加藤有希子

ここ十年来、私は美術史畑を歩んできました。障がいやトラウマなどを抱え、生きることの意味を日々問うている方々にとっては、机上の学問かもしれません。今年から「生存学」拠点に身を置くことになった私は、自分の研究が、いかに生きることに「役に立つか」を、自問する機会を与えられています。

博士論文以来、私は、「健康」と「バランス」の表象に注目してきました。「バランスのとれた性格」、「バランスのとれた食事」などの言説は、現代では、私たちの強迫観念になっています。「健康」や「健常者」という言説は、非常に暴力的です。私はその日常的な暴力を、美術史や表象文化の立場から研究します。具体的には、「19世紀ヨーロッパでの補色調和の流行と健康概念との関係」、「20世紀のニューエイジ芸術家にみるヨガや有機食材への信奉」などを考察することから始めます。

障がい、ケア、トラウマなどを研究する方が多い「生存学」拠点において、「健康」を扱う私の研究は、コインの裏表の関係にあります。それはいわゆる「強者」が抱いている「健康であらねばならない」という恐怖心に光を当てることです。

経歴

1999年3月 早稲田大学第一文学部美術史専修卒業
2001年3月 慶應義塾大学文学研究科哲学専攻美学美術史分野修士課程修了
2001年4月 慶應義塾大学文学研究科美学美術史専攻博士課程入学
2004年8月 デューク大学大学院美術史表象文化学科博士課程入学(フルブライト)
2008年9月から12月 リール第三大学大学院留学(仏国)
2010年12月 デューク大学大学院美術史表象文化学科博士課程修了
2011年4月から 立命館大学生存学拠点ポストドクトラルフェロー、東京薬科大学非常勤講師

研究領域

美術史、表象文化論、美学、色彩論、衛生史、医療史、科学史

学位論文

  • 「ルネサンス透視図法にみる科学と芸術」、早稲田大学第一文学部、1999年3月。(学士論文)
  • 「アルベール・グレーズの造形理論──芸術の越境と一選択肢としての科学」、慶應義塾大学大学院文学研究科、2001年3月。(修士論文)
  • “Color, Hygiene, and Body Politics: French Neo-Impressionist Theories of Vision and Volition, 1870-1905”、デューク大学大学院美術史表象文化学科、2010年12月。(博士論文)

著書

  • 「ロベール・ドローネー」、『色彩用語事典』所収(共著)、日本色彩学会編、東京大学出版会、2003年3月27日、355-356頁。
  • 「キュビスムと色彩──もうひとつの物語」、前田富士男監修『色彩からみる近代美術』所収(共著)、三元社、2011年刊行予定。
  • 加藤有希子『新印象派のプラグマティズム:労働・衛生・医療』、三元社、2012年3月30日刊行

査読論文

  • 「ミクロコスモスとしての色彩環──ドローネーとグレーズによる1930年代壁画制作原理」、『美學』第54巻第2号(美学会)、2003年9月30日、56-69頁。
  • 「回転と飛躍──R・ドローネーにみる近代色彩論の一系譜」、『芸術学』第8号2004年(慶應義塾大学・三田芸術学会)、2005年3月31日(平成15年度COE大学院高度化助成研究)、3-22頁。
  • “Invitation to Unknown Pain: The Function of Traumatic Amnesia in Sophie Calle's Self-Narration” 、『平成17年度文部科学省21世紀COEプログラム研究拠点形成費補助金 <心の解明に向けての統合的方法論構築>平成17年度成果報告書』、慶應義塾大学21世紀COE人文科学研究拠点・心の統合的研究センター、2006年10月、210-225頁。
  • “Stereoscopy: Commodified Heterotopia and 'Democratic' Voyeurism” 、『平成18年度文部科学省21世紀COEプログラム研究拠点形成費補助金<心の解明に向けての統合的方法論構築>平成18年度成果報告書』、慶應義塾大学21世紀COE人文科学研究拠点・心の統合的研究センター、2007年3月、237‐246頁。
  • “Cubism in Color: An Untold History,” Aesthetics(『国際版美学』)vol. 15, 2011. 2011年5月7日、pp. 76-89.
  • 加藤有希子「芸術は生存に関われるか:エネルギー論からみるアート」『生存学vol.5』、2012年3月刊行

その他の出版物

  • 「エキゾチスムの共有展──第5回リヨン・ビエンナーレにみる<脱西欧>のゆくえ」、『形の文化誌』第8号(形の文化会)、工作舎、2001年3月25日、212-213頁。(展覧会評)
  • 「マーク・アントリフ『生産者としての芸術家──フェソ、ル・コルビュジエ、ファシストの都市計画論』の新刊紹介」、『美學』第52巻第3号(美学会)、2001年12月31日、88頁。(書評)

教育歴

  • 「ポストモダン建築」(デューク大学)
  • 「モダニズム・前衛」(デューク大学)
  • 「表象文化入門」(デューク大学)
  • 「美術史入門」(デューク大学)
  • 「ルネサンス・バロック」(デューク大学)
  • 「医療の表象文化」(デューク大学)
  • 「美術・イラストレーション」(東京薬科大学)
  • アカデミック英語研究会」(立命館大学GCOE「生存学」創成拠点)
  • 「“世界”に羽ばたけ――海外で研究をすること」(立命館大学大学院課主催で行われるレクチャー・フォーラム)

学会発表、講演

科学研究費補助金

  • 【補色調和の美学と倫理:西欧モダニストの「均衡」言説と生活様式】(研究活動スタート支援:課題番号23820070)平成23年度、24年度

所属学会

  • 美学会
  • 美術史学会
  • 国際美学会
  • アメリカ美術史学会(CAA)
  • 早稲田大学美術史学会
  • 三田芸術学会

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