労働問題・不安定生活・保証所得をめぐる国際的研究

本研究課題の目的は、大阪府と東京都に在住している母子世帯の育児の困難をめぐる重層的要因を解明し、解決方策として所得保障の在り方を検討することである。

すでに本プロジェクトは大阪府における母子世帯とその支援団体への実態調査と理論的考察に着手している。だが、次の研究段階として大阪府だけに限定した研究内容をさらに発展させるためには、日本最大の大都市圏である東京都に住む母子世帯の育児の困難性との比較分析を加えることが望ましいと考えられる。また、本来であれば、東京都在住の母子世帯に直接的にインタビュー調査やアンケート調査を行うことができれば理想的であるが、今回の研究課題は、そのような母子世帯への直接的な実態調査の予備的研究として位置づける。さらに、本研究課題は、母子世帯が直面する育児困難の重層的要因を解明しつつ、解決方策となりうるベーシック・インカムや給付付き税額控除などの所得保障に関するさまざまなバリエーションの可能性と限界を論じることを目指す。

本研究課題の射程は、母子世帯で育児と行う母親とその支援者たちが抱えるさまざまな身体的・精神的疾病を発生させる社会的決定要因の重層性を解明し、その解決方策を探ることにも及ぶものであり、本研究の予想される成果は「生存をめぐる制度・政策」の進展に大きく寄与できる。

また、母子世帯の育児の困難は標準世帯を前提にして設計された現行の社会保障の不備に由来するものであるが、本研究が挑戦する到達点は「異なる」存在として暗に陽に排除された母子世帯を社会的に包摂するための「生存をめぐる制度・政策」の設計・実施である。このことは「あるべき世界を実現する手立てを示す」生存学の核心を体現しうる。

プロジェクト名 労働問題・不安定生活・保証所得をめぐる国際的研究
プロジェクト代表者 村上潔
年度 2015