現在の韓国におけるALS関連状況―韓国ALS協会学術大会に参加して
私は、ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis、筋萎縮性側索硬化症)の人を介護する家族の困難と、ALSの人が利用できる支援制度との関係性について総合的な観点を得るために、日韓の状況を照らし合わせて研究しています。
ALSとは、進行性難病であり、筋肉機能の低下によって身体障害、言語障害、呼吸障害をもつようになり、初期の段階から24時間介護が必要になるといわれている病気です。その当事者は、一般的には「ALS患者」と呼ばれます。しかし、私はあえて「ALSの人」という言葉を選択して、研究上用いています。その理由は、ALSの人は医療的なニーズをもつ患者であると同時に、生活の支援のニーズももっているため、「患者」という表現では生活支援の側面が見えにくくなると思っているからです。
私は、ALSをめぐる韓国の状況を把握するために、2014年4月27日、韓国で行われた「韓国ALS協会学術大会・定期総会」に参加してきました。発表者はすべて韓国で多数のALSの人たちを診察している医師でした。報告では、「ALSの人の嚥下(飲み込み)障害と呼吸管理」と「ALSの治療と展望」という発表がありました。前者の報告では、飲み込みと呼吸の状態を病気の初期からきちんと管理すべきであるという指摘と、人工呼吸器の最新情報に関する紹介がありました。後者の報告では、世界的なALSの治療法に関する臨床実験の現状が紹介されました。今回で14回目になるこの大会では、ALSの人と家族に向けた医師による介護の方法、治療法開発に関する報告が行われてきました。
日本の場合、ALSと診断された後、当事者とその家族は、人工呼吸器をつけるかどうかを聞かれます。しかし韓国ではこのような手続がありません。私は、そのことに関する医者の意見が気になりました。私は、休憩時間を利用して、ある医師に「呼吸器をつけない選択をする人も世界にはいるらしいのですが、それに関してどう思いますか?」と質問しました。その答えは、「今回韓国で船が沈没したでしょう? 私はそれがいいたとえになると思います。その人たちが暗闇の中で、呼吸もできずどれだけ苦しかったんだろうと思うと、呼吸器は必ず付けるべきだと思います」というものでした。この答えは、呼吸器に関する韓国の人々の認識をそのまま表している答えだと思います。この答えの認識には、家族の介護が前提にされています。なぜなら、韓国の福祉制度上、病院に長期入院できない場合は、呼吸器を使用するALSの人の独居は不可能であるからです。こうした条件をふまえれば、介護を強いられている家族の負担を軽減できる支援制度の構築について研究することには意義がある、と私は思っています。
大会では、私にも発言機会があり、自分の研究も紹介しました。私は、①家族の介護負担の度合いが高いこと、②介護支援制度があっても ALSの人の介護をヘルパーが断る場合も多いこと、③身体障害が進行するALSの人の意思伝達を補助する機器の無償支給の必要性、④介護者の増加の可能性について話しました。家族と介護の問題については、ALSの人を家族にもつ人のなかには相槌を打ってくれる人もおり、そのあとに行ったインタビュー調査では、ヘルパーと家族との関係構築が難しいということを再確認することができました。また、意思伝達装置については、韓国国立リハビリ院から、BMI(Brain Machine Interface:脳の神経信号を解析して外部装置をコントロールできるようにする技術)に関する研究が始まり、その需要調査のためにALSの人への呼びかけがあったことが紹介されました。今後、ALSの人の意思伝達装置に関しても様々な試みが行われるだろうと期待を抱きました。
私にとって今回の大会は、韓国の医療、介護、意思伝達装置開発などの分野で最新情報を得られた貴重な機会になりました。また同時に、研究者として、ALSの人が生の最後の瞬間まで家族と人らしく、また家族が介護を強いられることなく生きることができる社会を目指して研究すべきだということも痛感しました。