人が人を閉じ込めたり縛り付けたりしない社会の実現に向けて

掲載日: 2019年09月01日English

私は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの重度の身体障害を持つ人たち、難病や精神障害を持つ人たちと関わりながら、障害や病を持つ人たちの生活をめぐる問題について幅広く研究に取り組んできました。そこでは、そうした障害や病を持つ人たち自身が自らで自らの生活を獲得していく/取り戻していく活動にも触れて、どのようにそれが実現されていくのかにも目を向けてきました。

アジア太平洋精神障害者国際会議で報告している様子

その中でも、2012年11月に参加した国連アジア太平洋経済社会委員会による第二次アジア太平洋障害者の10年の最終年ハイレヴェル政府間会議は、国際的なフィールドワークに踏み出す大きな一歩となりました。そこでわかったのは、国や言語、文化が異なっていても、障害や病を抱える人たちが共通した悩みや問題、課題を抱えていることでした。その一方で、その解決に向けては、国や障害種別を越えてどのように連帯していくかが課題としてありました。

東南アジアを中心に、精神障害者を収容するための場所として社会的ケア施設(social care institute)が、あちこちに存在しています。その様相は、沖縄県名護市で保存が目指されている座敷牢や兵庫県三田市の監禁致死事件と一見似ているよう見えますが、全く異なります。日本における精神障害者の収容の歴史からも確認できないような施設です。社会的ケア施設は、拘禁を目的に依頼者から資金提供を受けている民間施設もあれば、公的な資金を得て運営しているところもあり、様々な形態や構造を持ちながら幅広く存在しています。

他方で日本の場合は、戦後まで、屋敷の一角を格子などで厳重に仕切って外へ出られないようにする座敷牢が監禁施設の中心を担っていました。非人溜のような収容型の施設はそれほど多くなかったようです。戦後は、心身を崩す者の療養で病院が足りないため温泉宿などが使われ、高度経済成長以降から急速に民間精神病院が増えたことで施設中心となっていきました。重要なのは、こうした収容の歴史や施設の違いを踏まえたとしても、結局のところ精神障害者を閉じ込めてあらゆる自由を奪うという点では共通していることです。この共通の課題――精神障害者の自由を奪う仕組みの解体に向けて、アジアの精神障害の本人たちが自ら立ち上がりネットワークを作り国際的な取り組みが始められています。

精神障害の本人の社会運動は、精神障害者を閉じ込めて自由を奪う収容を否定し、地域生活の実現に向けた活動を展開してきました。国際機関への参加や働きかけも重要な課題として位置付けられ、取り組まれてきました。私は、精神障害者の団体が世界組織として参画するための枠組みをどのように獲得していくかを調査し、同時にそのプロセスを支援する経験をしました。結果として、アジア太平洋障害者の権利を実現するインチョン戦略の作業部会に、精神障害者の団体が参画する枠組みができました。こうして精神障害者の運動は、国際的な議論の場を獲得し、開発のスキームを活用した社会運動を展開してきました。

しかし、「低開発国」を「先進国」が開発するという開発のスキームの文脈には、開発が無条件でよいものとみなされ、それによって国と国の力関係が規定され得るような危うさを持っています。だからこそ、国境を越えて地域共通の課題へと結びつけていく足がかりとして、アジアの精神障害の本人たちが自ら立ち上がりネットワークを作り活動が求められます。

インドネシアの社会的ケア施設で鎖に拘束されている精神障害者

インドネシアやネパールには、社会的ケア施設や座敷牢の中で首や手足を鎖に巻きつけられ、木製の装置で拘束されている精神障害者が多くいます。注意しなければならないのは、鎖や装置を断ち切っても、人が人を閉じ込めたり縛り付けたりするという現象を打ち崩せないことです。日本の精神科病院における身体拘束も同じ問題を抱えています。障害を理由にその人の自由が奪われない社会の実現に向けて、研究と実践の両面から取り組んでいきます。

長谷川 唯(立命館大学衣笠総合研究機構生存学研究所客員協力研究員)

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