新しいサードプレイスとしてのゲームプレイの場
私の研究テーマは、「シリアスゲーム」です。シリアスゲームは、ゲームを娯楽以外の教育や訓練、心理治療などに応用することを目的としています。とくに、韓国のゲーム文化の特徴でもあるゲームプレイの場や、そこで営まれるゲーム文化のもつ意味に注目しています。
韓国ゲーム文化の中には、
図1 PC房の様子
日本のネットカフェとは異なり、PC席がオープンされて並べている。友人と一緒にワイワイしながらプレイする。横のカウンターでは、キムパ、ハンバーガーなど飲食店並みのいろいろなメニューを注文でき、席で直接出前をお願いすることも可能である。
こういった家族の外で形成される場について、アメリカの社会学者Oldenburgが提唱した「サードプレイス」という概念に注目しています(注1)。Oldenburgは、自宅を第1 の場、職場や学校を第2の場として、第3の場であるサードプレイスをそこから離れたカフェや図書館など、人々の交流が生まれる場と定義しています。これまでのゲーム研究では、ゲームをプレイする場も、人々の交流が生まれるサードプレイスとしての側面のもつ意味についても、あまり注目されてきませんでした。そこで私は、PC房などをゲームプレイに特化した設備が備えられたゲームプレイする空間としてとらえ、韓国のゲーム文化の特徴について研究しています。
シリアスゲームとゲームプレイの場が変化しています。たとえば、アナログ・シリアスゲームと呼ばれる教育目的に特化したボードゲームが注目されました。これらのボードゲームは、ボードゲーム房でもプレイされていますが、シリアスゲーム特有の教育的効果があることが人々に好まれ、教会でゲームプレイされることも多くなっています(注2)。また、一人でのプレイから大人数での同時ゲームプレイをするようになりました。PC房では、複数のプレイヤーが集まり、同じ場所で同じオンラインゲームをしながら交流しています。さらに近年では、デジタルとアナログの両面を融合したBig Gameがシリアスゲームとして活用されるようになりました。Big Gameとは、実際のいろいろな場所を移動しながら、プレイヤーが相互的に交流することも可能なゲームです。
図2 歴史を学べるBig Game のプレイシーン
場所や建物を移動しながら、一つ一つ謎解きを進めていく。ネットの掲示板でのネットを通じたコミュニケーションも行われている。
これらのゲームプレイの場のなかでも、とりわけPC房は、韓国ではデジタルゲームのネガティブなイメージと結びつけられてきました。デジタルゲームもPC房もとともにゲーム依存をもたらすと考えられ、社会から隔離されていることでゲーム依存が強まる空間なのではないかという議論もあります。しかしその一方で、Cheeが指摘しているように(注3)、PC房はプレイヤー間の活発な交流が生まれる場で、とくに、若者がゲームプレイをしながら余暇として時間を過ごす場所でもあります。近年の多くのボードゲーム房は、まさにカフェのように気楽に入って楽しく交流する場所になっています。
PC房をはじめとする韓国のゲームプレイの場は、より私的場から公的場に近づき、ときには現実世界と仮想空間のコミュニケーションが同時に行われる特別な意味をもつ空間になっています。こういった変化の中で、ゲームプレイの場がもつサードプレイスとしての位置付けを考えています。
シン・ジュヒョン(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生)
(注1)Oldenburg, Ray. [1989] 1999. The Great Good Place: Cafes, Coffee Shops, Bookstores, Bars, Hair Salons, and Other Hangouts at the Heart of a Community. 3rd ed. Da Capo Press. (=2013. 忠平美幸[trans.]『サードプレイス――コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』みすず書房)
(注2)教会はデジタルゲームに対して否定的でしたが、教育用ボードゲームを最もプレイしている場でもあります。
(注3)Chee, Florence. 2006. “The Games We Play Online and Offline: Making Wang-tta in Korea.” Popular Communication. vol. 4, no. 3, pp. 225–239.