小規模事業所が生き残るために――訪問介護事業の経営・制度研究

掲載日: 2014年12月01日English

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私は、訪問介護事業所にまつわる制度や人材、経営について事業所運営者からの視点をもって研究をしています。

訪問介護事業所について研究しようと考えた理由は、亡くなった先妻が障害を持っており実際に支援費制度や障害者自立支援を利用して訪問介護事業所のサービスを受けていた経験からです。その際にさまざまな制度上の矛盾があり、それらが経営にどのような影響をあたえ、どのような課題を生み出すのかと考えていました。実際に経営をしてみて、大資本の介護事業所は拡大路線を突き進み、小資本の介護事業所はその事業所を維持するだけで精一杯であるという現実に当たりました。また、大手の介護事業所は制度上の決まり切ったサービスを提供するだけになり、訪問介護の際に融通が利かず利用しにくいという声があります。それに対して、小規模の事業所はさまざまな点において融通が利きやすい。サービス内容に関しては変わることはないですが、日時や急な依頼に対しては機動性を生かしやすいという利点があります。

しかし、資本力のある事業所がどんどんと肥大化していき、小規模の介護事業所は駆逐されていくという現実があります。小規模な訪問介護事業所は、必要がないということではありません。そうなったときに、どのようにすれば小規模な介護事業所が生き残っていけるのかが研究の課題になってきました。

小規模な介護事業所を考えるうえでは、「地域」という側面が重要だと考えています。地域という側面について、制度の根拠となる法律にかかわる運営と、地域間格差という研究課題があると考えています。

まず、訪問介護に関する法律と実際の運営について次のように考えています。訪問介護事業所について説明すると、制度的に大きく二種類のものに分けられます。一つ目は、高齢者介護(介護保険法による制度。以下、介護保険とする。)を目的にしたもの。二つ目は、障害者介助(障害者総合福祉法による制度。以下、総合福祉法とする。)を目的にしたものです。

訪問介護事業所の業務内容としては、身体介護(身体にかかわる介護)・家事援助(家事や掃除等の家庭内のさまざまな業務)・重度訪問介護(おもに障害者を対象としたサービスで生活にかかわるすべての介助)・同行援護(視覚障害者にかかる支援を目的とした介助)・移動支援(移動にかかる介助)などに分類されます。身体介護と家事援助は介護保険・総合福祉法ともに共通したサービスになり、国が担っています。残りの重度訪問介護・同行援護・移動支援のサービスは、地域支援事業といわれ都道府県や市町村が担う事業とされています。

高齢者に対する介護と障害者に対する介助は違うといいます。たしかに、できなくなったことを助けること(つまり型にはまった範囲の手助け)が主体になる介護とできないことを少し手助けすること(型にはまったものではなく障害者の望むあらゆる手助け)によって生きやすくしていく介助では違いがあります。決定的な違いを言えば、介助では利用者(障害者)が望むこと、趣味の用事であるとか、コンサートに行くことなどもできます。つまり、利用者が健常者と同じように自立した生活を営み行動することができるのです。地域において運営される小規模な介護事業所において、このような自立生活のこまやかな支援は重要な意味があると考えています。そしてこの部分が疲弊するような制度では継続的な支援が行き詰ることになると考えています。

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もうひとつの研究課題として、地域間格差の問題があります。私が事業を営む神戸市においても、受給者が集中しているところがあります。たとえば、介護保険では中央区・兵庫区・長田区になり、総合福祉法では長田区・須磨区になります。中央区・兵庫区は、昔から住んでいる住民が高齢化したものと考えられます。長田区・須磨区にはそのような地域もありますが、長田区は震災の影響で住民の流動がみられますし、須磨区は障害者受給がはるかに高い比率になっています。長田区・須磨区は支給時間が多く取れると事業者間でも、障害者同士の話でも聞きます。実際に、亡くなった先妻は須磨区に住んでいて、受給基準の限界まで受給していました。このように地域によって格差が出てきているのが事実です。さらに言えば、地域支援事業とされているヘルパー派遣に関しては地域の自治体の裁量によるものが大きく、大都市圏の自治体と、これといった産業をもたない地方にある自治体とでは予算に限度が存在するのでおのずから支給される時間数や単位数が限られるようになってくる。ですから、自立生活を送っている障害者は、給付を受けやすい大都市圏に住んでいることが多いです。

そのことを知らない人たちは、格差に甘んじた生活を送っています。このような格差があってはならないと考えています。このような状況を打破して、今存在しえている課題を乗り越えて、高齢者や障害者がより生きやすい地域社会にしていくために小規模な介護事業所が担うべきことは何かということを今後の研究課題として考えていきたいです。

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