韓国・ソウル近郊に住むフィリピン人移住者たちの社会空間

掲載日: 2015年01月01日English

enlearge image (to back to press x)*
カトリック教会前のフィリピン雑貨露店

フィリピンは世界最大の移民送り出し国であり、フィリピン国籍者の約1割が海外で生活しています。現在、私は、韓国・ソウル近郊において、フィリピン人移住者が形成する社会空間について調査しています。フィリピン人たちの集まりや活動への参与観察、移住経験をインタビューするなど、文化人類学的方法により研究しています。私がこの研究をはじめたきっかけは2つあります。1つは、祖父母が大日本帝国の旧植民地出身で外国人だったこと、もう1つは、大学院入学前にフィリピン人からの相談が多い外国人支援団体にボランティアとして関わったことです。そうするなかで、過去・現在のフィリピン人国際移住者の生活を知りたいという好奇心が芽生え、まず大学院では日本在住のフィリピン人移住者について研究しました。

立命館大学の専門研究員に着任した2012年以降、日本での調査経験を活かし、韓国・ソウルでの調査を始めました。日本と同じく韓国においても、1980年代以降、フィリピン人出稼ぎ労働者及び、女性結婚移民が増加し続けています。韓国では期間契約による外国人労働者受入制度が設けられ、韓国人と結婚した外国人配偶者は、2~3年の居住を経て、韓国籍を取得できます。2012年にはフィリピン出身の結婚移民である女性が国会議員になりました。しかし、労働者への賃金未払いなどの不当行為や、母子家庭の経済的不安定など依然として多くの問題があります。

フィリピン人移住者をめぐって社会が大きく変化しつつある韓国において、私はソウル特別市・ヘファ(혜화)にあるカトリック教会付近の社会空間に注目しています。フィリピン国籍者の約8割がカトリックを信仰しています。世界中の多くのカトリック教会には、フィリピン人移住者が集まります。韓国のカトリック教会でも、日曜日午後、フィリピンの主要言語の1つであるタガログ語ミサが行われ、付近には数千人のフィリピン人たちがソウル市内および近郊から集まります。教会にはフィリピン人グループがあり、教会の前には、日曜日に限定して、フィリピン料理や雑貨の露店が開かれます。また、付近の飲み屋はフィリピン人たちで混雑します。

enlearge image (to back to press x)*
タガログ語ミサに集まるフィリピン人たち

調査開始当初、私には、韓国在住フィリピン人移住者の知り合いがほとんどおらず、数少ない知人である韓国在住の日本人・フィリピン人研究者から情報を集めました。その後、フィリピン人グループの集まりに参加し、露店に頻繁に行くことで、ヘファに集まる人びと、露店主のフィリピン人女性ならびにその夫(韓国人男性)たちと交流するようになりました。今では、日本帰国中でも、この様な人びとと連絡を取り合い、韓国滞在に合わせて、彼らの生活状況や社会関係などを調査しています。また、フィリピン人たちは、夫(韓国人男性)や家族、隣人、教会の韓国人信徒、友人など多くの韓国人と深く関係しています。調査では主にタガログ語を使用しています。現在の私の課題は、フィリピン人移住者と関わる韓国人たちとの韓国語での会話です。最近では、韓国人の夫たちにも声をかけられ、片言の韓国語で意思疎通を図っています。韓国でのフィリピン人の社会空間はフィリピン人だけではなく、周囲の韓国人によっても形成されています。そのため、フィリピン人たちの社会空間を理解するには、このような韓国人たちとも関わる必要があります。今後の調査では、移住経験が異なるフィリピン人男性期間労働者たちと女性結婚移民、さらに周囲の韓国人たちとの社会関係、また、韓国生まれの、韓国人とフィリピン人の間に生まれた、二世たちのフィリピン文化継承などについて注目します。韓国での調査は半ばに差しかかり、今後もしばらく続ける予定です。

永田貴聖

arsvi.com 「生存学」創生拠点

書庫利用案内

「生存学」創生拠点パンフレットダウンロードページへ

「生存学奨励賞」

立命館大学大学院先端総合学術研究科

立命館大学人間科学研究所

立命館大学

ボーフム障害学センター(BODYS)

フェイスブック:立命館大学生存学研究所

生存学研究所のTwitterを読む