自閉論・ピアサポート研究会

近年、ピアサポート・ピアサポーターという概念や活動が注目を浴びつつある。障害福祉分野でも当事者グループでの実践等のボランティア活動のみならず、民間の支援機関や行政が非正規職員として雇用するケースも出てきている。

専門職による支援とピアサポートは質の異なるアプローチであり、両者に優劣はなく、車の両輪であると考えるが、いくつかの課題が生じていると考えている。

支援機関等が職員としてピアサポーターを雇用する場合、専門職の補完を目的とし、専門職の管理下におかれてしまう関係性が多い為、対等な議論をすることが難しく、当事者の本質的なニーズよりも、制度の目的が優先されてしまう事態が生じている。例えば、退院促進事業に配置されるピアサポーターは支援の途中で「退院したくない」という希望が生じた場合、上司である専門職からは「退院」をしたくなるように仕向けることを迫られるというジレンマに陥り、ピアサポートが専門家によるパターナリズムを補完してしまう事態が生じることがある。

また、逆に体系化されていないピアサポートシステムやプログラムが用いられることや、過度な専門家批判、誤った情報がもたらされること等によって、当事者の混乱や不安が増長される場合もあると考える。

更に当事者が社会福祉の専門性を身につけ、資格などを取得し、支援制度の枠組みで支援活動を行う事と、ピアサポートの混同もその混乱に拍車をかけていると考える。

本研究では、当事者視点で社会福祉の実践や専門的見地を踏まえた上で、ピアサポートの課題と大きな可能性を具体的に整理し、現行の制度等を批判的に再検討することで、「支援」という概念や制度に内包する課題を抽出し、当事者主体の「支援」を超えた専門職としてのピアサポートのあり方を模索したい。

ピアサポートという概念とその実践は、専門家が専門性の名のもとに構築してきた支援の枠組みと行政の財政的な都合の妥協の産物として提示された障害者支援制度の不備を積極的に告発し、専門家によるパターナリズムの管理下に置かれた自らの生活のあり方を、自らの手に取り戻す可能性を秘めている。しかし、その可能性について様々なピアサポートプログラム、ピアサポート活動、仕事としてのピアサポート活動の取り組みの課題を整理し、体系的に集積し、再検討することで「障害」という一般的にはネガティブな視点でとらえられがちな状態を一つの財産としてとらえ直し、専門家の視点とは別の角度からの問題提起できる概念として再構築を図っていきたいと考えている。

プロジェクト名 自閉論・ピアサポート研究会
プロジェクト代表者 立岩真也
年度 2015