難病患者運動のこれから

掲載日: 2019年03月01日English

写真1:筆者の近影。NPO法人ALSしがネットの事務所で撮ったもの。

私は、1977年に妻が重症筋無力症を発症したことをキッカケに滋賀県難病連絡協議会(滋賀県難病連)の結成に関わりました。また、実姉が2001年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症したことをキッカケに、日本ALS協会滋賀県支部の結成(ALS滋賀県支部)にも関わりました。実姉の介護を通じ、重症難病患者や重度障害者が家族に気兼ねすることなく、自らの意思で在宅療養が可能となる仕組みを造りたいと思い、ALS滋賀県支部のもとに介護事業所を始めました(注1)。そして、滋賀県難病連の常務理事をしていた2006年に生きる手段がありながら生かせられない原因を探求しようと思い立命館大学大学院先端総合学術研究科に入学し、2017年に学位を取得しました。学位論文では、三十余年にわたる難病患者運動の歴史を詳述し、現に運営している介護事業の実態を踏まえ、難病患者運動の歩む方向を提起しました。

難病者の療養環境改善を目指す滋賀県難病連の運動に関わり三十余年になりますが、運動では年中行事のように滋賀県に要望書を提出し、交渉し、回答書を受け取ってきました。行政の対応は、いつも同じというわけではありません。部長や課長、補佐が代わる毎に対応が変わります。たとえば、「回答書をやめて口頭で」、「今期限りにする」、「交渉は担当課だけで」、「補助金を打ち切る」など、担当者によっていうことが変わりますので、われわれは交渉のたびに期待と落胆を繰り返すこととなりました。

一喜一憂していた状況が大きく変化したのが、2008年4月のことでした。また、ALS滋賀県支部の働きかけで同年10月超党派の議員で滋賀県難病対策推進議員連盟(難病議連)が結成されたことで、これまでの滋賀県難病連と滋賀県行政の二者の関係から、滋賀県難病連・滋賀県行政・難病議連の三者の関係となりました。その結果、滋賀県行政との関係は対等平等・誠意を持った話し合いが基本となり、市民団体と行政との「協働」を実感する状況が生まれました。話し合い抜きに難病施策が進められることもなくなり、永年要望してきた難病施策の検討機関である滋賀県難病対策推進協議会の再開や滋賀県難病連の代表の参加、不要入れ歯リサイクル事業の推進、滋賀県難病連の事務所の使用料の大幅な減額、難病啓発の自動販売機の設置などが次々と解決あるいは改善しました。その理由は住民の声に耳を傾ける行政官と難病議連の存在によるものと考えられます。

しかし、それで十分というわけではありません。たとえば、重い疾患・障害のある人の在宅での生活を現実に可能にするには介助(介護)が欠かせません。2010年当時の滋賀県には介護保険制度や障害福祉サービスの制度はありましたが、いわゆる医療的ケアが必要な重度障害者に提供するサービスは無いに等しい状況でした。そこで、滋賀県難病連の加盟組織ALS滋賀県支部が別に組織を立ち上げ、24時間介護サービスを提供する活動をはじめました。この活動は、2019年現在も続いています。

写真2:NPO法人ALSしがネットの事務所の机上に並べた拙著。

こうした私自身の活動体験をもとに執筆したのが、このたび出版した『難病患者運動――「ひとりぼっちの難病患者をつくらない」滋賀県難病連の歴史』です。本書では、学位論文の内容をもとに、今後どのような運動が展開できるのか、障害者の権利条約の理念を具体的に実現していくにあたって、難病の患者会や地域難病連はどのような役割を担えばよいのかという課題を提起しました。また、「あとがき」には妻や実姉の闘病生活の様子を書き加えました。

地域難病連は、それぞれの都道府県にあります。この地域難病連の研究はこれまでほとんど手が付けられてなく、本書が滋賀県という単位での難病患者運動の連合体、滋賀県難病連の記録を著した最初のものです。時間が経過して運動団体の役員も変わると、記録自体が散逸し、忘れ去られてしまいます。全国各地の地域難病連では、それぞれ優れた運動が展開されていると思います。本書が、そうした地域難病連運動の掘り起こしや、それらの運動の継承発展へとつながるキッカケとなるのであれば、この上ない喜びです。

最後になりましたが、本書に先端総合学術研究科の立岩真也先生から「ここから始めることができる」と題する一文を寄せていただきました。博士論文の審査会の様子なども具体的に知ることができ興味深い内容です。こちらも是非お読みください。

葛城貞三(NPO法人ALSしがネット理事長)

(注1)特定非営利活動法人ALSしがネット (077-535-0055)

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