「精神保健・医療と社会」研究会

前年度までの活動と成果を継承し、〈精神医療〉の名のもとに実践されている多種多様な事象を、関連当事者の観点を尊重しつつもそれを絶対視することなく、理論的かつ経験的に――あるいは〈批判的〉かつ〈建設的〉に――検討する。前年度は海外調査に傾注したため実施できなかった、日本各地における精神障害当事者や支援者の実践を調査し、精神障害/精神医療とかかわる〈生存の技法〉の基礎資料の集積と、それらの精査をさらに推進する。身体障害および難病関連領域と比較しても研究の歴史が浅く、資料の蓄積も乏しい精神障害当事者や支援者の実践(とくに前者)に焦点を当てることにより、既存の学範とはことなる視点から、〈障害〉や〈病い〉にかんする知見を提示する。

本研究は、生存学研究センターの掲げる学問的課題群のうち【生存をめぐる現代史】と【生存をめぐるエスノグラフィ―】に貢献できる。第一に、本研究は、「生存学」においても身体障害および難病関連領域と比較して蓄積の乏しい精神障害当事者や支援者の実践に焦点を当てることによって〈障害〉や〈病い〉にかかわる新たな知見を提供可能である。第二に、その知見にもとづいて本研究は、〈身体〉〈難病〉当事者どうしや支援者との間のそれとはおそらく決定的に異なるであろう、精神障害当事者間、および彼ら彼女らと支援者の間での相互行為をめぐる秩序の解明といったような、新たな論点を切り開くことを可能とする。本研究は多岐にわたるが、一例を挙げると、精神障害者による〈抑圧への抵抗とその実践〉にかんする現代史研究を推進することは、これまで等閑視され資料の集積すらほとんど進んでいない、精神障害者にかかわる生存の技法とその実践、それらへの支援者(医療・福祉専門職/ボランティア/家族)の関与形態、そこでの相互行為秩序のあり方、といった諸点にたいして正当な評価、および批判的・建設的な学的検討の機会を与えることになる。なかでも、上記の研究を推進する過程において精神障害者による抵抗実践の具体的方法を検討することは、比較的研究の蓄積がある身体障害当事者の抵抗実践と精神障害当事者によるそれとの異同を比較検討することをつうじて、障害当事者運動史の〈書き換え〉にもつながるだろう。

プロジェクト名 「精神保健・医療と社会」研究会
プロジェクト代表者 安部彰
年度 2013