企画展示「放射能が降ってくる――ビキニ事件と科学者西脇安」を開催して

掲載日: 2015年12月01日English

enlearge image (to back to press x)展示会会場の全体風景

私は、人々の健康や生活の安全に関わる科学技術の歴史を研究テーマとしており、その一環として放射能の環境汚染調査の歴史に取り組んできました。現在は、原発事故の際の放射能による環境汚染に対応する原子力防災の歴史を調べています。

私は、2011年に起きた東京電力の福島原発事故後、放射能による環境汚染調査の歴史を調べるようになりました。取り組み始めて分かったことは、核関連の歴史研究は多分野にまたがる、簡単には見通せない複雑な世界だということでした。核開発や原子力政策を扱った科学史・技術史だけでなく、原水爆実験禁止、核兵器廃絶、反原発などの社会運動を扱った社会史、原爆や原子力のマス・メディア報道に関するメディア史、被爆者問題や放射線医学を扱った医学史、電力事業やエネルギー政策を扱った経済史、冷戦、軍縮、国際機関、日米関係を扱った国際政治史など、広範囲な分野に数多くの研究があることを知りました。加えて、広島・長崎の原爆(1945年)、ビキニ事件(1954年)、チェルノブイリ原発事故(1986年)のほか、核実験場となった地域住民の被曝問題や核関連施設で働く人や周辺住民の被曝問題などに関して、実態を掘り起した著作もたくさんありました。調査を進めていくにつれ、ビキニ事件は核問題を考えるにあたって非常に重要な事件だということがわかりました。当時の新聞や雑誌を読んで、ビキニ事件が当時の人々に与えた衝撃と、今回の原発事故が私たちに与えた衝撃とが重なって見えました。

そんな中で、生存学研究センター主催の企画展示「放射能が降ってくる――ビキニ事件と科学者西脇安」(以下、展示)の企画運営を担当する機会を得ました。この企画展示は、2014年10月に東京工業大学博物館で開催された「核時代を生きた科学者 西脇安」展が中核にありますが、それに加えて、本学の展示では共催者で開催場所ともなる立命館大学国際平和ミュージアムにふさわしい独自の方向性を打ちだしたいと考えました。そこで、東工大展が西脇安(1917-2011;日本の放射線生物物理学の草分け)の生涯を扱っていたのに対し、ビキニ事件を中心に据えることにしました。そこで同事件が社会に与えた影響を中心にまとめ、西脇については事件後の調査研究に関わった科学者のうちで、同事件を国外に伝えた重要人物として位置づけました。そのため、東工大展の資料に加え、東京都立第五福竜丸展示館からも資料を借用し、立命館大学でも独自のパネルを作成して構成することにしました。

enlearge image (to back to press x)展示されたガイガーカウンター、死の灰、マグロのウロコ(すべて第五福竜丸展示館所蔵)

展示の準備では、ビキニ事件後の放射能による環境汚染問題に対し、人々の社会運動と科学者の活動とが交錯し、反響しあっていく様子を描き出すことを意識しました。放射能は五感では感じられず、ガイガーカウンターなどの装置によってしか捉えることができません。このような科学技術を用い、西脇や他の科学者が放射能汚染問題について積極的に情報発信したことで、人々の運動が盛り上がりました。またその一方で、西脇は人々の支援を受けて、ヨーロッパに事件の実相を伝えに行き、その旅は核兵器廃絶を求める世界的な科学者運動が展開する契機となりました。

翻って現代は、素人でも科学情報を収集し、放射線の簡易測定装置を入手することも可能になりました。科学や科学者を単純に賞賛する素朴な見方はもはやありません。しかし、人々や社会が科学的知識を求めることに変わりはありません。私は今後の研究を、人々と科学者、あるいは科学技術と社会の関わり方の変化の有無を見据えながら進めていきたいと考えています。今回の企画展示に関わったことは、今後の私の研究に一つの軸を与えてくれました。

なお、展示の関連企画として、東工大展の中心を担われた同大名誉教授の山崎正勝先生を迎えて講演会を開催しました。最後になりましたが、貴重な資料の貸出も含め、東京工業大学博物館と東京都立第五福竜丸展示館には多大なご協力をいただきましたことに、深謝いたします。展示の開催経緯については、『生存学』第9号に掲載予定です。

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