甲斐更紗
今年4月に生存学創成拠点ポストドクトラルフェローに着任しました、甲斐更紗(かいさらさ)と申します。私は生まれつきのろう者であり、幼い頃から自己表現の手段はほとんど絵画や立体物造形でした。ろう学校で育ったため、手話が自分にとって欠かせない大切なことばであり、聞こえない自分が大好きです。ですが、私が大学生になって、手話や聞こえない自分を否定的に捉える多くの聞こえない仲間たちと出会ってきました。彼等の、悲痛なこころの叫び、悲惨なこころの傷と向き合う中で、カウンセリングや心理療法、心理アセスメントなどが音声言語を媒介としたものであり、聞こえない人たちへの心理的支援、聞こえない人たちを取り巻く家族への心理的支援がまったくされていない我が国の現状に唖然としました。それが、自分にとって聞こえない人たちの心理臨床に関わる分野の研究のスタートでした。「現場第一」で、ちょこちょこ動き回りながらフィールドワーク・実践を中心とした研究スタンスで、自己物語の再構築という視点から、聞こえない人たち(子どもから高齢者まで)のアイデンティティ、家族支援の研究を進めています。最近は、聞こえない人たちの心理的支援のみならず、聴覚障害当事者団体と連携しながら、障害者制度改革推進などの背景をふまえ、聞こえない人たちの言語や差別、聞こえない人たちを取り巻く社会の変化に視点をおいた研究、個人と社会の架け渡しとなることを目標としたIT支援技術による聴覚障害者支援の研究を展開させています。
この1年間は生存学創成拠点において、聾/聴覚障害に関するデータベースを構築させ、国内外に広く発信していきたいと思います。
経歴
学歴
2001年3月 | 多摩美術大学美術学部建築科 卒業 |
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2001年4月 | 国際医療福祉専門学校 精神保健福祉学科 入学 |
2002年3月 | 同校 卒業 |
2002年4月 | 兵庫教育大学大学院学校教育研究科(修士課程)学校教育専攻教育臨床心理コース 入学 |
2004年3月 | 同校 修了(修士(教育学)) |
2004年4月 | 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科(博士課程)学校教育実践学専攻学校教育臨床講座 入学 |
2008年3月 | 同校 修了 博士(学校教育学)取得(兵庫教育大学博甲第129号) |
職歴
2004年5月 | 兵庫県立神戸聾学校 非常勤講師(小学部 総合的学習の時間)(2005年3月まで) |
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2004年5月 | 兵庫県立神戸聾学校 非常勤講師(高等部 自立活動補助)(2005年3月まで) |
2004年5月 | 兵庫県立姫路聾学校 非常勤講師(スクールカウンセラー)(2007年3月まで) |
2005年5月 | 兵庫県立聴覚障害者情報センター こころの相談員(現在に至る) |
2008年6月 | 国立大学法人鹿児島大学教育学部障害児教育学科 コーチング研究員(2009年3月まで) |
2009年6月 | 国立大学法人鹿児島大学教育学部附属教育実践総合センター 研究協力員(2011年3月まで) |
2010年4月 | 国立障害者リハビリテーションセンター研究所障害福祉研究部 流動研究員(2011年3月まで) |
2011年4月 | 立命館大学生存学拠点ポストドクトラルフェロー |
研究領域
臨床心理学(聴覚障害分野)/特別支援教育学(聴覚障害分野)
学位論文
- 「ろう学校高等部生徒のアイデンティティ発達支援プログラム作成の試み」、兵庫教育大学大学院学校教育研究科、2004年3月。(修士論文)
- 「ろう学校在籍生徒のアイデンティティ発達支援プログラム開発に関する実践的研究-社会・文化的視点からの取り組み-」兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科、2008年3月。(博士論文)
著書
- 甲斐更紗・鳥越隆士、「アイデンティティ形成と「ことば」」(共著)、村瀬嘉代子編著,『聴覚障害者の心理臨床2』(共著)、日本評論社、pp97-12、2008年。
査読論文
- 甲斐更紗・鳥越隆士、「ろう学校高等部生徒のアイデンティティに関する研究」(共著)、『特殊教育学研究』44巻4号、209-217、2006年。
- 甲斐更紗・鳥越隆士、「ろう学校高等部生徒のアイデンティティ発達支援プログラム」(共著)、『特殊教育学研究』45巻3号、161-173、2007年。
学術論文、総説など
- 「大学内での講義の情報保障」、『要約筆記問題研究』第12巻、pp3-9、2001年。(論文)
- 「聴覚障害学生の心理的成長と支援について」、『兵庫教育』649巻3号、pp26-27、2005年。(随筆)
- 甲斐更紗・川口直子・鳥越隆士、「自閉的傾向のある聴覚障害児童のコミュニケーション発達支援」(共著)、『発達心理臨床研究』11巻、pp105-115、2005年。(学術論文)
- 甲斐更紗・片岡美華・雲井未歓・内田芳夫、「学生支援員の活用状況とその効果-A地区のアンケート調査より-」(共著)、『鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要』19巻、pp225-262、2009年。(報告論文)
- 「ろう学校高等部でのアイデンティティ発達支援プログラムの試行と評価」、『ろう教育科学会』51巻1号、pp1-22、2009年。(学術論文)
- 甲斐更紗・片岡美華・雲井未歓・内田芳夫、「資質向上をめざした特別支援教育教員養成の試み〜オンライン・ポートフォリオの活用を通して〜」(共著)、『鹿児島大学教育学部 教育実践研究紀要第』20巻、pp.279-286、2010年。(報告論文)
国際会議発表
- “Deaf Identity development supporting program for high-school students of deaf schools in Japan” 7th European Congress on Mental Health and Deafness(The Netherlands),2007-09-11-14
- “Identity development supporting program for high-school level students of deaf schools in Japan:Through the analysis of episodes” 4th World Congress on Mental Health and Deafness(Australia),2009-10-29-30
- “The compare to change process of mothers who is children of Cochlear Implants and not Cochlear Implants in Japan: Through an attempt to group therapy” 21st International congress on the education of the Deaf (Canada), 2010-07-18-20
国内学会、シンポジウム発表
- 甲斐更紗・鳥越隆士 「ろう学校高等部生徒のアイデンティティ発達に関する一 考察」,『ろう教育科学会第46回大会』,2004年7月
- 「ろう学校高等部生徒のアイデンティティ発達支援の試み」,『日本特殊教育学会第43回大会』,2005年9月
- 「聴覚障害生徒のアイデンティティ発達支援の過程〜プログラムを通しての内的変化〜」,『日本特殊教育学会第44回大会』,2006年9月
- 「プログラム実践によるろう学校在籍生徒のアイデンティティの変化の検討〜学年差による比較を通して〜」,『日本特殊教育学会第45回大会』,2007年9月
- 「聴覚障害者への臨床心理的地域支援の試み〜グループによる支援を通して〜」,『日本特殊教育学会第46回大会』,2008年9月
- 甲斐更紗・片岡美華・雲井未歓・内田芳夫, 「学生支援員の活用状況とその効果―A地区のアンケート調査の結果よりー」,『日本特殊教育学会第47回大会』,2009年9月
- 甲斐更紗・片岡美華・雲井未歓・内田芳夫, 「オンライン・ポートフォリオによる特別支援教育教員養成の試み」,『日本特殊教育学会第48回大会』,2010年9月
- 「聞こえにくい子どもをもつ聴者の母親の意識変化―集団療法の実践を通して-」,『日本発達心理学会第22回大会』,2011年3月26日
外部資金獲得状況
- 日本学術振興会科学研究費補助金・研究活動スタート支援 課題番号:22830133 課題名「聞こえない者のアイデンティティ発達における心理臨床的支援システム構築の基礎的研究」(2010.04〜2012.03)
- 平成22年度社会福祉助成(財団法人みずほ福祉助成財団平成22年度社会福祉助成金事業)「さして重要でない情報やインフォーマルなネットワークへの参加機会がろう者の職場環境ならびに職場定着率に及ぼす影響について」(2010.11〜2011.10)
教育歴
- 兵庫県立神戸ろう学校非常勤講師(国際理解、自立活動)
- 国立大学法人宮崎大学教育学部 非常勤講師(4コマ)「聴覚障害学生支援(ノートテイク技術)
- 都道府県の聾学校教員研修会講師
など
所属学会
- 日本心理臨床学会
- 日本特殊教育学会
- 日本発達心理学会
- 日本カウンセリング学会
- 日本集団精神療法学会
- ろう教育科学会
- 障害学会