ブレイン‐マシン・インタフェースによる意思伝達装置の開発研究

掲載日: 2015年07月01日English

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サイバニクススイッチの試験的運用をALS患者の岡部さんに依頼し、研究班一同で訪問した時の記念写真

大学院で研究を志すまでは、母の介護で外出さえままならない生活を送っていました。母は1995年夏にALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis、筋萎縮性側索硬化症)の確定診断を受け、96年2月から在宅人工呼吸療法を始めました。2000年に介護保険が始まった時は、私も少しは楽になるのかと思ったのです。でも期待に反して介護保険は使いづらいものでした。気管吸引や経管栄養などの医療的ケアをヘルパーに依頼してはならないというのですから、家族の介護負担は軽減されません。寝たきりの母の傍らで、呼吸器を外してあげたい、自分も楽になりたいとの思いが芽生えてきたちょうどその頃、オランダで安楽死が法制化されました。日本でも安楽死法が必要なのではないかと調べていて、立命館大学大学院先端総合学術研究科を知り、先生方の生きるための学究・思想(後の「生存学」)に魅かれて、40歳にしてアカデミアを目指すことにいたしました。ALSによって意思疎通が全くできなくなってしまった母の傍らで、いつか必ず意思を読み取る機械を作ってもらうと誓って2004年の春、大学院に進学しました。

進学当初の研究計画に「人体と機械の接続と融合に関する理論と実践」と書き、重度障害を越えて生き延びるためのあらゆる学問分野の研究者との交流を目指しました。そうして出会ったのがサイバニクス研究です。サイバニクスとは、脳神経科学・運動生理学・ロボット工学・IT技術・再生医療などが融合・複合した新しい学術分野で、筑波大学の山海嘉之氏が提唱し命名しました。

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ALS/MND国際同盟会議で、サイバニクススイッチの製品化について報告したときの写真

現在、山海氏がCEOを務めるサイバーダイン株式会社(CYBERDYNE Inc.)との共同で、神経内科医の中島孝氏(国立病院機構新潟病院副院長)がリーダーを務める厚労省の研究プロジェクト(i)に分担研究者として参画しています。そこで製品開発に取り組んできた「サイバニクススイッチ(仮)は、患者が指を動かすイメージをするだけで入力スイッチのオンオフの切り替えができるというものです。筋肉が委縮するALS患者は、透明文字盤や意思伝達装置等によってコミュニケーションをとりますが、病気の進行に伴いそういったコミュニケーション方法が一切使えなくなってしまう人がいます。いわゆる「完全なる閉じ込め症候群」(TLS: Totally Locked-in State)とも呼ばれるそのような状態に至る恐怖から、事前指示書による呼吸器の取り外しの法整備を望む当事者の声もありました。倫理的にも重要課題であるとして、当事者や尊厳死運動家らも交えて、「死ぬ権利」について議論してきましたが、もしTLSに至ったとしても考えた文字を即座にPC画面に打ち込むことができれば、その時の意思を伝えることはできますし、生きる希望につながることもあるでしょう。リビングウィルの在り方も、事前指示書による治療停止のタイミングも問われるようになるでしょう。指を動かすイメージだけでコミュニケーションが可能になる「ブレインマシン・インタフェースによる意思伝達装置」こそ、今は亡き母に誓った夢の機械でしたが、近い将来、製品化されれば重度身体障害で意思疎通が難しい人の自律と尊厳を守るツールにもなりえます。

今後もサイバニクス分野の研究者に働きかけ、患者のニーズを伝えていきます。そして、試作品を患者家族の元に届け、患者側の評価とデータを研究者にフィードバックするリサーチと、それに伴い必要になる政策研究を喜びと誇りをもって続けていきます。

i「希少難治性脳・脊髄疾患の歩行障害に対する生体電位駆動型下肢装着型補助ロボット(HAL-HN01)を用いた新たな治療実用化のための多施設共同医師主導治験の実施研究班」

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