「植民」からみた経済秩序――文藻外国語大学「<日本文学・言語・文化>国際研究フォーラム」研究発表と「植民地遺構」を歩く

掲載日: 2018年07月01日English

一二三亭

私は、北海道と「植民」をキーワードに日本近現代史の研究をすすめています。

6月の高雄は、気温以上に陽射しが強く、昼間に歩いている人もまばらな様子です。私は台湾に行くと近辺の日本帝国時代の「遺物」を歩き、植民地の記憶がいかに扱われているのかを必ず見るようにしています[*1]。西子湾に面した地域には建物が多く残っており、日本統治時代の高級料亭の名前をそのまま引き継いだ「書店喫茶・一二三亭」に立ち寄ったところ、「鳥居」の前で女性が整列している写真が飾られていました。一見したところ日本時代のものか「光復後」(=日本統治終結後)のものか判別しづらい写真が、日本時代の雰囲気をデコレートするために飾られていることに興味をそそられました。この鳥居があった高雄市忠烈祠を訪れたところ、お茶のセットを傍らに軍人将棋に熱中するおじいさんたちや観光客、地元のカップルなどが集う展望スポットになっていました。台湾では国民党による統治とともに戦没者を祀る忠烈祠が建設されますが、その多くが日本帝国時代の神社を流用したものであり鳥居が残されていました。高雄市忠烈祠において日本的なものが撤去され、中国様式へと建て替えられるのは1970年代だったようです[*2]。忠烈祠のある山のふもとにある武徳殿はさらに奇妙な建物です。入り口にはしめ縄を巻かれたガジュマルの巨木が立ち、まるで神域かのようにデコレートされた内部には、「宮本武蔵二天一流剣術指導用木刀」や「徳川家康将軍剣術指導 柳生流専用木刀」などが飾られています。この場所が史跡に指定され改修工事されたのは2000年代以降のようです。喫茶店にあった鳥居の写真もそうですが、見る側に対してこの場所はどのような記憶や感情を喚起するのでしょうか。

高雄市忠烈祠

街歩きだけではなく、2017年6月10日には文藻外国語大学で開催された国際フォーラム「<日本文学・言語・文化>国際研究フォーラム――知と体験」で研究発表を行いました。私が研究発表をしたのは歴史・社会・文化部会で、発表のタイトルは「Settler Colonizationに関わる日本・ドイツ・植民地期台湾の知的連関――東郷実と高岡熊雄のドイツ内国植民研究」というものでした。近年、移民・植民が形成する植民地主義を問題化する英米圏のSettler Colonialism研究の興隆があり、日本帝国研究でも移民・植民問題が大きなテーマとなっています。歴史研究においては札幌農学校(後の北海道帝国大学)から台湾総督府への人材供給に関わる研究が蓄積されており、北海道と台湾の両地域に対する日本帝国統治の歴史的関係性が議論されてきました。私の発表では、札幌農学校を卒業した高岡熊雄と東郷実という二人の人物が、ドイツ留学でえた学知と北海道の開拓経験(当時の用語では「内地植民」)から、日本統治下台湾での「植民」を通じた経済秩序をいかに構想していたかを比較しました。札幌農学校・北海道帝国大学というアカデミズムのなかで「植民学」を研究する高岡熊雄に対して、東郷実は大正末期に衆議院議員となるまでは台湾総督府に勤めていました。札幌農学校で学んだ両者に共通するのは「植民」を通じた社会進化のモデルですが、大正期を通じて社会政策へと接近して「植民論」を展開する高岡に対して、東郷は「台湾における資本主義的植民地の欠点」を補うための方法として「植民」を位置づけます。植民地経済における現地人の教育問題として議論される「共生主義」(『独逸内国植民論』拓殖局、1911年)や、台湾の経済的独立自給の問題として議論される「共棲主義」(『台湾農業殖民論』富山房、1914年)など、大正期の台湾をめぐる議論がその後の日本帝国の経済秩序の構想にどのような影響を与えたのか、研究を続けたいと思います。

同部会の午後には、本学先端総合学術研究科修了生の李姵蓉さんも「日本の原子力政策に関する一歴史社会学的考察」として、日本の原発輸出政策についての発表をされました。2025年までに脱原発を実現する法案が可決・成立したばかりの台湾では原子力/核への問題関心が強く、今後の日台関係史の大きなテーマとなっていくと思われます。脱原発運動と原発事故後の未来を作品化した伊格言『グラウンド・ゼロ 台湾第四原発』は、倉本知明さんの手によって日本語訳が出たばかり。文化中心駅近くの三餘書店を案内していただきましたが、重厚な『はだしのゲン』の中国語訳が平積みにされていたのが印象的でした。

番匠健一(同志社大学<奄美・琉球・沖縄>研究センター嘱託研究員、立命館大学 生存学研究センター客員研究員)

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この成果は、生存学研究センター2017年度若手研究者研究力強化型「国際的研究活動」研究費の助成を受けたものです。

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