理解すること/されることを考える――自閉症スペクトラム障害についての社会学的研究

掲載日: 2019年05月01日English

写真1:2018年11月の障害学会で

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、医学・心理学・教育・ASDと診断された人たちによる社会運動など、いくつもの学問領域にまたがって展開される大きなテーマです。そして、私は、ASDを社会学の視点から研究しています。特に、専門家がある人々をどのように「問題」としてきたか。そして、「問題」とされた人々が自分の経験をどのように語り、時に反論してきたかに関心があります。私がASDの歴史や言説に興味をもつのは、私もまたASDだからです。私は大きく体調を崩したことをきっかけに、成人後ASDの診断を受けました。以来ASDの人の著作物を読むようになりましたが、自分と似ていると感じるところもあればまったく違うと思う話もあり、このような違いへの強い興味が研究の出発点です。

ASDは社会性の障害(無関心も含めたコミュニケーションの問題)と常同行動(こだわりや繰り返しなど)の2つの特徴で定義される発達障害の一種です。ASDの歴史は、1943年に児童精神科医であるレオ・カナーが、情緒的接触をもたない児童を「自閉症」と報告したことに始まります。親を恋しがらず、だっこを拒む子どもたちは、どれほど不思議に思われたことでしょう。それ以降、多くの医者がASDの定義や原因を議論してきました。1985年にはASDを認知能力の点から説明を試みる心理学的な研究も始まりました。

ASD史上の重要な出来事として、1986年にテンプル・グランディンというASD女性が『我、自閉症に生まれて』という手記を発表したことがあります。グランディンは、母親やメンターの支援を受けて博士号を取得し、畜産器具の会社を設立した、ASD界のスーパースターです。当時、自閉症者は一生を施設で終えるものだと考えられていましたが、グランディンの登場によって、適切な支援と本人の努力があれば社会で暮らせることがわかったのです。

写真2:2019年2月の公開研究会で発表する様子

手記の出版を皮切りに、近年では、障害とされる特徴を神経学的な差異として尊重すべきだと主張する運動も展開されました。しかし、「良き自閉的在り方」は様々です。たとえば、私は昨年の障害学会で2冊のASD者の手記を分析して発表しましたが、2人の経験はかなり異なっていました。また、語りが発信されたことで、ASDへの理解が大きく促進されたといえますが、同時に、手記等を通じて語れる人は決して多くないことにも留意すべきです。語らない人や、言語・知的障害をもつ人もASDのメンバーです。そして、ASDへの注目の高まりと共に、ASD者の家族など支援者の困難も報告されるようになりました。本人に悪気がないとしても、コミュニケーションが上手くとれないことは関わる人にとっても悩みになり得ます(注1)

私たちは、日々の生活で上手く意志疎通できない場面に度々遭遇します。ASDの特徴は社会性の障害といわれますが、コミュニケーションは2人でするものです。問題が起きた際、もしかしたら偶然気が合わなかっただけかもしれないのに、片方の人の「障害」が原因だと捉えられる場合があります。これはなぜ、どのように起こるのでしょう。ある人が意志疎通できないと判定し、障害者と認定することは、社会的な営みなのです。そうであるにもかかわらず、社会学分野のASD研究は多くありません。私は博士論文で、各分野で流通する知識やASDの人々の言説を丁寧に整理し、複雑さを解きほぐし、大きな見取り図を作る予定です。

ASDの謎が解き明かされ「わかる」ようになることは大切です。しかし、「わからない」部分があったとしても幸せに生きられることはもっと大切ではないでしょうか。理解すること・されることを強く求められ、語らなくてはいけない社会は誰にとっても大変だと思います。「自閉的な在り方」も含めて、色々な人がもっと自由に生きられる社会を、ASDの研究を通じて考えていきたいです。

高木美歩(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生)

(注1)2019年2月には、金沢大学から佐々木拓先生をお招きして、病や障害がもたらすある種の「できなさ」と「責任」をテーマにした公開研究会を行いました。そこで私は、恋人や夫婦などの親密なリレーションシップが非常に困難な状況に陥った際、片方の人が、(未診断や傾向も含む)ASDであるためにリレーションシップが「失敗」したのではないかと主張する、カサンドラ現象(症候群)という概念について報告しました。この概念は正式な病名ではなく、また、今まさに論争中の概念ですが、親しい人とのディスコミュニケーションや、ケアの難しさを述べるものとして、注目しています。

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