最賃引き上げ運動と日米労使関係の現状

掲載日: 2016年06月01日English

enlearge image (to back to press x)AEQUITAS(エキタス)のデモの様子

 近年、最低賃金(最賃)への関心が高まっています。特にニューヨーク州でファストフード労働者の最賃を15ドルまで引き上げるというニュースは話題になりました。その後、カルフォルニア州も最賃を段階的に15ドルまで引き上げることを決めています。15ドルは約1700円で、日本の全国平均798円の約2倍です。このような大幅な引き上げの背景には、Fight for 15というスローガンを掲げた最賃引き上げ運動があります。

 日本も経済格差が社会問題になった2000年代前半から徐々に最賃が引き上げられ、昨年2015年の改定で東京都が907円となり、やっと900円を超える都道府県が出てきました。しかし、まだまだ低い水準にとどまっており、都市と地方との格差も広がっています。このようななか、最低賃金を1500円に引き上げることを目標としたAEQUITAS(注)のような運動組織も生まれています。

 日米の最賃引き上げ運動には、労働組合に労働者を加入させ(組織化し)、企業と労使関係を形成していくことを直接の目標としていないという共通点があります。これまで労働運動は、組織率を上げることで交渉力を高め、労働条件の引き上げを勝ち取ってきました。しかし日米両国ともに組織率が低下し、それが賃金低下の原因とされてきました。そこで労働組合と連携をしながらも、組織化を主眼に置かず最賃引き上げを求める労働運動が展開されるようになったのです。

 とはいえ、最近アメリカの運動もFight for $15 and a Unionというように、a Union(組合)をスローガンに加えるようになっています。賃金が上がることは大事ですが、いつ解雇されるか分からない、賃金未払いが起こるか分からない状態では、安心して働き、生活していくことができないからです。最賃引き上げをテーマに社会運動的に労働運動を広げていくことと同時に、労働組合本来の機能をいかに活性化させていくのかも大きな課題であり続けています。

enlearge image (to back to press x)最賃引き上げを訴えるバッヂやステッカー

 このような共通の課題を抱えた日米の労働運動の現状に関して、アメリカの労使関係に関する学会であるLabor and Employment Relations Association(LERA)の第67回総会(2015年5月28〜31日)で”Organizing Precarious Workers in Japan and the United States.”と題するセッションが行われました。

 既存の労働組合運動が停滞するなか、社会運動的な労働運動をリードしてきたのが、日本では個人加盟ユニオン(コミュニティ・ユニオン)、アメリカではワーカーズセンターです。参加した研究者は、個人加盟ユニオンやワーカーズセンターに関する研究者たちであり、私も”Organizing Young Flexible Workers in Japan.”と題する報告を行いました。セッションでは、個人加盟ユニオンやワーカーズセンターの影響力の源泉や革新的な戦略の学習過程などについて議論される一方、特に日本では既存の労働組合との協力関係が十分に築けていないなどの問題点が指摘されました。また、他の社会運動との連携が他国に比べて弱いことも日本のユニオン運動の特徴であると感じました。

 最低賃金引き上げを求めるAEQUITASには、イラク反戦以降の様々な運動、具体的にはユニオン運動や反貧困運動、反原発運動やSEALDsに関わってきた人々が集っており、そこで蓄積されてきた方法論や資源が生かされています。また街頭宣伝で各政党の政治家を呼んだり、連合・全労連・全労協というナショナルセンターの枠を超えた「5.11雇用と暮らしの底上げアクション」に参加したりするなど、これまでになかった労働運動の動きを牽引するようになっています。コミュニティ・ユニオンが誕生して約30年、多くの成果を生みだしながらも崩すことができなかった壁が、崩れる時が来るかもしれない、と運動の現場に身を置きながら感じています。

注)AEQUITAS(エキタス)はラテン語で「公正」「正義」を意味する。2015年に東京で発足し、現在AEQUITAS KYOTO、AEQUITAS TOKAIがある。
http://aequitas1500.tumblr.com/

橋口昌治

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