れた馬などを殺すことは故人への感謝のためであるという話を聞くことができました。また、スンバの人々は理由の無い屠殺を嫌うことが分かりました。彼らは、来賓がいる時や儀礼時のときにのみ家畜を殺すべきであるとし、もし理由が無いまま家畜を殺せば、将来何らかの天罰が下ると考えています。

このようにスンバ島では、親族間の結束、そして社会の再生産にとって必要不可欠なものの一つが、家畜です。人と家畜との関係が、人と人との関係に深く織り込まれ、その両方が一体となり社会構造が成り立っているという点に、スンバ社会の面白さがあると私は思います。今後は、死者儀礼だけでなく婚姻儀礼や豊穣儀礼といった他のスンバ島の慣習も視野にいれ、そうした慣習の成立に家畜たちがどのように関わっているかを明らかにしていきたいです。

酒向 渓一郎
(立命館大学先端総合学術研究科院生)


写真左:スンバ島の慣習家屋。マラプの家と人々は呼ぶ。
写真中央:スンバ人の墓石。ここに亡くなった人々が埋葬される。


筆者が観察した東スンバの貴族階級(マランバ)の死者儀礼の様子。写真左にいるのは、供儀される馬

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