「精神と生存の運動」研究会

本プロジェクトは、精神障害者による社会運動の現代史を明らかにすべく、基礎資料を集積することを目的とする。

日本の精神障害者の社会運動は、①知られている限り結成当初から刑法改正保安処分新設に反対していた世界で唯一の団体が現存している、②知られている限り身体障害者と連帯した最も古い組織が現存している、③知られている限り世界で4番目に古い全国組織が現存している、など世界的に見て特異であるといえる。他方、身体障害者の社会運動の研究は、不明なことも多いが運動の系譜や現代史にかかわる研究、運動の主張の構成や生存の技法にかかわる研究など一定の蓄積がある。にもかかわらず、精神障害者の社会運動の先行研究は、精神保健援助に寄与する目的で行なわれる海外のセルフヘルプグループ研究が主であり、日本国内の実際の資料に基づいた研究はほとんどされていない。

先行研究(精神保健など)における精神障害者の社会運動の理解は、その大部分が個人を社会に適応させることを目的とした集団援助技術の延長線上に位置づけられたものである。だが、精神障害者の社会運動は、個人が変わるのではなく、社会こそ変わらなければならないとし、精神保健体制の解体を求めるなど社会変革を志向するものであった。こうした事実を資料に基づき資料際に把握していくため、精神障害者の社会運動にかかわった個人を対象にインタビューをおこない、データのアーカイヴィングをする。アーカイヴィングを通じて、身体障害の領域で既に多くの蓄積がある当事者にとっての社会問題の状態の定義、当事者の社会運動の集団形成過程などを明らかにしていく。

本プロジェクトは、生存学研究センターの掲げる学問的課題群の内、【生存をめぐる現代史】に貢献する。生存学研究センターの主たる活動には、患者会・障害者団体発行の機関誌など、当事者の活動に関する資料のアーカイヴィングを行い、その蓄積をセンターの活動に反映させることと、アーカイヴを生かしつつ、障害や病をもつなどの当事者が参加する研究交流・社会連携活動を実施することがある。しかし、当事者の活動に関する資料のアーカイヴィングは、十分に取り組まれていないという実情である。そのため、障老病異の生存にかかる研究は、当センターが本格的に取り組むまでほとんどされてこなかった。その中でも精神障害の問題は、独特の政治的でセンシティブな問題を孕んでいることなどから、基礎資料となるデータの集積が進んでこなかった分野のひとつである。

本プロジェクトは、生存学研究センターの主たる活動の一環である当事者の活動に関する資料のアーカイヴィングを行なうものであり、とくに研究が進まなかった分野を対象とする点で、生存学研究センターにもたらす効果は大きい。

プロジェクト名 「精神と生存の運動」研究会
プロジェクト代表者 立岩真也
年度 2015