現代社会エスノグラフィ研究会

「生存学」の争点の中心である社会的な「弱者」、「少数者」とされる人びとはそのことをアイデンティティとして共同性を帯びた関係を形成することがある。そして、その関係は、当事者集団、運動体など新たなつながりを促進する可能性を備えている。さらに、それらを支える家族、支援者、周囲で活動に参与するアクション・リサーチなど、一元的な共同性を基盤としつつもより多元的な連帯による社会関係を構築するだろう。
昨年度、本研究会では、「「当事者」から多元的に広がる関係についての生存学」をテーマに、エスノグラフィの手法を活用し、特定のアイデンティティを基盤する一元的な関係が、一つの共通項を軸としながら、より緩やかで多元的に広がっていく過程を検討してきた。これまで、特定の異なるとされるアイデンティティや属性をもった人びとは、仮に同じ地域や空間に存在するとしても、一見するとつながりがないと考えられる傾向にあった。しかし、本研究会における議論の現状の結論として、つながりがないと考えられる関係群が実は部分的につながっており、そのような関係群の連なりこそが「ポスト多元的」関係であり、それはさまざまなところに存在しているのではないかという想定に至った。
そこで本年度の目的は、その「ポスト多元的」関係をみるという視点で、別々のアイデンティティ、属性に分かれた関係群が、同一の地域や空間にあり、それらが部分的につながることを見ることとしたい。そして、忘れてはならないのは、その部分的なつながりの中に、研究者が散在的にみえにくい形で関与していることである。
具体的には、京都市の京都駅南側にある「東九条」地域を拠点とするさまざまな社会活動群を中心とする部分的なつながり(つながりがあるのか否かも含めて)を考えてみることとしたい。さらに、ある特定のアイデンティティからひろがる部分的なつながりの民族誌的方法論についても検討を試みたい。

研究代表者 岸政彦
チーム名 現代社会エスノグラフィ研究会
研究課題 地域・アイデンティティを基点とするポスト多元的社会関係群に関する研究