台湾における障害のある性的マイノリティの「同志運動」の実践

掲載日: 2019年07月01日English

西門町で「残酷児」のメンバーのヴィンセントさん(右)とお会いしました。

私は、障害のある性的マイノリティの活動と社会運動を研究しています。今回の台湾の調査では、性的マイノリティの社会運動である「同志運動」(注1)に関わる人たちや組織を訪問しました。

台湾では、性的マイノリティの文化を讃え、法的権利を求める社会啓発イベントが2003年から台北でおこなわれています(注2)。2008年の第6回台北プライドパレードでは、あるグループの姿がメディアで数多く報道されました。グループ名は、障害を表す「残」と「風変わりな」という訳である「酷児」(クィア)を合わせた「残酷児」です(注3)。グループメンバーは「残酷児」と書かれたフラッグを持って、性的マイノリティを象徴する赤、橙、黄、緑、青、紫の6 色で構成されるレインボーカラーの車椅子で参加しました。台湾で初めて、障害のある同性愛者が自らの性的指向を開示するカミングアウトをして、プライドパレードに参加したのです。

それから10年間、「残酷児」は自助グループとして活動してきました。身体障害者で同性愛と自認する「残酷児」メンバー、ヴィンセントさんは、障害をもつ友人とともにプライドパレードに参加しました。今回の訪問では、最初にヴィンセントさんに「残酷児」発足の目的をお聞きしました。第一の目的は、他の障害のある性的マイノリティに「あなたは一人ではない」というメッセージを伝えることです。第二の目的は、プライドパレードを通して、異性愛の障害者の状況、とりわけ主流の同志文化との隣接関係を実感し、他者との共生を考え、障害のある性的マイノリティのアイデンティティを再認識することです。

西門紅樓周辺の店とレインボーフラッグ

次に、ヴィンセントさんは、台湾最大の同志文化の発信地である西門町を案内してくれました。西門紅樓の周囲はLGBT向けのショップ、バー、カフェが立ち並んでいます。西門紅樓にある店は露天席が多いので、車椅子も便利に利用できます。しかし、ヴィンセントさんはLGBTフレンドリーの店にもかかわらず、障害者という理由で利用を拒否された経験があると話しました。障害者は、性の多様性に寛容な健常者の社会からは排除されたのです。

ヴィンセントさんは、障害と性的マイノリティという社会的に排除されやすい要素の重なりを生きている現実を改めて直視し、同志運動だけでなく、障害者運動にも参加する必要性を感じました。異性愛中心の社会に挑戦する同志運動と同じように、障害者は健常者中心の社会で自らの権利や性を追求していくしかありません。プライドパレードの参加は、自らの困難を乗り越えて、多様な生き方の可能性を探求する行動のひとつなのです。

「残酷児」の活動で、台北プライドパレードのバリアフリーが実現され、他の組織も障害のある性的マイノリティに注目しました。例えば、台湾最大の性的マイノリティ支援団体の台灣同志諮詢熱線協會(LGBTホットライン)は、耳が不自由な性的マイノリティ向けの手語サポートや座談会を実施するようになりました(注4)

アジア最大と言われている台北プライドパレードは、2018年の参加人数が13万を超えました。「残酷児」は、障害と性的マイノリティの重なりあいでうまれた困難を問題提起しています。今後、アジアで障害と性的マイノリティの多様性の議論が広がることを期待しています。今年10月のプライドパレードで一緒に歩きましょう。

欧陽珊珊(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生)

  • (注1) 1990年代ごろから中国語圏では、「同志」は性的マイノリティを表す用語として定着しました。「同志」には、平等な仲間、スティグマの解消などの意図があります。1996年の台湾では、様々な団体による社会運動が台北新公園(現二二八平和公園)で「同志市民権」運動をはじめ、多様な形で展開しました。
  • (注2) 台湾では、2003年に台北で「臺灣同志遊行Taiwan LGBT Pride」を初めて開催しました。今年2019年は第17回が行われる予定です。近年では、台北以外の地域、台中・台南・高雄・宜蘭・花東(花蓮・台東)でもプライドパレードを開催しました。
  • (注3) 残酷児
  • (注4) 台灣同志諮詢熱線協會

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