フェミニズム研究会

今日、ヴァルネラビリティ(脆弱性/被傷性/暴力誘発性)概念は、学的に展開されている議論の重要な前提ともなっている。しかしながらその定義は多義的なままに使用されており、精査されていない。例えばリスク社会論では脆弱性はリスク要因として捉えられており、また正義論の文脈においてはヴァルネラブルな存在はカタストロフィ的状況において顕然する社会的弱者として捉えられている。さらに、ヴァルネラビリティを人間の根源的性質と見なし、ケアを必要とする根拠に置く議論もなされている。様々に展開されているヴァルネラビリティ概念をめぐる議論状況を概観し、今一度整理する必要がある。また近年、フェミニズムからもヴァルネラビリティ概念の検討が積極的に行われている。そこではヴァルネラビリティをめぐる負の意味づけ(依存や脱力、無力化、受動的な態度など)の問い直しがはかられているが(Gilson 2013)、暴力、戦争、家族、セクシュアリティにおける諸問題を「女性」の存在・視点から捉えなおしてきたフェミニズムにあって、ヴァルネラビリティの概念はいかなる可能性をもつものだろうか。本プロジェクトでは、多義的な状況を批判的に受け止め、しかしながらあえて積極的にこの概念の広がりに可能性を見出していく。ヴァルネラビリティをめぐる論点を整理し、メンバーそれぞれの主題からフェミニスト・アプローチを通してヴァルネラビリティ概念を検討する。概念をめぐる多義的状況、概念の有用性・妥当性の検討を通して、ヴァルネラビリティ概念の理論的・実践的発展をはかり、個々人の研究主題を深化させることを目的とする。

Gilson, E. (2013). The ethics of vulnerability: a feminist analysis of social life and practice. Routledge.

研究代表者 小泉義之
チーム名 フェミニズム研究会
研究課題 ヴァルネラビリティの多義性をめぐるフェミニスト・アプローチ
課題群 A:カタストロフィ/ヴァルネラビリティ